劣化部隊②
俺にできること。アキに会う前は誰にでもできることしかできなかった。だから、俺じゃなくてもよかった。そのせいか俺は他にできる奴がいるのならそいつに任せればいいと人任せになっていた。ほぼ無に近くなっていたのもそれが原因のひとつだろう。
もともと出しゃばるのはあまり好きではなかった。能力があろうがなかろうが控えめなところが俺にはあった。でも、アキのおかげでそんな俺が消え去りやるべきことはやる。自分の責任を果たす。有となりうる自分に変わることが出来た。消極的だった自分でなくなった今の自分が俺は好きだった。
でも、今壁にぶち当たる。自分の持っている能力をうまく出し切ることができず、やるべきことが出来ないでいる。こんな悔しいのは久々だ。
だからと言ってもあきらめない。そう教えてくれたのはアキだ。彼女は自分の魔力が尽きようが自分の目的に忠実で一生懸命だ。俺も同じように取り組めばきっとうまくいく。
そのためには一旦冷静になるんだ。うまくイサークと一騎打ちに持ち込めば勝ち目はある。
仮にこの力をイサークが奪ったところで神の法則で守られている。使えるとは限らない。
霧也はそのことを知らないような感じだった。でも、このことはアキから聞いた。知っている奴と知らない奴がいるみたいだ。どういうことだろう。
「それはシンの親友であるかないかの話だ」
ロビーにほど近い廊下の先でその声は聞こえた。
「魔女は俺と同じようにシンとかなり仲のいい関係だったからな」
「イサーク」
身構えて両手の力を発動する。隣にはあの眼鏡をかけた長身の女魔術師がいる。今度は左目だけを開けて俺の方を見ている。一騎打ちとは違うが近い状態になっていることは確かだ。
「シンは自分の力を理解し信用するからこそ最大限に使い最強の名を手に入れた。それに比べてオレは自分の力を信用していない。だから、他人の力を使う。そういうわけだ。それはシンの力だ。お前の物じゃない。だったら俺にくれよ」
「誰がやるかよ」
「・・・・・・・そうか」
イサークが左手をあげると廊下の影からひとりの清掃員が現れた。イサークの仲間のようだ。するとイサークのすぐそばで膝をついて手を差し出す。イサークはその手を左手で握る。何をしているのか俺には分からなかった。
しばらくして異常に俺は気付く。清掃員が顔色が悪くなっていき息も苦しそうになっていく。それは戦闘の後でアキが必ず起こる魔力不足によっておこるものと同じだ。
「お前!何してやがる!」
俺が怒鳴るとイサークは手を離した。清掃員はその場に倒れて動かなくなる。
「何って魔力をもらったんだ」
「簡単に言うな!」
「簡単だ。俺の部下たちはいつでも俺に魔力を譲渡するつもりここにいる。この隣にいるこいつもそうだ。そうだろ」
「はい。イサーク様のためならこの命」
狂ってる。イサークもそうだ。あの女の人もそうだ。
「イズミって言う女の子もドルダックもレイっている奴もそうなのか?」
「そうだな。今持ってる属性と不利だったら交換のために呼べば飛んでくるぞ。そして、嬉しそうに俺に魔力をくれる。いい部下だろ?」
ああ、いい部下だよ。
「お前は最低な上司だけど!」
俺はイサークに向かって走り込む。
「俺はシンの力を誰よりも知ってる。あいつが苦手としていた属性もな」
イサークが右手をこちらに向ける。すると右手を覆うように炎が纏う。そして、狙いを俺に定めると炎を俺に向かって撃ちこんで来る。
俺の力は物体、形を持つ物しか破壊できない。炎はその破壊できないもののひとつ。ウルフとの戦いで経験済みだ。咄嗟に横に飛びかわす。廊下の先が爆炎をあげて爆発する。爆風の熱で体全体が焼けそうになる。
「外れましたね」
部下の女の人が右目だけを開いていう。
「いい目だな。後で借りるぞ」
「はい」
「何言ってやがる!」
俺はイサークに向かって力を発動させたまま殴りにかかる。だけど、隣の女の人が来るとイサークに教えていたせいかいち早く気付いて攻撃をかわす。大きく後ろに飛び退く。部下の女の人を置いて逃げる。
「部下を守らなくてもいいのか?」
「別に」
いちいち俺の腹の立つことをピンポイントで言ってくるやつだな。
「仕方ないだろ。そいつ足が悪いんだ」
「何?」
