劣化部隊③
本日の予定。朝飯を食べた後、自作の陶芸をやるために歩いて移動。市街地の方にある大きな施設にすべてものがそろっている。今日はこの集団から離れずに行動する。昨日は野澤にきつく叱られた。もう、あんな目に合うのはこりごりだ。ただうるさいだけで正直何を言っているのか全く聞いていない。これでもしみんなと別の行動をしてみろ。そのうるさくて暇な時間が増えるだけだ。もう、そんなのはこりごりだ。
美嶋は朝飯の時目の下に薄いクマが出来ていた。魔術が大方使えるようになり俺たちと共に戦える状態になり緊張で眠れなかっただけだろ。
あの後、氷も雷も問題なく使うことが出来た。驚きだと魔術師二人が言っていたのは美嶋が火属性の魔術も使うことが出来たということだ。確かにアキの魔力があるので使うこともできなくはないらしいが、所詮他人の物。メイン以外の属性魔術を使うのはなかなか難しいらしい。簡単にやってしまったに驚きを隠せないようだ。そのことに美嶋は嬉しそうだった。「すごいでしょ」と俺に自慢ばかりしてくる。確かにすごいので素直にほめている。このまま魔術にのまれないことを祈るばかりだ。
さて、美嶋の魔術使用の問題は解決したと言ってもいい。だが、ここで別の疑問が浮上した。俺自身の魔力についてだ。美嶋は自分の魔力で氷属性の魔術を使える。威力はどの属性魔術も変わらない。俺の場合は自分のも使えない。ゴミクズの力も半分しか使えていない。それはなぜか?分からない。
他にも分からないことがある。美嶋の使う魔術が教術と同じように意思や感情に直結しているということだ。あいつは俺の隣いたい。その強い気持ちで魔術を発動させた。そんな風に魔術を使うことはできないらしいのだ。この世界の住民は魔力の根源である魔石とのかかわり方が違うせいじゃないかとアキは分析した。俺の力が不安定なのもたぶんそうじゃないかと言われた。
「国分くんってセンスないって言われない?」
「何も言わないでくれ」
陶芸の美的センスのなさを蒼井に指摘される。
「ハハハ!本当にセンスなさすぎだろ!」
確かに一番の難易度の低そうな湯呑を作ってるつもりだったのだがだんだん口だけが広がっていってそれを直そうと力を入れると今度はどんどん細長くなっていく。
「何それ!おもしろいな!」
オカマウザい。攻撃。
「お前こそなんだよ?それ?ゴミ?」
「お前が今ゴミにしたんだろ」
確かにつぶした。でも、そういうのってスクラップアートって言うんじゃなかったか?
俺は結局そこが異常に深い湯呑が完成して終了した。
その後は森林公園に行き昼飯のバーベキュウをする。それぞれ前もって分けられている班で肉などの食材が配られる。俺の班は俺とアキと美嶋とオカマといういつものメンバーだ。蒼井は別のグループに行ってしまっている。あいつは俺たち省かれ者と違い信頼されている。なぜ、俺たちとよく一緒にいるのか謎だ。
「肉食うぞ!」
「はい」
「いや、まだ生だよね」
「肉がほしいんじゃないの?」
俺はアキと共に肉と野菜をバランスよく焼いていく。他のみんなもワイワイと騒ぎ平和な雰囲気が流れている。
「なぁ」
「なんですか?」
「このままイサークが何もしてこないっていう保証とかないか?」
「分かりません。イサークさんの目的が定かではないです」
「そうか」
確かに今までの奴らはそれぞれ目的は違っていたがそれでも目的をもってこちらの世界にやってきて俺たちを襲っている。イサークはこの世界に来たのは逃亡のためで俺たちを襲う理由が見当たらない。
「・・・・・・あのこれは私の予想ですが、イサークさんがマラーという得体のしれない人物まで関わってここに来た理由が何となくですが・・・・・・」
「分かるのか?」
アキは頷く。肉を手際よくひっくり返していく。毎日自炊をしているせいかその小さくて細い手からは信じられないくらい手際のいい。
