扉を開けるときはノックをしましょう
ミコトと魔王の会話はズレていた。
何からズレていたかっていうと世間様というか常識というか。まあ、何かそういうものからだ。
それだけで傍目から見れば十分ややこしかった。
のに。
――更なる混乱を招く人間たちが、当然のごとく帰宅してきたのだからたまらない。
いや、確かにここはミコトの家であると同時に彼らの家だ。
元気に朝から国外へ出発していようとも、そこで魔物狩り尽くしイベントとかいうものを開催していようと、それは変わらないし異論もない。
が。
もうちょっと帰宅の仕方というものがあったのではないだろうか。
つまりだ。
ミコトと魔王が、ズレた会話を繰り広げている、まさにその最中に。
どっかーん、と。
扉を吹き飛ばしそのまま魔王を吹き飛ばし。
「「たっだいま~」」
と笑顔を披露なさった自由人、その名はスラギとアマネ。
衝撃的なご帰宅の方法である。
『ただいま』じゃねえよ。
なんで入り口破壊して登場しなきゃいけなかったんだ。なんで息を合わせて見事な蹴りを決めているんだ。
それが的確に魔王を吹き飛ばし、ミコトには掠りすらしなかったのも計算の上なのかそうなのか。
なんなの、ミコトに害虫が寄り付いたことを察知でもしたの。
恐るべき危機管理能力である。
が、これを見てミコトは。
「帰ったか」
眉ひとつ動かさずに平然としていた。
むしろ吹き飛んだ魔王を一瞥もしない。
どころか。
「扉を壊すんじゃねえよ糞ボケ共」
まさかの扉。
客人が吹き飛ばされたことよりも自宅の破壊を咎める。
完全に間違っているとは言わないけれど人間的なあれとしては結構大分最低だと思う。
それがミコトだといわれれば彼を知る人間は声をそろえて『なるほど』と言ってしまうのであろうけれども。
ともかく。
「何をするのだいきなりっ!?」
大破した元扉の残骸から立ち上がった魔王が叫んだ。
至極もっともな叫びだった。
が。
「ごめんねミコト~。つい。だって変なのがミコトの近くにいるなって思ったから~」
「わりい、怪我ねえか? 扉はすぐ直す。あ、あのどっから湧いてきたらしい変態もついでに始末してくるから安心しろよ」
スラギとアマネは完全に無視。
謝る相手が違う気がするのは気のせいだろうか。
そして魔王を何のためらいもなく『変態』扱い。
その迷いのなさはどこから。
むしろ『扉を直す』がメインで『変態の始末』がついで。
魔王の存在とは。
しかしここでミコトが。
「阿呆か。あれは始末するな。大人しく扉を直せ」
まさかの制止に入った。
もちろんそれに魔王はうんうん、と腕を組んでうなずき、スラギとアマネはあからさまに不服そうに口をとがらせる。
「え~」
「なんでだ?」
そんな彼らの疑問に。
「今始末したらさっきあいつに処方した薬の効果が分からんだろうが」
答えたミコトは、ひどかった。
しかしそれに。
「「あ、なるほど」」
金と赤茶の少年二人は心の底から納得した声を上げ。
魔王は「やっぱり清々しいな」と感心していたのだった。
何処までも通常運転、昔から変わらぬ自由人たちである。
が、しかし第三者ならば問いたいはず。
魔王よ、お前は本当にそれでいいのか。