仮面の女③
この世界に来て間もなく1週間になる。ようやくこの世界の生活に慣れてきた。最初に来て思ったのは明るく静かで平和だ。俺もこんな世界に生まれたかったと何度も思った。魔力という人の才能を数値で表す物がなく皆平等に生きている。人の上に立ちたいと思うのなら立てる可能性もある。ひとり静かに質素に生きようと思うのなら実現可能だ。才能を隠して生きるということもできるだろう。
魔術の世界では無理だろうな。すべてのことに魔力が関わり才能を隠そうとしても不可能に近い。それにこの人から有を奪わないと有になることのできない力ときた。魔術の世界でいいことなんてないな。
この世界は自由で好きだ。シンが気に入るのも分からなくもない。
「イサーク様」
イズミが部屋に入って来た。こいつが俺の自室に入ってくるということは特に大切な用がない限りない。俺のことをまるで王様のように慕っている忠実な犬だ。こいつもオレとは路線は違えど苦労してきている。
「どうした?」
「仮面の女が来ています」
「マラーか」
こんなところまでやってくるのかよ。
今のオレたちはマラーの用意した別荘を拠点としている。シンたちが泊まっている建物からはそれなりの距離があるがマラーが探知にかけられてもぎりぎり範囲の外に最適な場所だと言っている。一応、それを信用したという形だ。ここには俺以外にもイズミのような部下もいる。その部下どもがオレ専用の部屋だと言ってこの一部屋をオレの部屋にしている。一応、応接間のようだ。
「入れていいぞ」
「はい」
イズミが部屋から出て数秒すると仮面をつけた女と機関銃を持った同じく仮面をつけた部下もつれている。
「ど~も~」
軽く手をあげて部屋に入る。イズミは素早く俺の背後に立って警戒を強める。入り口にはドルダックとレイがいる。こいつらは何を考えているのか分からない得体のしれない奴らだ。警戒して当然か。
「まぁ、座れ」
「どうもどうも」
マラーは俺の正面のソファーに座る。オレも正面に座る。
「何か用か?こっちに来てからの作戦はオレたちの自由でいいって話じゃなかったのか?」
まぁ、条件付きだったが。こちらの世界の住民にはなるべく魔術を見せないようにしろというものだ。なんだか知らないがいろいろと厄介らしい。
「いやいやそんなことじゃないよ。私たちが指定した期間を半分過ぎたよ。そろそろ急いでほしいな」
こいつらのつけてきた条件のひとつの機関。シンたち一向はあの施設に4日しかいない。最終日はほとんどないと言ってもいいらしい。ここまで2度仕掛けているがどちらも成果はない。
「お前らの条件をなるべく守ろうとしているせいだ。そうじゃなかったら、今頃終わっている」
「そうかもね」
マラーは周りを気にしている。
「ふたりっきりで話したいことがあるんだよ。そこの子を部屋から出してくれないかな?」
「貴様!私がいない間にイサーク様に」
「何もしないよ。こっちも護衛を外に出すから。それに私とあなたのボスが戦ったら確実に私が負けるよ」
イズミはそのことについては何も言い返さなかった。こいつはオレをこの世界で一番強い存在だと思っている。確かにこの力は使いようにはあの4大教術のひとりであるMMもシンも倒せるかもしれない。だが、それを分かったうえでこいつはなぜオレの前に現れたんだ?
「出てくれる?」
イズミに再び聞く。迷っているようだ。こいつは自分で判断する決意がかけている。誰かが言ってあげないといけない。
「イズミ。外に出ろ。オレは大丈夫だ」
「・・・・・・・はい」
渋々部屋を出るようだ。
「貴様から出ろ」
そうマラーの部下に言いつける。マラーの部下はそれに素直に従って部屋を出る。イズミもその後を追うように外に出る。
「イサーク様。気を付けて」
イズミはそう告げると部屋を出る。静けさが部屋に広がる。
「さて、ふたりっきりになれたね」
「お前は何がしたい。オレをこの世界に逃がして。何が目的だ?」
「何って。君の願いを叶えようとしているだけだよ」
「何?」
「君は親友であるシン・エルズーランに会いたかった。でも、彼は死んでしまった。最後にあったのはいつかな?」
オレが牢獄に入れられる数日前が最後だ。確かにこいつの言うようにあいつに会って話したいことがあった。でも、さっきは話せずに終わってしまった。頼みたいことがあった。それは親友である、最強であるシンにしか頼めないことだ。
「私はそれを知ってる」
「・・・・・・何?」
「誰にも話した記憶はないと思ってるでしょ?ウフフ。でも、知ってる。シン・エルズーランに会って話したいこと。それをかなえてあげようと用意した環境だよ」
こいつの言うとおりだ。オレは会えないと思っていたシンに会うことが出来た。死んだはずのあいつにだ。
「これで君の目的はほぼ果たせたのと同じじゃないかな?だから、私たちの要件も実行してほしいな」
「ああ、分かってる。シン・・・・・国分教太以外の魔術師及び魔術師になりうる可能性のある人物の抹殺だろ」
「よかった」
仮面の女、マラー。一体目的はなんだ?何度か表の世界でも名前を聞く人物だ。だが、その目的はいつも不明確で方向性が謎すぎる。上の奴らはただの冷やかしだろうと言っていた。だが、今のこいつは何か目的がありそうだ。
「お前はなんのためにここにいる?」
マラーはオレの話を無視して立ち上がり部屋を出ようとする。オレも立ち上がり左目だけを開けてマラーの思考を読もうとする。分からなければ自分で知ればいい。
「何してるのかな?」
マラーの手には銃が握られていた。
オレは両目を開ける。
「そんなものでオレを殺せるとでも?」
「思ってないよ。でも、今の君は人から盗んだ視界系の教術しか使えないことも知ってることを頭に入れてほしいな」
なるほど。確かに今の俺にはその銃から撃たれる銃弾を防ぐ手段はない。
「でも」
マラーは銃をしまう。
「君に私の思考は読めないよ」
そういって部屋のドアノブに手を掛ける。あれは自分たちを変に詮索するなという警告とオレの持っている力など脅威ではないという余裕を示唆させようといたものだ。だったら。
俺は左目だけを開いてマラーの思考を読もうとした。その瞬間、何かはじかれ押されるようにソファーの上に座る。
「なんだ?」
マラーはオレの方を見て薄気味悪く笑い部屋を出た。
「今の何だ?」
思考を読もうとマラーの方を見たら何か電磁バリアのようなものに阻まれて無理やり切断されたような感じだった。なんだ?魔術か?いや、魔術を発動しているようなそぶりは見せていない。それに何か魔力を感じればイズミあたりが部屋に飛び込んで来る。教術でもない。一体あいつは何者だ。
「イサーク様」
イズミが入って来た。オレの顔色を見て心配そうな顔をしている。
「オレは大丈夫だ」
オレは自然と左目を開いてイズミの方を見る。イズミの思考は単純だ。オレのことが心配で頭がいっぱいになっているはずだ。ちゃんと使えるかどうか試しにやってみたがおかしなことが起きた。
「どういうことだ?」
「どうかなされました?」
オレは右目を開いてイズミに向かって透視を行う。下着とか見るつもり透視してみるが見ることが出来ない。力がオレの奪った力が使えなくなっていた。
「・・・・・・・・・」
「イサーク様?」
マラーは一体どんな魔術を教術を使ったんだ?
いろいろと厄介そうな奴の手を借りたものだ。
「イズミ」
「はい」
「明日ですべてのけりをつけるぞ」




