彼女の人生(2)
だから気がつくと、髪が短くなっていたのも気にならない。
別に魔物に髪を切られても、平民なら髪を切る娘もいるもの。
でも、ルナーシャとアルカは死にそうな顔になって謝ってくる。
マジで気にしていないんだけれど。
それに魔王と戦うのに髪の長さなんて関係ない。
実際魔王との戦いは髪の長さなんて気にしてられなかった。
短くなってよかったとすら思ったもの。
むしろ、魔王と戦ったあとの祝勝パーティーの方が大変だったかも。
婚約破棄されて、国から追い出されて、魔族国で魔王が暴れた後始末。
でも復興作業を手伝えるのはすごく楽しい。
しかし、その最中、まさかのアルカからの愛の告白。
確かにアルカが恋愛パートナ――になれるのは、レイスだけ。
でも、無料DLCでは男の娘が追加されるはずだったんだけどなぁ。
私は結局遊べなかったから、誰が男の娘の追加キャラなのかはわからない。
アルカの相手が本当に私以外にいないのか。
どっちにしてもアルカにはいつか、アルカのための攻略対象が追加されるはずだった。
それなのにアルカが選んだのは私。
ルナーシャが『誰とも結ばれない』エンディングを進んだけアルカは私を選んだ。
じゃあ、しょうがない。
アルカが私との生涯を望むエンディングを選んだなら、私はそのストーリーにつき合おう。
って、登場人物のような言い方をしたが、きっと私はプレイヤーとしての好奇心に負けたんだと思う。
見たかったんだよね、アルカの恋愛エンディング。
だって友情エンディングしかなかったアルカの、唯一のパートナー役になりえたレイスとの恋愛ストーリーは、プレイできなかった。
無料ダウンロードをしようと思ったら、ゲーム機の電池が切れてしまったんだもの。
だから私にとってアルカとレイスの恋愛ストーリーをプレイするのは初めて。
ワクワクしている。
自分がドキドキしたいからじゃなくて、大好きな『覇者の集い』のDLC主人公、アルカの恋愛ストーリーをプレイできるんだ、って。
一番近くで。
でも、少し残念なのはきっと私の反応はゲーム公式のレイスの反応ではないところ。
ゲームのレイスならどんな反応で、どんなふうに恋に落ちていくのだろう?
どうせなら、それが見たかったな。
「おかあさまー。ナシュおねーちゃんがこの“しょるい”渡してって」
「ありがとう、ルカーシュ。でもまた言葉遣いが崩れているわよ。いつかアーレシュア王国に戻った時に困るから、家の中では意識しなさいと言っているでしょう?」
「あ。……は、はい! ごめんなさい! ナシュおねえさまが、こちらの“しょるい”をわたして、とわたくしにあずけてくださいました」
「まあ、いいでしょう。ありがとう」
幼い我が子から書類を預かる。
今年の決算詳細などが書かれているものだ。
薬草畑は増え続け、アーレシュア王国のみならず人間の国々から斑点熱の特効薬への注文がひっきりなしになっている。
設置タイプの[空間倉庫]の建設も進んではいるけれど、やはり消費期限があるものを作り置きしておくのは難しい。
魔族国の魔力を含んだ大地だからこそできる、設置タイプの[空間倉庫]。
問題は設置タイプって誰でも使用可能だけれど、泥棒なども簡単に侵入して取り出せてしまうところなのよねー。
「ルカーシュ、パパはどこ? ママ、パパに相談したいことがあるの」
「森の畑に行っておりますわ」
「ではちょっとお出かけしてきます。夕方までに帰ってくるので、お勉強を進めておいてください」
「はいっ」
私が丁寧に貴族らしい言い回しをすると、ルカーシュは姿勢を正していい返事。
一応、この子は公爵令嬢なのでちゃんと教育しないと。
貴族学園に通うようになってから『平民の子だから』と馬鹿にされては可哀想。
そうは言っても父親は『聖者の紋章』持ち。
普通に考えれば馬鹿にされるわけがないと思うのだが、『聖者の紋章』の持ち主のルナーシャとアルカが蔑まれていたことを思うと、平民の血が入っているからとこの子も馬鹿にされる気がする。
だからしっかり、今からルカーシュには自覚を持ってもらいたい。
あなたはトゥワイエット公爵令嬢。
次期公爵の私と、世界を救った『聖者の紋章』を持つ聖者の娘。
ついでに言うと王家の血も入っている。
だから胸を張って生きなければいけない。
英雄の娘という目で見られて生涯を生きなければならないのだから、それに耐えうる強い子に。
教養と所作は、その目に対抗する武器であり鎧。
今はまだわからないかもしれないけれど、四歳でここまでできれば結構優秀と言っても差し支えないんじゃないだろうか?
親馬鹿すぎ馬鹿これが親のひいき目ってやつ?
いや、でも普通に可愛いのよ。
髪と目の色、表情筋が豊かな働き者なところはアルカ譲りの明るさ。
読み書きの上達の速さや魔力量が豊富なところは私譲り。
乙女ゲームの姪っ子なだけあって愛嬌も抜群。
魔族国で過ごしているから人種差別も選民思想も持ち合わせていない。
……完璧令嬢では?




