初心者には手加減願えないでしょうか
でだ。
友情が生まれた騎士団長と偉丈夫、しかしそこではた、と気付くことになる。
「ねえ、あちらって……」
「やっぱり……」
「ミコト様……」
「さっき魔王様が……」
「スラギ殿……」
「でもあれは女性……でもミコト様なら……」
「隊長様もおっしゃって……」
「ミコト様……」
いい加減集まっていた魔族の方々の間から、ひそひそと、しかし興奮気味に漏れ聞こえてくる声。
ここでも頑なにミコトさんが『様』な件について。
いや、ともかく。
女性体になることで隠せていたらしいが魔王も名前を叫びまくっていた挙句、先ほどの偉丈夫の声も割かし大きかった。
どうせもはや自由人どもと魔王が名前で呼び合う仲であるということはどうあがいても抵抗しても拒んでもひっくり返らない事実のようであるということにいい加減観念せざるを得ないと騎士団長たちも理解していた。ならば彼らがご多聞に漏れずかつて何かやらかした結果魔都・カンナギの有名人となってしまったのであろうことしか想像できない。
なるほど、追いかけられるのか詰め寄られるのか責めたてられるのかは知らないが、ミコトとスラギの名前、および男性体であるときの顔はこの町では知らぬ者はいないようである。
町に入る前にミコトが面倒くさがったわけだ。
一体お前ら何をした。
そしてアマネがなぜか知られていないのはどういうわけだ。『逃げた』っていうあれがここでピリリと効いてくるのかそうなのか。
騎士団長たちは胡乱な瞳を自由人に向けた。
しかし自由人三人、黒はピクリとわずか眉を動かし、金は相変わらずの笑顔、赤茶は肩をすくめたのみ。
そして騎士団長の同志・偉丈夫魔族はおそらく委細承知しているのであろう、苦笑を浮かべていた。
その間にもじりじりと狭まる住民の輪、又ピクリと動いたミコトの眉。
不穏である。
騎士団長は冷たい汗を背中にかいた。
が。
「あの「面倒くさいから行くね~」
あははっと、口を開きかけた騎士団長の言葉を笑顔でぶった切ったあげくなんか不穏な言葉をスラギが口にした。
待て待てまってまってちょっと待って。
スラギさんスラギさん一体何をやらかすおつもりで。
騎士団長たちはそう聞こうとこの道中で鍛えられた反射でもって手を伸ばした。
しかし。
「いっくよ~」
自由人に届く前にその指は虚しく空を切った。
ていうか同時に足元も空を切った。
……足元も空を切った?
「……っひ……」
気づけば騎士団長浮いていた。
ていうか偉丈夫含めた八人全員ふわっといってた。
ふわっと……。
「「「「ふわっとおおおおおおおおおおお!?」」」」
常識人四人は叫んだ。
自由人三人は平静だった。
偉丈夫は独り苦笑していた。
そして。
「ちょっ、スラっ、まっ……」
「到着地点は玉座の間~」
騎士団長の制止をまたしても華麗に無視して、スラギは笑う。
なぜ笑う。
イラッと来た。
イラッと来たがしかし反論する間など与えられるはずもなく。
「あっはっはっは!」
「お~」
「……」
「おおっと」
笑うスラギ感心するアマネ無言のミコト冷静な偉丈夫。
霞んだ視界凶器じみた風。
常識人たちは叫んだ。
「「「「っっっっぎゃああああああああああああああああっ!」」」」