駄目なんです
話を戻そう。
今の間も、白と銀と緑と黄と紅の目に鮮やかな五人の客人から足蹴にされているヤシロ。
……足蹴?
いや、うん、確かに先ほどまでは足蹴にされていた、うん。
でも今は足蹴っていうか踏み台っていうか、雪男さんは頭の上、ユニコーンさんはさらにその上、黄龍さんは伸ばした両腕に寝そべって、ゴリマッチョ×2がうまいことバランスを取りながらそんなヤシロの両手の先に立っていらっしゃいます。
どうしてそうなった。
曲芸か。
なお、ゴリマッチョ(着衣)が右手、ゴリマッチョ(半裸)が左手です。
「重い重い重いもげる!」
そんな叫びをヤシロは上げているけれど誰一人本気にとっていないのは明白で、ゴリマッチョ×2はその場でジャンピングを楽しんでいる。
頭の上のお二人はそこでお昼寝を始めている。
腕に寝そべる黄龍さんは実は龍形態になっているのだが、だんだんとその姿を大きくして重量を増やすという試みに挑戦中だ。
楽しそうで何よりだと思う。
「飛ぶな! 寝るな! 重さを増やすなああっ!」
楽しそうで、何よりだと思うよ。
それよりも。
「えっと、結局あれですか。魔王陛下がああいう感じであれだから、アリさんたちはああなった、と」
オブラートに包んでみた。
すると三人は口々に。
「まあ、そうですな。彼らと親交を持つようになったのはミコト殿たちと出会った後でして、まだ十年ほどしかたっておりませんのでな」
「あと十年か二十年か」
「少なくとも百年はかからずに諦めてくださるであります」
言って、深く頷いた。
騎士団長は叫んだ。
「諦めちゃう未来が確定している!」
ヤシロが名前を記憶してくれるという分岐は存在しませんかそうですか。
というか。
「そもそも、なぜ名前をああも聞き間違えるので?」
基本、ヤシロとの会話は形の上では成立しているような気がする。
実態がどうであれ。
まったくもって話が通じない、というわけではない。
それはすなわちこちらの言葉をきちんと理解しているということで、つまりは名前を提示すればそれだって言語として耳に届いているはずなのだ。
それなのに何度言っても欠片もかすらない頓珍漢ぶりはどうしたことか。
騎士団長の名前はジーノ・アレドアであり、ミケでもなければタマでもマイクでもアレキサンダーでもないしもちろんポチでもない。
まさか本当に重篤な呪いにでもかかっているのか。
「陛下はですね、」
ファルシオが重々しく言い出した。
「我らが主君、魔王陛下・ヤシロさまはですね……」
ごくり、騎士団長たちは息をのんで顔を近づける。
そして。
「陛下は……、陛下は……っ!」
ヤシロはっ!?
「人の話を全く聞いておられないんですっ!」
それは駄目なやつだ。