出来る事と出来ない事とというのはあるものですので
聞いてないって何。
いや、確かにまったく聞いてないから間違える、それはわかる。
納得だ。
そして自由人は人の話をあんまり聞かない生き物である。
周知の事実だ。
だがしかし、それでは全く持って会話が成立しないというパニックが起こらないのはなぜだという疑問が解決されない。
聞いてみた。
すると。
「仕込んだんです」
魔王は仕込まれていた。
「まさかの調教」
どうやってしつけたのだろう、人の話を聞かないという不治の病を患っているというのに、それは難しいのではないだろうか。
が。
「ミコト殿が仕込まれたのです」
答えは簡単だった。
「ミコトさんですか」
「ミコト様と出会うまでは、本当に何にも話を聞いて下さらないので、我らも苦労に苦労を重ねて疲弊していたのです」
ファルシオの目は、死んでいた。
お疲れさまです。
ていうかヤシロは齢七百に届こうかという爺だ。
そんなヤシロに付き合って、外見幼女な側近・アスタロトに至っては百五十年とかいう事実が暴露されている今日この頃。
そしてミコトとヤシロが出会ったのはたかだか十数年前だ。
そう、たかだか十数年前なのだ。
なのにミコトと出会うまで魔王陛下は人の話を聞かなかったという事ですか、そうですか。
本当にお疲れさまですっ!
「ミコト殿と話が成立しているのを見て一瞬殺意がわきましたがの、それよりもミコト殿を通して政務を進めようとしたのです」
「しかし、ミコト様にそのような雑事に手を貸す義理などありませんからね」
「でも、私たちもこの機会を逃すということはできなかったであります」
だから、と三人は微笑んだ。
怖い、微笑みだった。
「ミコト殿はそれが煩わしかったのでしょうな。けれど我らも必死」
「三人と一人。そして、この場合非があったのは陛下でしたから」
にこにこ、にっこり。
ガイゼウスとファルシオの笑顔は途切れない。
……うん。
「ミコトさんは、何を?」
騎士団長は聞いてみた。
すると、無表情がデフォルトの外見幼女は、それはそれは美しい笑みを浮かべた。
「『お前の部下が面倒くせえから、近寄るな』」
爽やかな、歌うような声だった。
「「「「……あー……」」」」
接近禁止令出ちゃいましたか。
それはショックだろう。
信者には、衝撃だろう。
「だからこそ、魔王陛下も御考えになられたのですか?」
乾いた笑いで、確認する。
「「「はいっ!」」」
三人の声は、弾んでいた。
が。
「けれど名前は?」
聞いた瞬間。
「「「そんな大層なことを陛下に求めるのは愚か者のすることです」」」
真顔になって言いかえされた。
その考えは全面的に同意いたします。