女の人を見ると椅子に座っていた。バーカウンターとかにおいてある高い椅子だ。長身に見えたのはこの椅子に座っているせいだ。イサークばかり見ていたせいで気付かなかった。足も浮いている。
「私に同情しないでほしい。そんなものはいらない」
「バカだろ。もし、俺が人を殺さないことを貫いていなかったら死んでいたかもしれないんだぞ」
「それならあなたに隙が生まれてイサーク様が攻撃しやすい」
何言ってんだ?こいつは自分が死んでもいいみたいなことを言ってやがる。
すると俺の足をがっちり掴んでくるやつがいた。
「なんだ!」
見ればさっきイサークに魔力を吸われた清掃員がいた。
「イサーク様!自分事やってください!」
「おい!お前!」
「動くなよ」
イサークが炎を右腕に同じように纏う。
「待て!近くに味方がいるだろ!」
「だからどうした」
「腐ってやがる。何から何まで!」
イサークの容赦ない炎の攻撃が俺を含む部下ふたりを襲う。俺は足元にいる部下を振りほどく。その力は弱々しくすぐにほどけた。俺はその部下を抱き上げて椅子に座っている部下を抱いて横に飛び込んでイサークの攻撃をかわす。炎は俺のすぐ後ろにあった壁に当たり爆発する。背中が燃えるように熱い。
「何してんだ?敵を助けるなんて」
体の一部ががれきに埋もれながらも俺は立ち上がる。俺の守った敵は無事のようだ。だが、魔力奪われた清掃員は全く動かなくなった。眼鏡をかけた女の人はあおむけの状態で首だけを俺の方に向けている。右目で俺を睨む。
「敵だろうが味方だろうが俺は誰も死んでほしくない。ただそれだけだ」
思いに答えた俺の力によって周りの火の手が消える。発動の瞬間に起きた爆発のような風のおかげだ。
「青いな」
どういわれようとも俺は自分の目的に意思に忠実に生きる。アキがそうしていたように。
「なら青いお前に教えてやる。そこにいる二人は普通じゃないんだよ」
「普通じゃない?」
俺みたいに神の力を持っているとか?いや、そんなわけはないか。
「そこに倒れてる清掃員の格好した奴はある不治の病にかかっている。本来ならランクBのなかなかの魔術師だ。だが、病のせいで魔術は使えない。そこの女は足だけではなく手も動かすこともできない。背骨の怪我が重症で治すことは不可能だ。だが、そいつは目がよくてな右目で透視、左目で思考を見ることが出来る数少ない教術師だ。ランクもCといいが本来はベッドで寝たきりの生活を送るような奴だ」
俺は怒りを抑えきれなくなる。それに答えるかのように俺の両手の黒い靄も暴れるように形が安定しない。
「なんでそんな戦えないような奴らをこんなところに連れてきた!」
「そいつらが望んだことだ。オレは知らん」
無責任だ。部下の無理を承知でこんな命を駆け引きをする戦場に連れて来るなんて!
「・・・・・・じゃ、邪魔するな」
清掃員姿の男が立ち上がろうとする。もう、呼吸は細く今にも何かの衝撃で死んでしまいそうな感じだ。
「しゃべるな。大人しくしてろ」
「イサーク様はこんなゴミみたいな自分を拾ってくれ、最後には自分の魔力があの人の一部となっていっしょに戦っている。これ以上の幸せはない!」
男はポケットから十字架とカードを取り出した。そして、十字架でカードを打ち付けると炎の渦が男を覆う。その瞬間男は口から血を空きだす。鼻からも目からも血が流れている。
「これが自分の最後。お前に致命傷だけでも」
「待て!止めろ!お前自身もそこにいる仲間も危険だぞ!」
だが、男はやめない。
「最後は魔術師として死ねる!いい人生だった!」
そう叫ぶと炎が飛び散る。俺は助けに入ろうとしたが体が身の危険を感じて俺の意思とは別に床に伏せるように飛び込む。飛び散った炎は壁、天井に当たり小さな爆発起こす。その飛び散り方が上に集中していたおかげで床に回避した俺には当たらなかった。
周辺は焦げたように穴だらけになっている。その強い衝撃によって天井に落ち部が抜け落ちている。そんな爆心地の中心には清潔な格好をしていたはずの男が燃えカスの炭で黒くなっていた。そして、もう動かない。
俺は近くに倒れていた女の人の安否が気になった。もう、あの清掃員の格好をした男は無理だろう。天井の瓦礫で足をとられないように進む。明るいはずの廊下がギャップのせいか非常に暗く感じる。目の前が見えない。
