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遅くなってすみません。
今回は、ちょっと文字が多くて、読みづらいかもしれません。
ぼくがその紙をルディに渡すと彼は、何か呪文のようなものを唱えだした。
その声に合わせて、〈大切な人に会える夢〉の糸は、少しずつ明るく光っていく。
「魔法?」
思わず、そう口に出すと、ルディは謎めいた顔で、小さく笑った。
「秘密、です。『紡ぎ師』は、ヒミツシュギ、ですから」
「『紡ぎ師』ってことは、他に『夢紡ぎ師』のような人が、いるってこと、ですか?」
「はい。『星紡ぎ師』と『恋紡ぎ師』、が」
「へぇ……」
「それ以上、は、秘密、ですけど」
そう言いながら、ルディは唇に人さし指をあてて、にっこりとした。そのしぐさは、ルディみたいな年の子がするようなことではない気がした。
「では、契約を、始めます」
目を瞑ってください、とルディは言った。
ぼくは、ルディを見つけたときのように、目を閉じた。
「夢紡ぎ師見習い、ルディ=トラウムは、夢紡ぎ師、として、」
ルディの声が、小さく響く。
「ここに、藤川季との、契約を、結びます」
ルディが言い切ったとたん、目の前が、一瞬明るくなった。でも、すぐに真っ暗に戻った。
「目を、開けてください」
そう言われて、ぼくはゆっくりと目を開けた。
目の前にあったものは、さっきと同じもの。
けれど、一つだけ違うものがあった。それは、契約書みたいな、紙。
さっきの紙は無くなって、代わりに幅が太い銀色のリボンがあった。なにか、文字が書いてある。
なんと書いてあるかは読めなかったけれど、さっきの紙と同じ言葉みたいだった。
ルディは、「夢」の糸をリボンと同じくらいの長さに切って、残りの糸をトランクにしまった。
「腕を、出してください。夢を、結びます、から」
その糸は、最初に見たときよりも少し、明るく光っていた。
特に何かあるわけでは無かったけれど、なぜか、ぼくは糸から目が離せなかった。
何というか、糸が気になって仕方がなかった。糸に呼ばれている感じがした、と言うべきだろうか。
だから、ぼくの腕に糸を結んだルディが、ろうそくの火を消して、出していたものをトランクにしまっていたなんて、気付かなかった。
ぼくがそのことに気付いたのは、少ししてから。その時、ルディはリボンをマントのボタンに結び付けていた。ボタンは金色で、糸車のようなレリーフが付いていた。
結び終わると、ルディはトランクを持って立った。
闇に同化するように、消えていくように見えた。
「待って」
思わず、声を出した。ルディが、びっくりしたようにこちらを見た。
まだ、消えてはいなかった。
「え?」
「ルディ……さん、に会いたくなったら、どうすれば、いいですか」
そう言うと、ルディはふわりと笑った。
「布団に入って、目を、瞑って、ください」
質問に答えてもらえなかったし、何がしたいのか分からなかったけれど、とにかく従ってみることにした。
きっと、彼の中ではつながっているんだろうから。
「また明日、ここに、来ます。もし、どうしても、会いたくなったら、強く、願って、ください」
その言葉が聞こえたあと、気配が消えた。
ぱっと目を開くと、そこには誰もいなかった。
ただ、腕の糸が光っているだけだった。でも、それだけで、なぜか落ち着いた。
だから、ぼくは糸を眺めながら、ベッドの中でぼんやりしていた。
☆
「……季くん?」
(わっ!)
伯母さんの声がした。ぼくがちゃんと寝ているか、確認に来たんだろうか。
なんとなく、糸を見せてはいけないという気持ちになって、手を急いで布団に潜らせた。
それから、息を止めて、寝たふり。
「音がしてたから来てみたけど……あら、寝てるじゃない」
伯母さんは、ぼくを一瞥すると、すぐに背を向けた。
でも、ぼくには、伯母さんが出ていくときに呟いたひとりごとが、聞こえてしまったんだ。
「……お母さんも、何を考えているのかしら。バカな娘の子を、その姉に押し付ける……男の子の食費はバカにならないのに……」
バタン。
無情にも、伯母さんの言葉の途中で、ドアは閉まった。
でも、たったそれだけのことで、分かってしまった。
伯母さんは、ぼくが来たことが、
……嫌、なんだ。
善意で引き取ったんじゃない。言われたから、嫌々引き取ったんだ。
そうじゃなきゃ、「押し付ける」なんて感じないから。
「息子がいなかったから、嬉しいわ」そう、言ってくれたのに。
何で?
何で、ぼくが嫌なの?
お金がかかるから?
あの、バカな妹の子供だから?
母さんは昔、笑って言った。
「お姉ちゃんは、私がバカだって言い続けたわ。結婚式の日も、離婚した日も」
母さんは、バカじゃないのに。何でも、笑って解決してくれたのに。
伯母さんは、ぼくがたった一人、頼れる人だったのに。
何で?
何で?
何で……?
書き溜めていたものと少しずつ変わってきたので、新しく書き直さなくてはいけません。
なので、続きは一週間後くらいかもしれません。