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彼等です


 ミコトがまさかの救世主になるっていったい何がどうなってそうなったんだ。


 たいへん自由な感じですべてを破壊することは気まぐれにある。そして結果それが誰かの助けになることもあるだろう。


 だがしかし魔族の国の救世主ってなんだ。

 そもそも救われなければならないようなどんな厄災が起った。


 自由人か。自由人なのか。


 騎士団長たちは胡乱な目で見た。

 ヤシロは言った。


「まあそれも、私とスラギの喧嘩が始まりなのだが」


 自由人だった。

 やっぱり原因は自由人だった。


 そして喧嘩ごときで自国を破滅の淵に追い込んでどうするのだヤシロよ。

 お前はそれでも一国の君主か。


 騎士団長たちの目線は白くなった。

 しかしあっけらかんとヤシロは続ける。


「きっかけはなあ、よくは覚えておらん。まあ、些細なことだったのだろうな」


 懐かしい思い出のように、しみじみと。


 忘れんな。


 ていうか忘れるほど些細なきっかけがなんでそんな驚きの拡大成長を遂げて魔都を危機に陥れているんだ。

 そしてそれは懐かしのメモリアルだったのかまさかである。


「まあ、ミコトのご飯を多く食べたとか、ミコトに笑いかけてもらったとか、ミコトに頼みごとをされたとか、ミコトに優しくされたとか、そんな感じだ」


 全部ミコトさんじゃないですか。


 何そのミコトに始まってミコトに終わる感じ。


 ていうかあれだな、ミコトとスラギがかかわっているならば当然アマネもいたのだろうし、その喧嘩は魔族の方々を大いに巻き込んだらしいことが察せられるので……あれだ。


 ヤシロが人間大陸にて奇跡の自由人集結というエンカウントを果たした後、ちょいちょい行き来してたんだね、ミコトたち。転移魔法かな、軽々だったんだね。


 考えないけど。この長い長い修行の時間にも等しい数か月が無駄だったなんて考えないけど。


 いや、置いておこう。


 それよりもだ。話を聞いていて思ったことがある。小さな引っ掛かり。

 騎士団長たちは首をかしげるが、その間も話は続く。


「そんな感じでミコトを巡って私とスラギが喧嘩になってな、ちょっと……あれだ。やりすぎた」


 ヤシロは笑う。


「はっはっは、あんまりやらかして、ミコトが生態系を維持しておきたかった動物や植物を絶滅の危機に追いやったらしくてなあ、殴られた挙句正座だった。あれはきつかったな。そしてまあ、我が国民ももちろん巻き込まれてけがをしたものだから、それを薬の改良の成果を試しつつ全部ミコトが治療してな。こうなったのだ」


 全然笑い事じゃないと思う。


 生態系絶滅させる勢いってどんだけ。些細なきっかけが何でそんなことになるの。

 そして暴れる魔王とスラギを軽々と制圧してはばからないミコトさんとは。


 いやうん、あれだ、ミコトの邪魔をしたならばそれはそれは冷ややかに恐ろしく、ミコト様はお怒りになられたのでしょうけれども。解ります。


 喧嘩した当人たちも当人たちならそれを止めたミコトもミコトである。


 まあ魔都の魔族たちが魔王に苦笑してミコトを信仰する理由は痛いほどわかったけど。命の恩人だもの、感謝するよね。しかもミコトさんだもの、ああなるよね。


 でもだ。


 なんか……ほら、こう、……うん。騎士団長たちは目を見合わせて確認し合う。そしてそれに返って来たのはお互いの肯定だった。

 だって、やっぱりどことなく、そこはかとなく、聞き覚えがあったのだ。ヤシロの話に。


 すう、と冷たい汗が背筋を伝う。

 脳裏に浮かぶのは、気の好いレモンイエローだ。


(……それって、)


 そう、もうずいぶん前のようで意外とそこまで時間はたっていない懐かしのお人好しなレモンイエローな鬼の宿主。

 彼から聞いた、お話。

 魔王が昔よりましになった、そのきっかけ。


 ――『何年だったか前のことな、魔王様がまあまたなんかいろいろあってみたいで、どこかの誰かとすっげえ本気の戦いを王都でおっぱじめてさあ』


 宿主の声が、騎士団長たちの脳内でリピートされる。

 鮮明な声である。


 ――『そこに現れたのが例の『人間』よ! その菩薩のごとき慈悲で、魔王様の争いを穏便に止めただけでなく、既に被害が出ていた王都の住人全員のけがの手当てまでしてくれたっていうんだ!』


 そう。

 宿主は言っていた。

 魔王に戦いを吹っ掛けたどこかの誰かがいたのだと。

 そしてその戦いを止めて、消し炭になる所だった魔大陸を救った救世主がいたのだと。

 あの時一瞬頭をかすめながらも全力で否定した可能性。



 自由人よ、お前らか。





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