作戦は世界共通でした
その後である。
『どうも。魔王のヤシロです』などと、生命活動は大丈夫ですかと尋ねたくなる惨状のくせにライトな感じで名乗られたものだから色んな意味で茫然としていた騎士団長たち四人。
しかし何とか硬直から抜け出してとりあえずは名乗り返すべきなのであろう、多分、という思考に行き着きそれを行動に移そうとした、その刹那。
ぐわっし!
人垣からぬうっと生えてきて突如魔王・ヤシロの腕をつかんだ者が居た。
常識人四人は本日三度目の「びっくうっ」をシンクロさせた。
しかし恐る恐る見てみればその者にはきちんと顔がついていてびしりと軍服を着こなしている。
灰色の髪に黒い瞳。いかつい顔立ちは多少近寄りがたいが、魔王同様人間とさほど外見は変わらない。年齢は騎士団長よりも十ほど上に見える。魔族は外見で実年齢がはっきりしないけれど。
それにしても騎士団長さえ見上げるような偉丈夫、いったいこの人垣のどこにその体を隠していたのか。
とりあえずそのお高い身長でいかつい顔で、眼光鋭く見下ろされるのものすごく恐怖なのだけれどもどうしよう。
が、ここで。
「ま~お~う~さ~ま~~~~~」
地獄の底から亡者が苦悶を訴えるかのような低音が偉丈夫から発された。
がしりと掴まれた魔王・ヤシロは「うげえ」という顔をした挙句実際声にだしている。
その傍らのミコトはたいへん冷めきった瞳で見つめている。
そのやや後方ではスラギとアマネがにやにやしていた。
なぜ彼らはひとかけらたりとも恐怖を感じないのかそんな情動存在しないのか知ってた。
ともかく。
「おお……速かったな?」
魔王が言った。
偉丈夫がびきりと極太の青筋を立てた。
――そして。
「魔王様発見――――――! 捕獲! 捕獲――――――――!」
天に向かって腹の底から絶叫。
すると。
「「「捕獲! 捕獲! 捕獲! 捕獲! 捕獲!」」」
「「「「捕獲! 捕獲! 捕獲! 捕獲! 捕獲!」」」」
「「「「「捕獲! 捕獲! 捕獲! 捕獲! 捕獲!」」」」」
何処からともなく響くは輪唱と地響き。
それと同時にさっと割れた人垣、もうもうと土煙とともにやってくるカラフライズな体をそろいの軍服に押し込んだ集団。
いつの間にか偉丈夫も、どころかミコトたち自由人もするりと一定の距離を魔王・ヤシロからとっている。そして騎士団長たち四人も、知らぬ間にミコトらによって距離を取らされていた。
なんでそんなに慣れているんですか。
ともあれ、ぽかりと開いた空間に一人残された魔王に向って、偉丈夫は。
「突撃ッ!」
「「「「「うおおおおおおおおおおお!」」」」」
叫んだそれに軍服集団が突っ込んだ。
「あははははっ」
「うわ……」
「……」
それを自由人たちは楽しそうにかつ冷静に見ていた。
町の魔族の方々も仕方ないなあと笑っていた。
王女・リリアーナと侍女・サロメは大きな瞳をこぼれんばかりに見開いて驚愕し引き攣ったのどからは声も出ないようだった。
しかし。
――しかし。
騎士団長・ジーノと騎士・イリュートだけは生気が失せて淀んだ瞳を見合わせ、ぽつり。
「「見たことあるなあ……」」
哀しいほどに懐かしい光景だった。