「教えてくれ。予想でもいい」
アキは焼き上がった肉や野菜を皿に盛る。俺は何枚か取って食べる。オカマが根こそぎ奪おうとするのを美嶋が押さえつけているところを横目にアキは語る。
「私はイサークさんとよくこうして教太さんや秋奈さんやオカマさんと同じようにいっしょにいるメンバーでした」
「そうなのか?」
「はい。イサークさんと私の他に、イズミさんとシンさんがいました」
ゴミクズもイサークと友好関係があったのか。あいつと面と向かった時、俺の意識が消えたときは旧友に会うために俺と無理やり交代したのかもしれない。以前に行為したことがある。その後、1ヶ月程度ゴミクズは出てこなくなった。力の使いすぎだとあいつは言っていた。
「イサークさんは戦場に出るたびに部隊が全滅してお酒によく溺れていました。それによく付き合ったのがシンさんでした。ふたりには特別な強い関係になっていたみたいです」
親友というわけか。あいつがあの場面で出てきたのが少しわかって来た。
「同じく戦場に出ては味方が全滅して自分だけ生き残ってしまったイズミさんがイサークさんの元に来るようになりました」
「イズミってイサークと同じ立場だったのか?」
「そうですね。彼女の使う魔術は遠距離で土人形を操作するものです。最前線に出ることはめったにないのが原因でしょう。なのでイズミさんは戦場の死神と呼ばれていました。本人は結構気にしていたみたいです。気が病んでいてとても普通の精神状態ではない状態でした。それを気にして声を掛けたのが」
「イサーク」
「そうですね」
イサークは同じ立場のイズミを慰めるためにそして、同じ傷を負っているからこそ話せることもある。いい奴じゃないか。
「私の場合は元々シンさんと仲が良くよくご飯とかも食べていました。その場にイサークさんとイズミさんもいたので自然と仲良くなっていきました」
なんか聞いてると普通の生活をしていたんだな。
「すべてがおかしくなったのはイサークさんが拘束されたところからです」
アキは手を休めず新しい肉や野菜を焼いていく。自分も暇が出来れば焼き終えた食材を食べながら話を進める。
「イサークさんが自分が生き残るために部下の魔力を奪って生き残って来たというものです。その当時戦況があまり芳しくない時期でした。その原因の一つとされたのがイサークさんでした。真っ先に否定したのはシンさんでした。誰よりもイサークさんのことを知っている人物だったのでそんなことする奴じゃないと上の人たちに訴えていました」
それを聞いてるとイサークがまるでいい奴みたいじゃないか?
「私もイズミさんも冤罪だと思いました。でも、イサークさんはその罪を認めました」
ということはやっぱり自分が生き残るために他人の魔力奪い殺したということになるだろ。
「イズミさんはイサークさんを助けるために牢獄にひとりで乗り込みました。もちろん失敗して拘束されました。それからしばらくして私も風也さんに生命転生をして魔力を半分失い、シンさんも死んでしまってもうぐしゃぐしゃでした」
すべては魔術のせいだろう。だが、アキの言う接点のない4人の関係を作ることが出来たのもまた魔術なのだ。
「それでここからが私の予想をした理由です。今までのは前置きです」
長い前置きだったような気がする。でも、聞いてよかった気がする。アキとゴミクズの生前からの親友。そして、同じ傷を負ったイズミを助けるかのように親友として迎え入れた。俺はこのままいけばイサークを殺してしまいそうだった。この力で人を殺さないという約束。イサークを殺したくない理由が少しできた。
でも、許せない。目の前で助けることが出来たかもしれない部下を簡単に殺して奪った力を使い楽しそうにしているあいつは許せない。
「イサークさんはシンさんに会いたかっただけかもしれないです」
ゴミクズにか?
