油断は大敵です
その行動は唐突に始まった。
魔都・カンナギに茫然としながらも自由人の自由人ぶりに我に返り、いざ足を踏み入れようとした刹那の事である。
「ああ、そう言えば、」
不意にそう声を上げたのはミコトだった。
「?」
騎士団長は首を傾げて彼を見る――と、なぜだか黒髪の自由人は奇妙に不可解な行動をしたのである。
まず、いつもは結んでいる髪を解き放った。ずっとまとめられていたのにもかかわらず痕もつかないしなやかさである。
「? ? ?」
ますます首を傾げる騎士団長。
が。
ここまでであれば、まだ首を傾げるだけだった。
のに。
「!? !? !?」
騎士団長どころか自由人三人組以外がもれなく驚愕したのは次の瞬間。
なぜって黒と金の美男が美女になったから。
ひと月半ぶりのお目見えである。相も変わらず他の追随を許さぬ美貌であった。
ともかく。
「すすすすスラギ? みこ、ミコトさん? なななな」
動揺のあまりに騎士団長の言葉は大いにぶれた。
驚かずにいられるだろうか、知ってはいても男として接してきた仲間がちょっと見ない美女に化けるのだ。
しかも何の予告もない。相変わらず心と胃腸に優しくない自由人どもである。
いや、それよりも。
「なんで、今、女に、」
だってあんたら『男の姿の方が楽だから』と言っていつもそちらの姿だったじゃないか、とようやく通じる言葉で吐き出した。
しかし。
「面倒くせえからだ」
ミコトの回答は端的だった。
いやだからなんでそんな単純明快な言い方するの。嫌がらせなの?
だがしかしそんなミコトの後ろでさも黒髪の麗人が言ったことが全てと言わんばかりの顔をした金と赤茶の自由人が平然と佇んでいる。
自由人の間で通じたとして、そのネットワークは常識人の回線には繋がっておりませんということをいい加減ご承知いただけないだろうか。
そして「なんでわからないんだ」という顔であたかもわからないコッチが悪いかのような空気を瞬時に作り出すのはやめてほしい。
そのうえで出来れば一体何がどうして「面倒」なのか教えていただきたい。
まあまずは盛大に着崩れている服装を整えていただきたいけれど!
服に関しては言っても無駄な気がした騎士団長、目線でサロメと会話した。すると深く頷いた有能侍女、ササッと美女になった自由人たちを整える。
でだ。
「面倒って何がですかミコトさん」
騎士団長は率直に聞いてみた。
すると。
「こっちの方が騒がれない。男のまま入って面倒な騒ぎが起こるのと、先に見た目を変えておく手間を比べりゃ手間の方がよほどましだ」
単語じゃない答えが返って来た。
けど。
……。………。
うん。……うん、わかったけど分からないですミコトさん。
答えだけど答えじゃないよ? なんで男だと騒がれるのかわからないよ?
美男だから? 美男だからなのか? 魔都は積極的な女性が多いとでもミコトの野性の勘が告げているのか?
でもそれ美女になったところで同じじゃね? そしてミコトやスラギと並んでアマネも美丈夫だけど彼は特に何もアクションは起こさず普段通りである。
……うん。
「もう少し詳しい説明をお願いできないだろうか」
律儀に挙手して騎士団長は、再度自由人に質問を投げたのであった。