想い届け③
「なんで急にいなくなったんだよ!」
「黙れ。オカマ」
「美嶋もなんでいなかったんだよ!」
「うるさい。オカマ」
「三月さんも!」
「静かにしてください。オカマさん」
「・・・・・・・蒼井助けて」
「さようなら。オカマくん」
「俺に味方はいない」
まさにその通りだ。
「野澤先生が3人も生徒がいなくてすごい慌ててる姿は面白かったよ」
それは見てみたかったな。
今俺は美嶋とアキとオカマと蒼井というもういつものメンバーと言ってもいいほどいっしょにいるメンバーと飯を食べている。俺はまだ傷が痛む。両手のできた複数の切り傷は浅くすぐに治ったが傷跡が無数に残ってしまい隠すために長袖を着てごまかしている。
美嶋は少し元気がない。俺が気絶している間に魔術のことも俺がなぜ教術を使えるようになってしまったのか、俺が今まで何をしてきたのか、すべてアキと霧也から聞いたらしい。俺がこうして目が覚めても未だに面と向かって話をしていない。アキ曰く美嶋は俺の苦労を知って嫉妬に狂ってしまった自分が許せないようだ。確かに俺も自分を許せない。美嶋に魔術を関わらせてしまった。自分の力不足と気配りの悪さにもうひとり自分がいるなら殴ってもらいたい。
「ごちそうさま。先に行ってるわね」
美嶋がそうアキに告げると食器の乗ったトレーを持って返却口において食堂を後にした。
「国分くん。美嶋さんと何かあったの?」
「いや・・・・・特に」
「そう?二人っきりでこの建物にいたんでしょ?」
「何!何か羨ましいことでもしているとか!」
「しゃべるな。オカマ」
別に羨ましいことなんて起こってない。それにアキもいっしょにいたということになってるから二人っきりというわけじゃない。
「そうか。じゃあ、女の子二人に迫られるハーレムになってたとか?」
「教太!貴様!」
「呼吸をするな。オカマ」
「だんだんひどくなってるような」
気にするな。
「何も起きてないの?」
「別に何も起きてないですよ」
「つまんないの」
アキに確認をとっても何も面白いことが起きないと分かった蒼井は少しつまらなそうな顔をして席を立った。正直、美嶋よりも蒼井の方が俺の隠している魔術のことが簡単にばれそうだ。今度から注意しよう。
「なぁ、教太」
「生きるな。オカマ」
「俺には否定以外の言葉をかけてくれる人はいないのか?」
「人類には無理だな」
「ひどくね?」
「ひどくない」
俺も飯を食べ終わって席を立つ。アキも同時に席を立つ。
「教太。風呂でも」
「却下」
オカマが泣きそうになったので次からは自重しよう。俺も自分を有にした目的を果たせなかったことにイラついていたのかもしれない。
「なら、トランプでもやろうぜ。三月さんも美嶋もいっしょに」
「悪い。これから俺たちは別の用事が」
これはオカマが嫌いだとかそういう理由ではなくリアルの用事だ。
「もういいよ!俺はひとりでトランプで遊ぶからよ!」
そう泣きながら食器をしっかり返却口に戻して食堂を飛び出していった。
「なんかかわいそうですね」
「仕方ないだろ」
少なくとも俺はあいつにも魔術と関わってほしくないと思っている。俺の周りには魔術の敵も味方もこれ以上必要ない。
「さぁ、行くぞ。美嶋も霧也も待ってる」
「そうですね」
俺たちは衝動を後にして施設の敷地にある体育館に向かう。そこでは霧也があらかじめ結界を張って待っている。俺と美嶋とアキ以外誰も入ってこれないようにしている。そこで行うのは美嶋の魔術の適性を調べるものだ。魔術の属性魔術。使えるものと使えないものがその人の魔力の波長によって決まる。美嶋は氷属性を俺の前で使った。だから、それ以外の属性魔術は氷属性の特性上使うことが出来ない。だが、美嶋には本人の他にアキの魔力も流れている。霧也のようにその一部が使える可能性もある。それをこの自由時間を使って検証する。
俺とアキは無言で体育館に向かう。お互いに落ち込んでいるのだ。俺は目的のことでアキは美嶋が自分のように魔女になることを恐れていた。
「美嶋の魔力のランクってもう調べたって言ってたよな?」
「はい」
「どのくらいだ?」
五芒星の氷の魔術を使っていたのだから中級レベルの魔術師であることはまず間違いないと思う。
