もう一度お願いいたします
待て、いったん整理しよう。
目の前で繰り広げられた一連の出来事に混乱する騎士団長たちはとりあえず潰れて断末魔を上げた白髪の男をさらにぐりぐりとスラギとアマネが踏みにじっているという面前の光景から器用に意識を逸らしてごく自然に、しかし迅速に円陣を組んだ。
そして目線で確認し合う。
あれは先ほどまでミコトの指し示す方向にいた男である。ちなみに彼はこちらに背を向けていてまるで気づいて居るそぶりなどなかった、一瞬前まで。
そしてその男、殆ど人と姿が変わらないが近くで見れば――というか、這いつくばっているので顔は見えないんだけどまあ、耳とか爪とか見える範囲が魔族の特徴を持ったそれなので魔族であろうことはわかる。まあ魔大陸の魔都なんだから当然だ。
それはいい。
が、しかし、それがどうして一瞬でこっちに来る。
しかも飛んできたのだ。譬喩じゃなく。
そして最大の不可解がある。もちろんそれが同時に、今も常にない仲の良さでスラギとアマネが白髪の魔族を踏みにじっている理由だろう。
そう。
ミコトの、名前を、呼んだのだ。あの魔族は。
しかも、明らかに嬉々として。
「「「「……」」」」
そうっと、四人は視線を、自分も白髪魔族を沈めた一人っていうか右足による攻撃という何気に最も殺傷能力が高い技を放っていたにもかかわらずわれ関せずで冷たく目の前のなんていうかこう、だんだん猟奇的な光景に移行しそうな気配を漂わせているスラギたちを見ているミコト、を見た。
勇気を振り絞って騎士団長は声を出した。
「……あの、ミコトさ、」
が。
「……っってえわ! いい加減にせんかっ貴様らあああああ!」
ドッカーン、とでも形容できそうな勢いでもって白髪魔族が復活がてら叫んだそれに騎士団長の勇気は全部かき消された。
ちょっと泣きたくなった。
気のせいではなく先ほどから一つもまともにしゃべっていないような。
しかしそんな騎士団長を歯牙にもかけず。
「踏むかっ? 普通踏みにじるかっ? 久し振りであろうが、なんだこの仕打ちっ」
白髪魔族、丁度自由人と常識人の間に立ち噛みつく勢いで喚く。
だがそれを向けられたスラギとアマネはどこ吹く風。むしろ。
「はっ。てめえがミコトに馬鹿なことしようとしたからだろうが」
「あはっ、当然の報いでしょ~」
二人が浮かべたのは嘲笑だった。
「そうだ、ミコト! そなたもなぜ助けてくれないっ! 可哀想だろう、私がっ」
白髪魔族は矛先をミコトに変える。
が。
「てめえも相変わらずうぜえな」
一刀両断だった。
そして『てめえも』っていうのは追及すべきかしないべきか。
「「「「……」」」」
騎士団長たちは本日何度目かの以心伝心を行った。
全員一致で聞かなかったことにする方向で可決した。
ともかく。
「優しくないっ! 優しくないぞミコトっ!」
「あははっ、ミコトの優しさは俺限定なの~」
「んなわけねえだろ、俺にだってミコトは優しい。てめえに分ける優しさはねえけどな」
「ごちゃごちゃ勝手をいうな。俺は思ったことを言っているだけだ」
そんなもうなんか「ああ、お知合いですかそうですか」というのがすごくよくわかる会話の中、一度砕け散った勇気をかき集め、仲間たちと頷きあって、騎士団長は。
「あ、のな? ……話を割って悪いんだが、スラギ、ミコトさん、アマネさん、」
しっかりと、はっきりと、声をかけた。
と。
「「「「あ?」」」」
四人が一斉にこっちを振り返った。
繊細な常識人たちは再びびっくうっと肩を揺らした。
というかここに来てようやく見えた白髪魔族の顔だが。
ミコトたちにいずれ劣らぬ美形だった。
一瞬言葉を失う。
が、まずは。
「こちらは、どなたさまで……?」
おずおずと、聞いた。
すると自由人たちは瞬いて顔を見合わせ、沈黙一秒。そしてその後にミコトが。
「魔王だ」
……………。
は?