お仕事の時間です
でだ。
兎にも角にも落ち着こうということになった。
なので、落ち着くための最善策がとられた。
乃ち自由人三人組は部屋からフェードアウトした。
案外と三人は素直に出ていった。きっとこの場にいることに彼らも特に意義を見いだせなかったのであろう。
うん、確かに彼らにとって意義は存在しないかもしれないんだけどなんかこう、あれだ。
理不尽である。
文句は言えなかったけど。
ちなみに魔王・ヤシロはこれでもかと抵抗してミコトに縋りついたけど当のミコトが間髪入れずに昏倒させた。
魔王の威厳に関してはもう何も言うまいと騎士団長たちは心に決めた。
そんなこんなしつつ彼らを連れて行ったのは安定の近衛隊長・ファルシオである。
武官の頂点はそういう役回りであるという暗黙の了解でも存在しているのかもしれなかった。
なんにしろ今頃黒髪と金髪と赤茶髪の顔面偏差値のカンストした三人組は優雅なティータイムにいそしんでいることだろう。
そう願う。
うん、本当にそうであってほしい。大人しくしてて。できれば眠ってて。何もしないで。
完全なるアウェイであると信じていた魔王城でまさかのホームですかというようなくつろぎっぷりと自由さをさらけ出している方々だから不安しかない。
だがしかし自由人が他人の言う事を聞くという機能を持ち合わせていないということは悲しいほどに知っているので願うだけである。
無駄な労力を割いたところで結果は同じなのだ。
ともかく。
ほややんからの一連の騒ぎによって現実へ回帰した騎士団長たち四人、昏倒からようやく目覚めた魔王・ヤシロを含めた魔王城重鎮四名。
朝っぱらから元気が過ぎるやり取りを経て、形式もへったくれもなくお見合い状態で着座して、ようやくの会談の始まりである。
始まり、であるのだが。
「……」
「……」
「……」
「……」
四人は無言で、それを見つめていた。
部屋に響くのは、男の声。
しかも泣き声。
しくしくしくしくしくしく……。
そして。
「ミコトお……」
そう。
泣いているのは、ヤシロだ。
この城のあるじでありもっとも地位が高いはずの男だ。
なのに。
「置いていくなんて……置いていくなんて……」
しくしくしくしく。
「陛下……」
残念なものを見る目で宰相・ガイゼウスが主君を窘める。
が。
「結構本気の拳だったぞ……。好きって言ったのに……」
しくしくしくしく。
「陛下」
戻って来た近衛隊長・ファルシオも苦笑しながら声をかける。
それでも。
「やっぱり嫌いか、嫌いなのか……」
しくしくしくしくしく。
ヤシロの嘆きは止まらない。
――と。
「……陛下」
ほか同僚二名と同じように声をかけたかに思われた、側近・アスタロト。
が、その幼い手には。
大きなバットが握られていた。
なんという事だろう、いつの間にどこから。そしてそれは騎士団長たちも記憶に新しい昨日のホームランを生み出したものだった。
「……」
「……」
「「「「「「……」」」」」」
全員が、じっとバットを見た。
そして。
「仕事をするであります」
「はい」
静かな声だった。