「ランクは・・・・・・・Aです」
「A!」
思わず声を張り上げて同じことを言ってしまった。
「魔女だった当時の私とほぼ同じランクです。なのであの時に使っていた中級の氷魔術が使うことが出来ました」
いい戦力にはなるが、果たして美嶋は魔女にならずに俺の元にいつもと同じ笑顔で隣にいてくれるのか。不安が募る。
「なぁ、魔術にさ。記憶をいじるようなものはないのか?」
「なくはないです。ただ、上級の精神系魔術なので使用するにはランクも技術も必要です」
難しいのか。魔術っていうのは万能ではないかと思っていたがそこまではできないか。
なんだか全体的に暗い。明るい話をしよう。
「ふっと思ったんだけどさ」
「はい?」
俺の声が明るくなったのに気付いたのかアキの返事が重いものから素直なものに変わる。
「今まで見てきた魔術は戦うためのものが多いけど、アキの世界だと日常にも魔術は使われるんだろ?」
アキは頷く。
「どういう感じに使ってるんだ。属性魔術とか」
「そうですね。属性魔術は私たちの生活には欠かせないものですよ」
「例えば?」
「調理のために火を起こすのは火属性魔術ですし、掃除のための埃を舞い上げるのには風属性です。水属性なんかは作物の水やりとかに使っていますね」
「意外と普通だな」
「魔術は元々戦争の道具として開発されたものです。それをただ日常に使えるように工夫しているだけです。こちらの世界でも同じじゃないですか?インターネットとかも元々は軍事的利用だと訊いています」
確かに戦争によって生み出されたものが俺たちの生活を豊かにしていることも多い。魔術の世界でもそれは同じみたいだ。どの世界に行っても悲しいことが共通しているのかもしれない。
「電気とかはどうやって作ってるんだ?」
「魔石は知ってますか?」
「それのおかげで魔術が生まれたとか聞いた」
「その魔石には属性というものがあり、電気は雷属性の魔石によって作ります。その魔石に魔力を流せば魔力のタイプが雷に向いていなくても雷属性の魔術が使えるんですよ」
「そうなのか?」
「はい。魔力を集めて常に流すことが難しいことなので私の世界ではどの国も電気不足です。こんなに明るいこの世界に最初は驚きました」
アキと初めて夜の街を歩いたとき、夜空の下で明るく輝くショッピングセンターを見てアキは感動していた。あれはそういう意味だったのか。
「魔石は貴重な資源です。代わりを探している研究者もいますが、内の組織のボスのように異世界に行って使われていない魔石を掘り当てようという計画を立てているところもあります」
資源がないとかどこかの世界と同じだな。
「大変だな」
「・・・・・そうですね」
アキは一瞬何か悩んでいるに見えた。何を悩んでいるのか知らないけど。
体育館にやって来た。重い鉄の扉を開けると中に美嶋と霧也が待っていた。
「遅いぞ」
「悪い」
美嶋は屈伸とか準備運動をしている。
「それ必要か?」
「一応よ。怪我したくないし」
「秋奈さん必要ないですよ。体を使うわけじゃないので」
「え?」
「いや、俺も何度もいってるのだが」
霧也にも言われて赤面する。
「い、いいからやるわよ!」
なんかいつも感じで少し安心する。
広い体育館にたった4人だけ。結界を張ってあって俺たち以外は入ることも中を覗くこともできない。音も物を壊しても外には何の影響もない。ショッピングセンターに閉じ込められた時にアゲハが使っていたものと同じタイプの結界らしい。
その体育館の中心に美嶋は立つ。魔術を使うのは美嶋だけだ。なるべく建物に影響がないようにするためだ。
「美嶋さん。説明したように魔術の発動を発動してみてくれ」
そういって霧也がカードを渡す。
「それはなんの魔術だ?」
俺が確認のために聞く。
「氷属性魔術だ。レベルも低いから大丈夫だ」
霧也も一応離れてバットケースから刀を取り出している状態だ。刃は抜いていないがいざというときには抜けるような状態だ。
美嶋は大きく深呼吸をしてカードと十字架をかざす。
「行きます」
そういうと手のひらの上にカードを乗せてそこに向かって十字架を打ち付ける。俺もなぜか身構えてしまう。アキも同じようだ。あれを少し距離の置かれたところでやられると攻撃されるのではないかと思ってしまうせいだ。