だけど、その殺気には気付いた。足元の瓦礫に注意しながらあの女の人を探していた時だった。背後から襲いかかる影。俺はすぐに反応したが足元の瓦礫に足をとられる。そのおかげかイサークの左手の攻撃を紙一重でかわすことが出来た。俺はすぐに横に飛んで体を反転させてイサークの方に向き直る。
「思ったより場馴れしてるな。あの奇襲に気付いてかわして距離を置く。戦場においての基本がなってるな」
「二度不利な状況から勝ってるからな」
そうだよ。こんな不利な状況は今までにもあったじゃないか。その度に俺は生き残っている。今回もきっと大丈夫だ。美嶋の力なんか使わなくても。
「でも、敵を助けたり、安否を気遣ったりとまだまだ甘いな」
「お前は気にならないのか?」
「気になるよ。一応部下だからな」
今更上司みたいなこと言っても無駄だぞ。
「死んだら吸収できる魔力が限られるから困るんだ」
俺は怒りを抑えきれない。このまま飛び込めば、魔力を吸収されてしまう可能性もある。でも、今すぐ殴りたい。その曲がった考えを修正してやりたい。
「おお、見つけた」
イサークが瓦礫の山をかき分けると女の人が出てきた。首をイサークの方に向けた。生きているようだ。そのことにホッと一息を入れる。
「何安心してんだ?オレの味方が生きてたんだぞ?」
人の死ぬことに喜ぶような奴なんてどこにもいない。俺の知る限りではの話だ。
「イサーク様」
女の人がイサークに語りかける。
「私はもうダメです」
「どうしてだ?」
「足を見てください」
イサークが女の人の足を見る。俺も聞こえたから見てみると、足が落ちてきた瓦礫に押しつぶされている。瓦礫の大きさも相当の物だ。そのから大量の血も出ている。かわすこともできただろう。だが、彼女は動くことが出来ない。
「なるほど」
「イサーク様。感謝しています。最後まで私を教術師としてくれて感謝しています。私の目を使ってください。私もイサーク様の中で共に戦います。魔力を吸ってください」
「ダメだ!あきらめるな!」
俺ならその瓦礫だけを破壊できる。アキがいればそんな傷も治すことが出来る。
「分かった」
イサークがしゃがんで女の人の手を握る。
「やめろー!」
俺は飛び込んでいくとイサークが右手で炎を起こして俺を吹き飛ばす。周りの弱った建物の影響がないように威力はあまりなかった。それでも守れそうにない。
女の人の顔色が悪くなり息が荒くなってくる。目の瞳孔も安定していない。そして、彼女はその目からぼろぼろと涙を流し始めた。
「ありがとうございます」
それが最後の言葉だった。涙の後を残して女の人は目を閉じたまま動かなくなった。
「イサーク!貴様!」
俺は叫ぶがイサークは聞く耳を持たない。
「すごいな。よく見える」
右目だけを開いた状態で周辺を見渡す。俺のことなんて見えていないように。
あの人たちみたいな弱い人たちは俺みたいな強いものが守ってあげればいいんだよ。あんなに苦しんだまま死ぬなんて悲しすぎる。
「悲しすぎるってか?」
イサークが俺の思っていることを口にした。
「すごいな。左目だけ開けると思考が丸聞こえだな。怖いな。この教術は」
イサークは楽しそうに手に入れた力を使っている。味方の命を引き換えに手に入れた力だぞ。こいつは何も感じていないのか。おかしい。魔術に関わっている奴はみんなどこかおかしい。こいつは俺が会って来た中でも断トツに狂ってる。
「お前だけは許さない!」
自分の手に入れた能力に浮かれているイサークの背後から攻撃したがまるで後ろが見えているかのように交わす。
「この左目はすごいな。お前の考えが丸聞こえだぞ」
イサークの左手が俺に迫る。こいつは左手で魔力を吸収しているように見えた。この手が触れた瞬間俺の力も奪われて。同時に命も奪われる。その恐怖に襲われる。咄嗟に足元の瓦礫を蹴りあげてその一部がイサークの脛に当たり一瞬だけ怯む。俺はその間に距離を開ける。
「その咄嗟の攻撃はシンそっくりだな。そこにいるんだろ?出て来いよ。シン・エルズーラン」
こいつは何を言っているんだ?ゴミクズに話しかけてるのか?でも、ゴミクズは俺の心の中で引きこもっている。
「聞こえるぞ。この奪った力だと聞こえるんだよ。出て来いよ」
「何を」
『教太。少し変われ』
「ゴミクズ?」
そう聞こえた瞬間、俺の意識が急に遠のく。体の力が抜けたわけではなく目の前が急に真っ暗になった。




