気分が乗らなかったようです
「そうか、ミコトがそういうなら仕方ねえな」
「ん~、じゃあこの人ってなあに~?」
人間としていかがなものかというミコトの理由に見事に恭順したスラギとアマネ。口々に聞いたのは白髪魔族の正体。
まあ気になるだろう。自宅に帰ってきたら上がり込んでいた見知らぬ相手だ。
問答無用で吹き飛ばしてから問う質問じゃないけど。
そして彼らの言い方だとミコトの始末許可が出ていたら白髪魔族の正体を言及する気はなかったというのが見え隠れする。
ミコトに近づくモノ=排除対象という鉄の方程式が成り立っている件について。
というか、なぜ人間大陸に魔族がいるんだろうとかいう素朴で根本的な疑問は持っていないのだろうか。
ちなみに二人の問いにミコトの回答は。
「魔王だ」
端的だった。
いや、合ってるけど。そこ一番重要な情報ではあるけど。そして当の魔王は腕を組んで自慢げに胸を逸らしているけど。
通常の感覚を持っている人間にそのような説明を施してどのような結果を招くか思い至らないのであろうか。
だがしかしミコトと魔王が対峙していたのはスラギとアマネだったので。
「あ、やっぱり~? だと思ったんだよねえ」
何も問題なかった。
取り乱しもしなければ疑いもしない。
素晴らしい信頼関係と余裕である。
アマネに至っては。
「とうとうそんなもんまで拾ってきたのかよ。お前の配下は山の魔物で十分だろ? めっ。拾った場所に戻してきなさい!」
魔王は犬猫か。
拾ってきたって何? そして戻してくるとか来ないとかいう問題なの? ペット? ペット感覚なの?
ミコトの後ろではこの発言を受けて魔王がずっこけていた。
ノリのいい魔王である。
――いや、それはともかく。
今のアマネの台詞には明らかにおかしいところがあったのは気のせいだろうか。
しかしここで。
「これを配下にするつもりはないし、そもそもあの魔物どもを俺の配下なんぞにした覚えはない」
そんなことをミコトが言ったものだからアマネの言葉が聞き間違いでも気のせいでも何でもないことが確定した。
整理しよう。
おかしい点は二つ。
まずはこれ、『魔王を配下にする』。
そんなつもりはないという発言。
賢明である。
何処の世界に魔族の王を従える一般人がいるのだ。ここの世界にか。
というかつもりがあればできるのか。そうなのか。
できそうだけどやめてほしい。できそうだからこそやめてほしい。
世界の崩壊の足音が聞こえる。
いや、まあいい。そんなつもりはないとミコトが言ったのだからそんなつもりはないのだろう。ならば問題はない。
問題は次だ。
『魔物がミコトの配下』という発言。
何がどうなったらそんな事態になるのであろうか。
いや、これに関しても容疑者は否認しているけど。
でもだ。
「あはっ、従えてるつもりがなくても従えちゃうのがミコトだよねえ」
「うん? この辺りの魔物の統率が取れていると思ったが……そういう事か」
どういうことだ。
わずか眉を寄せたミコトに対して笑顔で言い放ったスラギ、それに明確な証言を提示してきた魔王。
スラギはともかく魔王は驚くという選択肢を放棄して納得するのはどういう了見なのだろうか。
その辺りについてはもうあきらめるべきなのだろうか。
ともかく。
「どうやって統率したのだ?」
魔王が疑問を言葉にした。
果たして答えは。
「ん~? ミコトの実験~」
どういうことだ。