表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/254

どっちもズレているから大丈夫です


 ミコトは山から男を引き連れ、一瞬にして帰宅した。

 もちろん転移である。


 ちなみにこれを実体験したその男の反応は。


「ほう、便利だな」


 ちょっと目が輝いていた。


 うん、その反応もやっぱり違うと思うのだけれども、突っ込む人間は以下略である。


 ともあれ二人は家の中に入り、ミコトは荷物を置くと、椅子に男を座らせた。

 そしてそのままミコトは彼の靴を脱がせ、診察を開始する。


 なお、患部は足だ。

 落下した衝撃でぽきっといったらしい。


 というか見事に綺麗に切断されているくせに痛みはほとんどないというのはどういうことなのだろうか。魔族がそうなのかこの男が鈍いのか。


 おそらくは後者である。


 そして初対面の相手に何の疑いもなく手当てをさせるその警戒心のなさ。

 己の見る目に自信があるのか何も考えていないのか。


 やっぱり後者であると思われる。


 ともかく。


 そんな男ではあったが、一応疑問はあったらしい。手当を受けながら、聞いた。


「そう言えば、なぜ手当てをしてくれるのだ?」


 それはそう言えばとかいうレベルの些細な疑問として吐き出していいのだろうか。

 しかしそれに答えたミコトの答えも大変軽く。


「試したい薬があったからな」


 正直だった。

 が、それに。


「ははは、それが目的か」


 男は笑う。


 まさかの実験台扱いなのになんで笑ったんだろう。


 が、これにも。


「それが目的だな」


 ミコトは正直だった。


 それはつまり試したい薬が無かったら完全に放置の方向だったといわれてるも同然である。

 なのに。


「清々しいな、そういう態度は好ましいぞ!」


 どこら辺がどうなったら好印象なんだろう。


 確かにいっそ清々しいけれど。下手に誤魔化されるよりは不快感は少ないかもしれないけれど。


 正直さというのは全方向に対して発揮されると軋轢を生むものではなかっただろうか。どうしてこの二人は上手く行っているのだろうか。


 おかしい。


 その間も相変わらずミコトは眉ひとつ動かさないが。

 十三にして何処までも泰然自若としている。

 表情筋に活躍の場を与えてあげてください。


 ともかく。


「そう言えば、」


 なんだかんだと手早く手当てを終えたのち、ミコトは口を開いた。


 本日は実に『そう言えば』が活躍する日である。


 まあそれはそれとして、ミコトの声に男は首をかしげる。それに目を向けるでもなく手元を片付けながら黒髪の少年は。


「お前、魔王か」


 確信に満ちた感じで聞いた。

 それに対して男は。


「そうだが」


 軽快に肯定した。

 それにミコトは頷いただけ。


 軽い。


 ……ていうか、あれだ。ちょっと待とうか。


 なんだその双方驚きも動揺も見られぬ一問一答。

 あまつさえ興味・関心さえも感じられないのはどういうことか。

 興味がないならどうして聞いた。


 確認事項ですかそうですか。


 むしろこの警戒心などかけらもなく、何処からか落下して足をぽっきりいったにもかかわらずそれに気づかないとかいう男のどこを見て『魔王』と思ったのであろうか。


 ミコトのその性格もさることながら観察眼も齢十三にして完成されていたのかそうなのか。


 超怖い。


 ともあれ。


 そんなズレた二人のズレたやりとりは、恐ろしいことにズレたまま、着々と進んでいったのである。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