魂の叫びです
確かにそれは、『暴動』だった。
――騎士団長たちは現在、ヤシロたちに連れられて城下を見渡せるテラスに来ていた。
そして見下ろす、そこからの光景。
ていうか、声。
『ミコト様―! ミコト様―!』
『お姿をお見せください!』
『お声を! お声だけでも!』
『私を罵ってくだされー!』
『ミコト様ああああああああああ!』
一部、若干おかしい気もしたけれどとにかく鳴りやまないミコトコール。
そして頑なに敬称は『様』である。
ミコトよ、ここでいったい何をした。
ものすごくカラフルな集団が、世界樹の城に詰め掛けて、これでもかと声を張り上げて足を踏み鳴らし、地鳴りっていうか地響きっていうか軽く天災じみている。
ていうか何気に騎士団長たちがいる場所は地上数百メートルとかいう高度だったりするのだけれどもそれでも鮮明に耳に届く声。
魔族の声帯はどうなっているのか。
なにこれ恐い。
もはや極彩色の街並みに極彩色の方々で目がちかちかしてきた騎士団長たちである。
しかしそれでも声は響く。
『ミコトざばああああああああああああ!』
『どうかそのおみ足で踏みにじってくださいいいいい』
『私たちの心を受け取ってー!』
『ミコト様―!』
『氷の目線で射抜かれたいー!』
『抱いてー!』
『愛してるー!』
『ミコト様万歳―!』
何故だろう、心なしかおかしい発言が増えた。
魔都・カンナギの住人は少々特殊な感性を持ち合わせているのかもしれないと騎士団長たちは思い始めた。
それともあれか、ミコト信者に仲間入りするともれなく全員アレな感じになってしまうのか、そうなのか。
恐ろしいことである。
ともかく。
この事態をどう収拾するつもりなのか、無言の疑問を乗せた視線をヤシロに投げてみる。
が。
「ふむ、今日もわが国民は元気だな、結構だ」
国主はのんびり笑顔だった。
元気すぎて全然結構じゃないと思う。
暴動だよ。地響きが過ぎて足元グラングランしてるよ。高高度だからぶっちゃけわりと怖いです。
そしてその揺れに合わせてヤシロの長く美しい御髪もばっさかばっさか揺れてばしばし騎士団長の身体を叩いています。
正直に言おう、痛い。
足元が揺れる、髪が振れる、騎士団長に当たる、わりと高い確率で目に刺さる。
痛い。
痛いし転びそうだし耳に入る言葉はミコトを色んな意味で求めてやまないし。
つまりあれだ。
全然まったく、欠片も『結構』な状態ではないかと存じますので早急に収集をつけていただきたいと切に願っている騎士団長は何か間違っているだろうか。
その旨、騎士団長は必死の思いでお伝えしてみた。
が、ヤシロはう~んと首をかしげて。
「ミコト、動かんだろう」
なんでそんな的確に真実を告げてきたんだろうこのお方。
そうだね、ミコトさんがいなければきっと収まらないのに、この騒ぎにも姿を見せない黒髪の麗人は完全に外界を遮断していらっしゃるね。
そして魔王から王族から貴族までそろったこの場の誰よりも自由かつヒエラルキーが高いという不思議を実現している身分的には純然たる一般人のミコトさんには誰も命令なんてできないという悲しい現実がここに。
どうしろと。
騎士団長たちの膝から力が抜けそうになった。
――その時である。
ヤシロがおもむろに、懐から何かを取り出した。