おやつの時間です
騎士団長たちの魂の絶叫は魔都・カンナギに響き渡った。
それほどの恐怖体験だった。
ただし起こったことは至極単純。
乃ち周囲の騒ぎにしびれを切らしたスラギが風魔法で何の予告もなく全員を浮遊させた。
そしてそのまま浮遊から飛行へと移行し、迅速に魔王城・玉座の間に突っ込んだ。
イマココである。
「「「「……」」」」
言いたいことはいろいろあった。
本当に、色々あった。
しかし常識人四人にとって入り口もまだ近い位置から二秒もかからず魔都・カンナギの最奥、魔王城へと乗り込むには元気と勇気と心の準備が足りなかった。
つまりいろいろ足りなかった此方の事情を斟酌する気などさらさらない自由人の暴挙のせいで精神的にも肉体的にもグロッキー。
というかいくら国の重鎮であろう偉丈夫が一緒とはいえ他国の城に何の許可も得ずに個人の一存で入り込んでいいものか否か。
そして歩きですらなく高速飛行で突っ込むという非常識。
しかもその場所は玉座の間。
これで『よろしい』と是を唱える輩がいればそれはもれなく自由人の仲間である。
普通に考えて襲撃カウントで投獄一直線。
はて、厳選され過ぎてよじれて拗れてどうしようもないあげく目的がたびたび脳から欠落しそうになってもこの一行は人間から魔族への初の友好使節ではなかったか。
普通に考えて終了のお知らせが高らかに鳴り響いている。
魔王陛下が『普通』じゃないのはエンカウントタイムは短かったにもかかわらずよくわかってしまったから今更だけど。
ともかく。
「えー、ようこそ、魔王城へ。ユースウェル王国友好使節団の皆さん」
顔色が悪いながらもなんとか立ち上がった騎士団長たち四人に向って、偉丈夫は腰を折る。
騎士団長たちはひきつるばかり。
何が正解だろうか、もはやわからない。
とりあえずは簡単な自己紹介を、ここに来てようやく行った。
そしてやっとのことで偉丈夫の名前が判明したのだった。
苦労が苦笑に滲み出ている彼は近衛隊長。
名前はファルシオ。
その本性は双頭の白狼であるという。
もちろんこちらもあいさつ。
王女、騎士団長、騎士、侍女の順である。
久々に王女・リリアーナがその身分を尊重された瞬間だった。
自由人における常識・肩書きは呼び名替わりでしかないという認識は大いなる間違いであったと思い出した。
自信に満ち溢れてる自由人の言動はもはや緩やかな洗脳なのかもしれなかった。
超怖い。
ともあれ。
そんなこんなで多少すったもんだと戦慄しつつ自己紹介を終えた一行。
しかし魔王は未だ不在である。
簀巻きで運搬されていたが一体どこへ搬入されたのであろうか。
ともかく見当たらないのが現状である。
そんな手持無沙汰なこの時間、気を使った近衛隊長・ファルシオは部下に指示して椅子を用意してくれた。
だがしかし、王がいない玉座の間でくつろぐというのはいかがなものだろうか。
逡巡する。
しかしそんな躊躇いを見抜いたファルシオ、大丈夫とばかりに頷いて目線で少し向こうを指す。
そこには椅子どころかテーブルまで用意させ、お茶と御茶菓子をいただいて談笑する三人の見慣れた自由人がいた。
我が家か。
あまりのくつろぎぶりになんかもうどうでもよくなった四人は素直に腰を下ろしたのであった。