で、しばらくする。
「・・・・・・・あれ?」
何も起こらない。
美嶋はもう一度打ち付けてみる。やっぱり反応がない。もう一度やってみる。反応なし。もう一度。なし。連続で打ち付けてみる。やっぱり反応がない。美嶋は俺たちが魔術を発動すると身構えているのを見ている。何も起こらないことが恥ずかしいと思ったのか。意地でも発動させようと何度も連続で十字架を打ち続ける。でも、やっぱり反応がない。
「美嶋。その辺に」
「う、うるさいわね!今は少し調子が悪いのよ!あたしが本気を出せば!」
そういって十字架に向けて力を入れこむ姿勢になる。そして、十字架を打ち付ける。
はい、反応なし。
「何で発動しないのよ!」
「痛!」
イライラした美嶋が十字架を八つ当たりで俺に向かって投げてくる。
「何すんだよ!」
「ちょっと黙ってなさい!」
ダメだ。制御不能になっている。
「教太!それこっちに渡しなさい!」
「お前が投げたんだろ!」
めんどくさい。俺は親切に十字架を美嶋に渡す。美嶋は奪うように受け取る。
ここで美嶋に魔術を関わらせたことを改めて後悔する。
「おかしいな」
「そうですね。お昼の時は確かに発動してましたよね」
アキと霧也は魔術が発動しない理由を話し合っている。俺の苦労を全く見ないふりして。
「条件とかがあるのかもしれない?」
「魔術師にですか?教術師にはあるかもしれないですけど・・・・・・」
教術師は自らの意思だけで発動することが出来る。よって術者の意思や感情に強さが左右されることが多い。魔術は道具が必要なので意思や感情はあまり関係ないと思われているらしい。
「教太」
「なんだよ?」
「魔法とか使うときに呪文とかいうじゃない。チチンプイプイとか。・・・・・・・必要なの?」
「お前何言ってるの?」
必死に発動しようとしているが、俺としてはこのままでいい。
「いいわけないでしょ!」
「十字架の使い方違いますよ」
十字架で俺の首元を突き刺して脅してくる。このままいったら喉を貫通しそうなんですけど。怖いんですけど。
「氷属性が魔力の波長にあってないとかどうですか?」
「じゃあ、どうやって氷属性を発動させたんだ?」
「そうですよね~」
「昼と同じ状況を作ってみてみるか」
「おい、ちょっと待て。そしたらまた俺の命の危機が訪れる」
「別にいいだろ」
「そうですね」
おい。軽くないか!そして、アキはなぜ賛同している!
美嶋は俺たちのことを無視してカードに向かって十字架を打ち続けている。床においたり頭の上においたりいろいろ試しているようだが何も起こらない。なんでさっきは発動したんだ?謎すぎる。
「教太。アキナ」
「なんだよ?」
「何ですか?」
「教太。アキナに愛の告白をしろ」
「は?」
「アキナはそれに答えるんだ」
「ちょ、ちょっと何を!」
アキも赤面している。確かにアキはかわいいし、忠実だし恋人にするには何ら問題はない。ただ、こう言われてやるほど俺もチキンじゃない。でも、なぜ今?
「確かに昼とほぼ同じ状況にはできますよ。でも、それ以外にも方法が」
「やるしかない。もし、美嶋さんが暴走して危なったら必ずアキナは助けてやる」
俺は?
確かに相手されなくなって逆にアキばかりに興味が言ってしまった美嶋の嫉妬があの魔術の発動の原因なら俺はイサークと戦うとき味方からの攻撃も警戒しないといけないのか?絶対美嶋には魔術を使わせない。今までは何だか詩趣が変わっているかもしれないけど、美嶋は魔術を使うべきじゃない。命が危ない。・・・・・・・俺の。
「教太さんやりますよ」
「ちょっと待て!俺の命を危機にさらしてまでやることなのか!」
「アキナが大丈夫ならいいだろ」
「いいわけないだろ!」
「ちょっとさっきから何そこでこそこそやってるのよ!」
やばい。
「行くしかないぞ」
「教太さん」
美嶋には聞こえない声で俺に催促する。やるしかないのか。
「あ・・・・・・アキ」
「は、はい」
アキの声が最初だけ裏返る。緊張しているのだろう。
というかなんでこんなところで緊張しないといけないんだよ。
「お前のこ・・・・・ことが・・・・・・・」
あれ?俺ここに何しに来たんだっけ?