「死んでこの世にいないのにか?」
「イサークさんはシンさんの力を伝承した教太さん自体をシンさんだととらえていると思います。あいつが死ぬはずがない。死神のオレやイズミよりもしぶとい奴だ。拘束中のイサークさんと面談した時に語ってことです。シンさんはまだ生きていると信じています」
確かにイサークの言っていることは合っている。シン・エルズーラン、俺がゴミクズと呼んでいる人物は確かに生きている。俺の心の中に居住して体を共有している。力も俺がものにしてるというよりは借りていると言ってもいい。
「イサークさんは教太さんに会うためにここまで来たと思われます」
本当にそれだけだろうか?俺に会うためだけならわざわざ多くの部下を連れてこずにイズミだけとか少人数で動いてこっそり会いに来ればいい。それがなんで施設の一部を破壊してまで俺たちを攻撃する必要があったんだ?
「もし、アキの言う仮説が正しいとするならあいつの目的はすでに達成している」
「そうですよね。もし、そうならもう攻撃はしてこないと思うんですけど・・・・・」
いや、あいつはおそらく来る。なぜか分からない。たぶん俺の確証ではなくゴミクズが確証しているのだろう。あいつはイサークの一番の理解者であったあいつなら知っているかもしれない。イサークがこっちの世界に来た理由が。
「おい!教太!肉!」
「オカマは黙ってろ」
「そろそろいい加減に名前覚えようか。俺の本名言ってみろよ」
「オカマ」
「先生!教太君がいじめてきます!」
いつもことだろ。そうやって絡んでくれるだけで喜ぶだろ。ドMが。
「教太」
「どうした?美嶋?」
「昨日の奴ら何もしてこないのかしら?」
「してこない方がいい。ここには以前のお前のような魔術に関わっていない奴しかいない。魔術に関わっていいことなんてない。分かるか?」
「分からないわよ」
「・・・・・・そうだな」
魔術を知ったのが昨日。まだ、魔術の残酷で悲しい存在であることを知らない。
「教太」
「本当にMだな。もっと、いじめられたいのか?」
「うるせー!俺も今は話しかけたくないけどよ!」
そのうち話しかけると言っている。寂しがり屋の不良。見た目は確かに不良だが中身は全く不良じゃない。
「野澤が呼んでたんだよ。三月さんもだって」
「私もですか?」
アキと目を合わせる。特に野澤に呼ばれるようなことはしていない。身に覚えのないことで起こられるのはごめんだ。でも、無視するとさらに面倒だ。行くしかないようだ。
「じゃあ、しばらく火元頼んだぞ」
「分かってるって!」
「美嶋」
「俺じゃねーのかよ!」
いちいちうるさい奴だ。
「美嶋。そいつもいい感じに焼いてくれ」
「焼かれるの!」
「嫌よ」
「だよな!美嶋!」
「食べてもおいしくないし。焼却ならいい?」
「いいぞ」
「いいわけないだろ!」
ピーピーうるさいオカマを放置して野澤の元に向かう。
周りではみんな楽しそうにバーベキュウを楽しんでいる。その光景は平和そのものだ。俺たちはいつイサークが襲いかかってくるか分からな恐怖と戦っている。野澤はそこから少し外れたところの先生専用の場所で同じようにバーベキュウをしている。だが、そこには野澤はいなかった。
「いないな」
「いないですね」
アキといっしょにいないことを確認。
「戻るか」
俺が引き返そうとすると。
「教太さん、見つけましたよ」
アキがみんなとバーベキュウをしている場所から離れたところにいる野澤を発見した。
「なんであんなところにいるんだ?」
「さぁ?」
アキと共に首をかしげながら野澤の元に向かう。
「野澤」
よかったな。出番があって。
声を掛けるが振り向かず俺たちに背を向けている。ようでもはしているのかと思ったが近くにトイレがあると最初に説明していたのは野澤だ。そんなはずはない。
「野澤先生?」
アキが声を掛けても返事がない。
何か様子が変だ。いつもなら呼んだだけでかけた声の千倍くらいの声で返事をしてくるような奴だ。そんな奴が異常に静かだ。
