彼女の人生(3)
[瞬間転移]で森の畑――ナシュの両親が残した畑に飛ぶ。
森を切り開いて畑を拡げたらいいのに、と思うが、この畑は森の魔力も得られる特別な畑。
森を潰すなんてとんでもない、と言われた。マイキーに。
魔族国の考え方は特別で、森には森の、大地には大地の、草原には草原の、町には町の、川には川の、海には海の魔力が宿っている。
それぞれに“特質”がある魔力であり、複合した魔力の畑から採集できる作物には特質を含む。
その特質からは、その特質に応じた付加効果を持つ。
森の畑には森の魔力と大地の魔力が混じって含まれ、その特質効果は成長促進と効果二割り増し、さらに繰り返しの採取量増。
そんなの森の畑効果、消すなんてありえない。
とはいえ、森の中の畑は簡単に増やせないから、やっぱりナシュの両親はそこまで考えて効果を最大限に引き出せる大きさで残したのだろう。
森の畑の真ん中に、ナシュの家がある。
こちらもこの六年ですっかり立派な三階建ての屋敷に改装した。
でも、まだ高くしたいらしくてリフォームは実行中。
塔のようにして、木々から屋根が見える家にしたいのだそうだ。
それが復興の象徴になる、と思っているらしく、今日もせっせと木材を運び込んで壁と階段を伸ばしている。
「お邪魔します。アルカ、いるかしら?」
「レイス! どうしたの!?」
玄関をノックして入る。
ナシュには「レイスお姉ちゃんならいつでも自由に入って!」と許可ももらっているし。
まあ、それでも声はかけるけれど。
階段の上からアルカの声が聞こえてきて、ドタバタと下りてくる足音。
いくらかつて魔王を倒した英雄とはいえ、危ないから階段は落ち着いておりなさい、と声をかける。
こんなの幼児に言い聞かせるようなことだろうに、と溜息が出る。
「レイスお姉ちゃん! いらっしゃい! 今新しいハーブティーを入れるから、座って座って! ゆっくりしていって」
「なんでみんな私を休ませようとするの? 大丈夫って言っているのに」
「「いやいやいやいや」」
一緒に下りてきたナシュにまで椅子に座ることを進められ、不満を感じながら玄関に入ってすぐのリビングにある丸テーブルの椅子に座る。
ナシュが魔法で沸かしたお湯でハーブティーを入れてくれた。
あ、本当にいい香り。
「もしかして温室で育てられた新種のハーブ?」
「そう! アーレシュア王国から入荷してくれたハーブが進化したの! 魔族国に持ってくると、人間の国の動植物が変質したり進化したりするの本当に面白い! 無限に組み換えを試せて終わりが見えない!」
「そうね。こうして新しいものができる度に新しいお茶が飲めるのは嬉しいわ」
アーレシュア王国から交易で入手できるようになった人間の国の動植物。
魔族国に入荷されると基本的に魔力過多で負荷がかかり、枯れてしまったり育たなかったり、そもそも種が目を出さなかったりするのだが、私とアルカが作った魔力調整ができる温室なら育てることができるようになった。
それでも魔力濃度によって植物たちは様々な変化が起こる。
それが進化――効果が高くなり、見た目にも大きくなったもの――や変質――まったく別の種のようになること。
その変化は恐らく魔族国が現在の姿になる前の、進化の過程だろう。
それを自分の目で見るのは面白いだろう。
私の隣に座ったアルカもハーブティーを飲みながら安堵の溜息を吐く。
「それで、なにか僕に用事?」
「ええ。実は――」
そうだった、忘れるところだった。
アルカには[固定空間倉庫]について相談したかったのよ。
こうこうこういう理由でこうなのよ、と説明すると、うーんと考え込んだあと「鍵つきの部屋に設置するとか」と言われる。
なるほど、この家の地下か、村長宅である我が家の地下に設置予定だったけれど、シンプルに鍵をつければいいのか。
「あとは二重扉にするとか、道自体を隠すとか」
「あまり厳重にしすぎても、出荷する時に困るのよ。費用も重くなるし」
「あ、そうか」
支援金は、別な街の再建に使いたい。
使い道はディブレに任せているけれど、頼めば多分予算を割いてくれると思うけどね。
「年々出荷数も増えているものね。アーレシュア王国以外の国からも注文が来ているんでしょ? できれば届けてあげたいよね」
「え? どうして知っているの?」
国政に関わることだから、アルカに他国から斑点熱の特効薬の販売依頼が来ていることは話していない。
斑点熱の特効薬には使用期限があるから、遠い国に出荷するのは難しいのだ。
もしもそれをやるのだとしたら、転移陣を設置するか私やアルカのように破格の規模の[空間倉庫]を持つ者が直接出向くしかない。
でもそれはどちらもリスクが高い。
転移陣はこちらから一方的に送ることができない。
ならず者や、侵略者を魔族国に送り込むことも可能なのだ。
術者が行くのも、捕えられて人質にされる可能性がある。
一国分の薬を届けられるような術者はイコール、高魔力を持つ要人ということだもの。
護衛を雇って行くなど仰々しくしたっていいが、その分お金もかかる。
まあ、そんな感じで政治が関わってくるのだ。
「ルカーシュが言ってたよ。レイス宛の手紙に書いてあったって」
「はあ!? あの子、私宛の手紙を勝手に見たの? はしたない……」
「あ、ああ……! あまり怒らないであげて! レイスを手伝いたい、って言って、自分なりに手伝えることを探していた時に知ったみたい! むしろ四歳なのにもうそんなことを考えられるようになっていることがすごいというか!」