「す・・・・・・す・・・・・・」
やばい。アキも恥ずかしそうな顔をしている。その姿が何だろう。すごく引かれる。
「教太?」
「はい?てっ!」
美嶋の左手には氷の槍がありそれを俺に向けている。
「普通に発動してるじゃねーか!」
「今アキに向かって何を言おうとしたの?」
「いや・・・・・・・特に何も」
「言いなさい!」
氷の槍が飛んでくる。俺は力を発動させて攻撃を防ぐ。切り傷が少し入る。
「待て!おい!霧也!レベルの低い魔術じゃないのか!」
「発動者の魔力が強いとそれなりに魔術というものは強くなるようなものなんだぞ」
「何傍観者気取ってやがる!」
「教~太~」
「待て!落ち着け!自分の手をよく見ろ!」
訊く耳を持たない。
「秋奈さん!魔術が発動してます!く見てください!」
「あ。本当だ」
美嶋はアキの言葉によって美嶋は自分が魔術を発動していることを認識する。俺の声ではなくアキの声でだ。あれだけ俺をアキに取られて嫉妬していたくせに。俺の声は聞かないのかよ。
「どうやって発動したのかしら?」
自覚なしかよ。
「俺の説明したように発動していたよ」
霧也がちゃんと見ていたらしい。
「条件があるのかもしれないですね」
「どんな?」
「教太さんを攻撃するとか?」
「そんな条件必要ないだろ」
あったら困る。
「だが、聞いたことないな。魔術の発動条件は陣と十字架が必要ということと、魔力の量、波長くらいだ。教術じゃないんだ。そんな条件はない」
そんな断定できるほど魔術の発動条件が限られている。こっちの世界に科学的な常識があるように魔術の世界にも魔術的な常識がある。霧也はその魔術の常識の範囲内でそう断定した。
「秋奈さんは魔術が発動した時の感触とか何か感じたことはないですか?」
「・・・・・・そうね~」
その時のことを思い出すように俺の方を見る。
「教太をぶっ飛ばしたいなぁ~って思ってたわね」
「じゃあ、それは発動条件に」
「なるわけないだろ!」
なんだよ。こいつら俺で遊んでるのか?
「なぁ、ここでやるのって本当は美嶋がアキの魔力を使った雷属性魔術術が使えるかどうかを試す場じゃなかったのか?なんで魔術を発動条件を探す場になってるの?」
「魔術が発動しないからですよ。それにしてもおかしいですね」
「確かにおかしい。もう一度魔術を発動してみてくれ」
霧也に言われてカードに十字架を打ちつけるがやっぱり反応がない。
「次は教太を殺そうと思って発動してくれ」
その実験はやめてくれない。
美嶋は俺の方を睨めつけながら発動してみるが反応がなかった。
「ほら!やっぱり俺を殺そうとすることが発動条件じゃねーよ!」
「ちょっと黙ってろ」
霧也は顎に手を当てて考える。
「アキナ」
「はい」
「この世界の住民は俺たちと何か違うところはないか?教太もそうだ」
「違うところですか?そうですね」
アキ俺の方を見て考える。この世界の奴で魔力の類を使っているのは俺だけだ。美嶋も使っているが自分の意思で発動しないからいろいろ戸惑っている。
「教太さんは自分の持っている魔術、教術を使ってないところですかね」
「どういうことだ?」
「今の教太さんの教術はシンさんの物です。言ったと思いますが転生した魔術師はその転生した魔術と自らの持つ魔術も使うことが出来ます。風也さんがいい例です」
確かに霧也は自分の持っていた風属性の魔力と転生によって体内にあるアキの魔力で雷属性を使っているのに同じように俺も俺自身の魔力があるはずだ。だが、俺は一度も使っていない。
「なら、アキナの魔力を使えるかもしれないな」
そういって霧也は新しいカードを渡しに行く。
「これは?」
美嶋が聞く。
「雷属性の魔術だ。推測だが、この世界の住民は自分の魔力を使うことが難しいらしい。美嶋さんが元々持っている自分の魔力を使って氷属性の魔術が使えたのはたまたまかもしれない。とりあえず、魔力を使って魔術を使うことになれてほしい」
「分かった」
