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良好な人間関係への第一歩です


 好々爺の微笑みでガイゼウスは言った。

 ヤシロがアリたち五人に嫌われているのは、ヤシロが彼らの名前を覚えられないからなのだと。


 なるほど意味が分からない。


 騎士団長たちは揃ってこれでもかと怪訝な顔をした。

 そう、眉間に皺をよせ瞳は訝し気に細められ、口は小さく懐疑を含んで吐息を漏らす。

『納得がいかない顔』の見本のようである。


 なぜそんな顔になるのか? 理由は非常に単純だ。


 ――騎士団長たちは痛いほどに理解している、ヤシロどころかミコトからアマネまで自由人という生き物はすべからく人の名前を呼ばないという事実を。


 まあ、呼ばない理由はそれぞれだ。


 例えば黒の自由人・ミコトは他者からの愛情表現による無意識における区別だ。本能ともいう。これはもはやそういうものであると理解し諦めるしか方法は残されていない。無意識に改善の余地などないのである。


 そして金の自由人・スラギはそんなミコトを基準にしてしか覚える気がない。いっそ清々しいミコト至上主義である。スラギという人物を多少なりとも知っているならば「なるほど」としか感想をもらせない。ぶれない重苦しい愛にいっそ感動である。


 そんでもって赤茶の自由人・アマネは覚えているけど呼ぶ気がない。これは逆にミコトやスラギよりも腹が立つかもしれない。覚えているなら呼べ。そう思う。しかし別に彼に悪意はないようだ。呼びやすいからそう呼ぶ、恐らくはそれだけだろう。なぜならば彼が意気投合した魔国宰相・ガイゼウスの呼称は「ゼっちゃん」である。なんでそうなったと盛大に異議を申し立てたいがアマネの中では何も問題はないらしいからそういうものなのであろう。気にするだけ時間の無駄だ。


 で。


 此処で話を白の自由人・ヤシロに戻そう。


 騎士団長たちは彼にも勿論名前を呼ばれたことなどない。「お前」とか「貴様」が精々だ。そういうものだと思っていたから一度も気にしていなかった。ガイゼウス達のことも「宰相」とか役職呼びだし、例にもれずヤシロも他人の名前を覚える気などさらさらないのであろうと納得していた。


 ……なのに。


 まさかここでそんな、自由人との付き合いにおいて非常に初歩的な問題が引っかかっているとは思わなかったし、やっぱりなんでそれで「ヤシロだけ」?


 わからなかった。


 しかし、騎士団長たちが分からなかったことがガイゼウス達にはわかったのであろう。宰相・近衛隊長・側近は顔を見合わせて苦く笑う。


「……陛下の場合は、ミコト様たちとは少々ちがうのですよ」


 苦労がにじみ出る、ファルシオの言葉だった。

 しかしそれだけでは抽象的すぎてよくわからない。瞬きをする。……と、側近幼女・アスタロトが動いた。


「実際聞いた方が早いであります。――陛下」


 その言葉の調子は穏やかだった。

 しかし幼女の行動は穏やかじゃなかった。

 なぜならアスタロト、どこからともなく取り出したバッドをブン投げた。


 なぜ投げた。


 騎士団長たちは目を見開いて硬直した。

 しかしバッドは未だゴリマッチョ(着衣)の手の中でプラプラしていたヤシロを的確にとらえて吹き飛ばした。

 ヤシロは見事先ほど己で作成した陥没の中にリターンして痙攣した。

 そのすべてを騎士団長たちは目で追っていた。


 ホームラン王な幼女は投手の才能にもあふれているようだ。


 あまりに華麗な技に思わず拍手を贈った騎士団長たちである。

 優雅にアスタロトが一礼した。


 イマココだ。


「いたい!」


 勿論ヤシロは元気に飛び起きた。

 頑丈で何よりである。


 しかしアスタロトはさらにそんなヤシロに平然と、絶賛説教中であったハベリが抗議しようとしたのをまあまあ、と軽く宥めつつ近づく。


 そして。


「陛下」

「なんだ?」

「……ユースウェル王国友好使節団の、騎士団長殿の御名前でありますが、覚えているでありますか?」


 非常に真っ直ぐな、問いであった。

 騎士団長たちの会話など聞こえていなかったであろうヤシロはきょとんとしている。当り前だ、何の脈絡もない。

 しかし、その場の全員がヤシロの答えに注目していることはさすがに感じたのであろう。

 ヤシロは困惑しながらも、口を開いた。その答えは。







「……ミケだったな」






 違う。






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