「お前ら!そんなところで何してる!」
俺たちの背後から声が聞こえた。俺は俺たちの声とは万倍も大きな声だ。振り返ると野澤がいた。いつものジャージの格好をした野澤だ。
「野澤先生?」
「じゃあ、目の前にいるのは?」
すると目の前の野澤が薄く半透明になっていく。
「幻影魔術!」
アキがそれは俺たちをおびき出すための魔術だと気付いた瞬間、俺たちを囲むように矢が地面に突き刺さる。するとその矢が地面の水分を吸ったのか、それぞれの矢を中心の地面が渇いた瞬間だ。
「キキキ。|水の散弾《アクア・ブックショット 》!」
矢から水の粒が勢いよく俺たちを襲う。
俺はアキを抱きかかえて右手の力を発動して地面を思い切り殴る。俺の力が地面を伝わっていつもの破壊の力が働いて地面が大きな音と砂埃をあげて陥没する。俺とアキは重力の力で陥没した穴の中に落ちる。矢から錯乱する水の弾の雨から回避することが出来た。
「アキ!大丈夫か!」
俺が保護するように抱えていたので直接地面に叩きつけられたわけじゃない。それでも心配だ。
「だ、大丈夫です」
「キキキ。すごいね。あのかわすことも防御もできない状況でこんなことをするなんて」
レイが覗き込むように俺たちを見下している。
「でも、それは間違った選択。だって今の君たちは的」
弓を構えて矢をこちら向ける。
「それはどうかな?」
俺がそういうとレイは少し戸惑った。
「こんなことをした後は敵の集中砲火にさらされることくらい分かってる。でも、俺たちはふたりだけじゃないぞ」
その瞬間、宙にレイに襲いかかる影。近くに待機していた霧也だ。その右手にはすでに風を纏った右風刀がある。完全に油断していたレイに襲いかかる。
「させないである!」
その間に飛び込むように巨漢の男ドルダック。鉄のハンマーで霧也の斬撃を受け止める。ハンマーには魔術が纏っていないもののドルダックは自慢のパワーで霧也の風の攻撃を受け止めた。俺たちを狙う隙の出来たレイは俺たちに矢を向ける。でも、その隙は俺たちのもあった。俺は地面をえぐるように掴みかかる。俺はこの破壊の力をここに来うまくコントロールすることが出来てきた。昨日、イサークに襲われた時破壊の力を抑えることで壁をよじ登ることが出来た。今の俺は触れた物は好きなように破壊できる。
俺はレイの足元の地面を破壊した。足場が突然崩れたレイは矢を打てるわけもなくその場に倒れ込む。
「アキ!行くぞ!」
アキを引き連れて穴から脱出する。砂埃から抜け出すとバーベキュウ会場はパニック状態になっていた。要所要所にある木の上には何人か人がいる。それは全部イサークの部下であることは言わずとも分かる。それぞれが武器を片手にカードを片手にしている。ついに奴らが本気で来たようだ。
「アキ」
「は、はい」
「美嶋を頼む。あいつをこの状況でひとりさせておけない。頼んだ」
美嶋のことだ。俺のために慣れない魔術を使って魔術師に応戦しようとするかもしれない。まだ、昨日やっと使えるようになっただけの未熟な美嶋が危険だ。
「頼んだ!あいつらは俺が引きつける!」
「俺らだろ?」
砂埃から出てきたのは霧也だ。左手には右風刀と右手に雷を帯びた小刀。霧也の言う剣術の型が出来上がっている。最初から本気で行くようだ。
「ここまで来たら最後まで付き合ってやる」
「ありがとうな」
「まったくなぜイサークなんていう勝ち目のない教術師とやる羽目になるんだ?」
「ハハハ」
確かに霧也は最初からずっと反対していた。でも、ここまできてしまったら仕方ないと吹っ切れてくれた。
「教太」
「なんだ?」
「死ぬなよ」
「お前もな」
霧也は小刀の雷を止めて右風刀の風を起こして敵陣に突っ込んでいく。
「行け!アキ!」
敵の魔術師から放たれる無数の氷柱を俺は力を使って破壊して防ぐ。
「は、はい!気を付けてください!」
これで終わりにしよう。俺と同じ無の男イサーク。