再び霧也が距離を置く。美嶋はさっきと同じように一呼吸おいてカードに向かって十字架を打ち付ける。緊張感が走る。でも、それは一瞬だけだ。なぜなら何も起こらないからだ。
「あたしって才能ないのかしら?」
その場に膝をついて落ち込む。才能がないわけではない。二度発動して使いこなしているのだ。魔力の量も霧也のはるか上をいっている。でも、どうして発動するときしない時とあるのか謎だ。
「もう一度やってみる」
美嶋はめげずに何度も発動しようとするが何も起こらない。これは大丈夫じゃない。
「霧也」
「なんだ?」
「この状態の美嶋は果して役に立つのか?」
「・・・・・・・難しいな」
それを聞いた美嶋は十字架を打ちこむ手が止まりしょんぼりする。仕方ない。魔術が使えたのならその強力な魔力で大きな戦力になるが使いこなすことが出来ないのなら意味がない。
「美嶋には今まで同じように魔術に関わらないように」
「そんなの嫌よ!」
美嶋は叫ぶ。美嶋の願いは俺と同じ立場でいっしょにいることだ。俺がそれを拒否していたが踏み込んできた以上仕方ないと思っている。でも、魔術という自衛が出来ない美嶋を危険な場所に行かせるわけにはいかない。
「せっかく・・・・・・教太といっしょに・・・・・・・」
美嶋は目に涙を浮かべながら必死にカードに向かって十字架を打ちこんでいく。でも、美嶋の気持ちとは反面に魔術は美嶋の気持ちに答えてくれない。
「お願いよ。・・・・・・お願いだから・・・・・・」
どんどん打ちつける力が弱くなっていく。美嶋もその場に崩れ落ちる。
その姿は見るに堪えない。
「美嶋、あきらめろ」
美嶋はその涙のせいで崩れた美人の顔を俺に向ける。
その表情でこっちを見るな。こっちまで泣けてくる。
「美嶋」
「嫌よ」
まだ何も言っていない。でも、俺は一体何を言おうとしていたのか。考えていなかった。
「教太が一体どんな目にあって来たのか、あたしのためにどんな危険なことも知らなくていいことも知ったのか、全部聞いた話であたしは本当のことを知らない」
本当に知らないでいてほしかったよ。
「教太があたしを守りたかったんでしょ?じゃあ、教太は誰が守るの?」
え?
「あんたは人を守ることばっかりで自分のことを何にも分かってない。あんたが傷ついたり・・・・・・死んじゃったりしたら誰が悲しむのか分かってるの!」
それに関しては言いかえす言葉がない。俺は美嶋やアキが安全で生きているのならそれでいいと思っていた。俺自身のことなんて考えたこともない。
「あんたが死ぬことはあたしにとっては死と同じなのよ!あんたが死ねばあたしも死ぬ!このことが分かってるの!」
俺は声で返事をすることが出来ず頷くことしかできない。
「だったらあたしはこの力を・・・・・自分を守るために使う!それは遠回しだけど教太を守ることにつながる。だから、あたしは・・・・・・あたしは!」
美嶋は再び立ち上がりカードと十字架をしっかりつかむ。
「だから答えて!あたしの気持ちに!」
そういって美嶋はカードに向かって十字架を打ち付ける。すると美嶋を中心に半径数メートルの陣が発生した。中心には三角形。レベルは一番低い。だが、美嶋の体を包むように走る紫色の稲妻がひとりの女の子の一途な願いを叶えそれにこたえるかのように力強かった。
「美嶋」
雷に包まれた女神のような美嶋に声を掛ける。
「お願い。教太。あたしをあんたの隣にいさせて」
手を差し伸べてくる。本当は美嶋を守るために俺がやるべきことなのだろう。でも、今の美嶋がいればイサークに勝てるかもしれない。借りよう。たった一人の女の子の願いをただ叶えるだけじゃないか。
「頼むぞ。美嶋」
その返事を聞くと美嶋はパーッと笑顔になる。その笑顔は今纏っている雷よりも明るく輝いていた。
「教太!」
美嶋が俺に抱きつこうと飛び込んで来る。雷を纏ったまま。
「ちょっと待て!それは不味い!止めろ!来るな!あああああああああ!」
体中がしびれる感覚をここで初めて経験した。




