元凶で原因で救世主です
逃げるすべは見いだせなかった。
騎士団長たちは人生の終焉を悟った。
そう、それはそれは、敬虔な信徒の如く、深い深い絶望と諦めをにじませていた。
――――――――――が。
「……おい、うるせえぞ」
キイ、と開かれた扉の向こうから、突如刺した光、響いた声。
そうして『神』は現れる。
そのもの、黒髪に紺色の瞳、整いすぎた硬質な美貌は無表情に近いがわずかに眉を寄せ器用に最大限の不快を表す。
つまりはミコトさんだった。
地獄に仏、カオスに神である。
そんな彼は。
「糞ボケ共が、少しは静かに出来ねえのか。ねじるぞ」
口が悪かった。
ちなみに何をねじられるんだろう。
口ですか? 命ですか? 魂ですか?
ミコトさんならすべて可能に思えてくるのはなぜだろう。
ともかくも。
「あ、ミコト~。今ねえ、ちょっとお仕置きしてたんだよ~」
「悪かったなあ、すぐ終わらせる」
ミコトを認めた瞬間輝きを増した金と赤茶の自由人。
恐怖の微笑みは依然そのままのはずなのに心からの笑みに見えるのはミコト効果なのであろうか、いったいどこが変化したかもわからないのに彼らも彼等で器用なことである。
自由人とは些細な動きで感情を最大限に現すことに長けた生き物なのであろうか。
いらない技術である。
ともあれ。
「ミ、ミコトっ」
「……ミコト様、」
「ミコト殿……」
「ミコト様……」
「ミコトさん」
「ミコトさん」
「ミコトさん」
「ミコトさん」
輪唱されるミコトの名前。
すがるような八対の眸。
そんな声と言葉を受けし、呼ばれた本人たるミコトからは。
「…………」
心底面倒臭そうな表情と共にとても愚かなものを見る視線をいただきました。
騎士団長たちは絶望する。
ミコトは言った。
「仕置きが何だか知らねえし、」
騎士団長たちは、なお深く絶望する。
スラギとアマネはにこにこしている。
ミコトはさらに。
「そんなもんどうでもいい」
騎士団長たちは、絶望に沈む。
スラギとアマネはにこにこしている。
此処に神はいなかった。
死はすでに確定した――――と、おもわれた。
しかし。
「そんなことより、俺はこいつらに用がある。来い」
ばっと残像を遺す勢いでしおれた八人は復活した。
ミコトの背後から後光が射した気がする。
選択権は相変わらず存在しないのねとかそんなことは気にならない、スラギとアマネから逃がしてくれるのならばどこまでも。
「「「「「「「「イエス! サー!」」」」」」」」
八人の声は揃った。
生き生きとしていた。
スラギとアマネは口とがらせた。
形勢逆転、鶴の一声。
――が。
「ヤシロは邪魔だ。来るな」
白の自由人は、その一言と共に崩れ落ち、絶望に一人染まりながら微笑みを取り戻した金と赤茶の自由人に、囚われた。
騎士団長たちは――――――尊い犠牲にただ祈りをささげたのだった。