尋問実行中につき
とりあえずは落ち着こう。
騎士団長たちは深く息を吸って吐く、これを十回ほど繰り返した。
その間座らされた自由人どもはたいへんまったりくつろぎながら手元で極小魔法合戦してた。
深呼吸を無にする勢いでイラッと来たので見なかったことにした。
ともかく。
順番に、順番に。
己に言い聞かせ、目を見合わせる。そしていつものように、騎士団長が口を開いた。
「まずだ。お前らと、魔王陛下との関係は、なんだ?」
「友達だよ~」
「友達だな」
「友達だなあ」
三者たがわず即答だった。
知ってたけど。
目を逸らしてただけだけど。
「……いつから?」
「……十三年くらい前か」
「だねえ」
「師匠もまだ生きてたからなあ」
「…………へえ、………」
十三年、前。
スラギとアマネが十四歳。ミコトが十三歳だったころの、話。
思った以上に年季入ってる。
……いや、そう言えばだ。ふと思い出した。
「……前に、アマネさんってなんかすごく話が合う人が魔王城に居る、みたいなこと……」
アマネが逃げたの逃げないのという話をしていた時の事である。
いや、なんとなく。
なんとなく、あの老爺・幼女・偉丈夫の三人の中にそのご本人がいるような気がしてならないので、聞いてみた。……と。
「ああ、そうそう。さっき会ったろ? ガイゼウス爺さん。俺はゼっちゃんって呼んでるけど」
「「「「ゼっちゃんっ!?」」」」
予感的中。
そしてなんで魔族の宰相になんでそんなフランクなあだ名をつけちゃったんだろう。
ていうか待って。あの重鎮お三方全員自由人とお友達だったりするのだろうか?
名前で呼び合ったりしちゃうのだろうか?
だとしたらなんか悔しい。
ので。
「え。ちなみにミコトさんとスラギはどう呼んでるんだ……? ほかの、ファルシオ隊長とかアスタロトさんとかも……」
聞いてみた。
すると。
「適当に呼んでいる」
「宰相さんでしょ~。青い子はおちびちゃん~。あとは隊長さんかな~」
「俺もアスタロトだっけ、あの子はチビ、ファルシオさんは隊長さんって呼んでんなあ」
違った。
安定のミコトさんとスラギだった。
そしてアマネよ、そのラインナップでガイゼウスだけ『ゼっちゃん』とはどれだけ意気投合したんだ。
「……そうか」
とりあえずはスルーすることにした。
精神衛生の為である。
それよりもだ。
「じゃあ、な? もう一つ聞くぞ? さっきの言葉の事なんだが、な?」
より慎重に、ゆっくりと、騎士団長は切り出した。
自由人三人は綺麗に可愛らしく小首をかしげる。
可愛いけどむかつくからやめてくれないだろうか。
しかし突っ込む余裕はなく、騎士団長たちは再度顔を見合わせ、そして。
「さっきの……『時間をかけてくるのが新鮮』だとか、『いつもは一瞬』だとか、『初めて自力で来た』とか……ご説明を」
言った。
無垢な瞳が三対、騎士団長たちを見つめ返した。
擬音にしてまさに「きょとん」。
なぜそんなことを問われるのか心底わからないという見慣れた表情だった。
そんな表情見慣れたくなかった。
「ご説明を」
もう一回押してみた。
整った貌の中、長い長い睫毛をパサリと上下させて、ことり。
ミコトが首を傾けた。
そして。
「いつもは『転移』を使うからだが?」
なにもおかしいことなどないかのように黒髪の麗人はおっしゃったのだった。