不意打ちにご用心
『俺は結構あんたたちのことが好きだが』
ミコトさんはおっしゃった。
当り前のようにおっしゃった。
「……はへ?」
すごく間抜けな声が騎士団長から出た。
ちょっと待とうか。
え? 待とうか。
好きって。好きっておっしゃったの? 『あんたたち』っていうのは、スラギでもなくアマネでもなく騎士団長・ジーノたち四人を指しているとして間違いないの?
「え? ふえ? ……好きって……俺たちの事、か?」
動揺しまくって騎士団長は聞く。
リリアーナ・サロメ・イリュートも瞬きもせずにやり取りを凝視していた。
すると。
「阿呆か」
またばっさりいかれた。騎士団長たちはがっくりと肩を落としかける。
が。
「今更何を言ってる。俺は好きでもない人間と三か月も旅をするほど酔狂じゃない」
何でもないことのようにいう黒髪の麗人の視線はまっすぐで。
真っ直ぐすぎて。
一気に顔に血が上った。
しかし。
「で、でも! でも! さっき、『そんな義理がどこにある』って……!」
取り乱しながらリリアーナが叫んだ。
それにわずか、騎士団長たちは冷静になる。
確かに、あれはひどかった。
すごく傷ついた。
だが。
「『あの頃』といっただろう。出会ってすぐべらべらとそんなことを話す仲じゃなかっただろうが」
僅か、眉をひそめて言うミコト。
そういう意味!?
わかりづらい!
いや、だが。
「え? じゃあ。今なら……?」
騎士団長はおずおず、挙手して聞いてみる。
すると。
「だから、今はこの程度には話す間柄だから知っているんだろう。気が向くときに言えば何処へでも連れて行ってやるが、それがどうした」
……えっと?
それはつまり、あれだ。
もっと前から知り合いでミコトと親しければ、『転移』のことを知る機会はもっと早くやって来たっていう解釈でいいのだろうか。
ていうか。
言えば何処へでも、って。
ミコトさん、一番最初は利害の一致を求めてバッサリだったのに……!
これまで疑問、不満、悲しみ、色々あった。
だがそんなことは吹っ飛んだ。
だってミコトさんにとって騎士団長たちは『話す間柄』で。『好き』。
今は只そんな言葉がぐるぐる回る。
これでもかと顔が熱い。湯気が出そうだ。
そこへ。
「だから言ったじゃねえか。あんたら意外と上の方だって」
アマネがふっと笑ってそんなことをいったものだから。
「「「「ふ、」」」」
四人は真っ赤な顔でガッとその場から立ち上がった。
そして。
「「「「ふわああああああああああああああっ!」」」」
限界突破した彼らは叫び、風のように。
それぞれの部屋へ消えていった。
「あーあー」
「元気だねえ~」
「……なんなんだ、いったい」
残された自由人は、アマネが苦笑し、スラギが笑い。
ミコトがわずか、眉をひそめていたのだった。