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アーレシュア王国への帰還


 翌々日、アーレシュア王国の王都に[空間転移]で飛んだ。

 レンタルで馬車を借り、ルナーシャとアルカと私とディブレはアーカーの家に一時的にお邪魔して身なりを整える。

 さすがにね、魔族国で過ごしている装いで行ったら……馬鹿にされるからね。

 陛下からの返事には昼の十三時過ぎに城においで、と書かれている。

 応接室かどこかで報告を受ける、ということのようだ。

 陛下にしては、かなり早めに時間を作ってくれたと思う。

 なので身なりが整ったら早速城へと向かった。

 ディブレが特に緊張していたから、そんな緊張しているくらいなら立ち居振る舞いと話す内容を覚えろと、と城での言動についてとくとくと言い聞かせる。

 私がかけた圧のおかげかディブレも緊張よりも勉強の方に注意が向いた。

 よしよし、その調子で移動中もたくさん覚えてくれ。


「ところで、陛下への“お土産”って斑点熱の特効薬なんでしょう? それ、わたしたちももらっていいんだよね?」

「もちろん。だけど……聖魔力を持つあなたたちは別に特効薬がなくてもいいんじゃないの?」

「それはそれ。これはこれだよ。もしかしたら僕らがディニールにいない間に斑点熱が流行るかもしれないからね」

「まあ、確かにそうだけれど……」


 薬というのは消費期限があるものだ。

 密封していて、たとえば時間の流れの止まっている[空間倉庫]などにしまっておかなければいつか効果を失い腐った色のついた水になる。

 魔法が使えない人間の国の平民にとって、[空間倉庫]がないから流行病に備えておくことは難しい。

 それでも流行が雨季、というのは例年のことだから、手元に置いておきたい気持ちはわかる。


「ディニールから離れる予定があるのが困る気もするのだけれど」

「「まあ、まあ」」


 私が事前に頼んでいたことを忘れている?

 という意味合いでじっとり睨みつけながらアルカとルナーシャに聞いてみると、二人とも面白いほどに顔を背けて窓の外を眺めた。

 こいつら。


「あ、ほら! お城が見えてきたよ」


 ここぞとばかりに話題を逸らしにきたルナーシャ。

 しかし、実際お城が見えてきて、ディブレが緊張の面持ちで「は、はあ……」と溜息をこぼすので背中を叩く。

 若返って、容姿もケビンなんかよりよっぽどイケメンになったのだから胸を張れ。

 なんならそのへんの王宮魔法師よりも魔力総量を持っているのだから、変なヘコヘコした態度は逆に怖がられる。


「止まれ! 何用で城へ来た」

「国王陛下との面会の約束がある。レイス・トゥワイエット嬢と、アルカ・ピュアジー、ルナーシャ・ピュアジー、魔族国族王ディブレ・グロイズ様をお連れしている」

「聞いている。通れ」


 門番に止められ、御者を務めていたアーカーが答えるとすぐに跳ね橋が下される。

 第一関門、無事に突破。

 ひとまず胸を撫で下ろした。

 ――ケビンのアホが、どんな妨害を用意しているかわからなかったからね。

 とりあえず城の中に入れるつもりはあるらしい。

 まあ、最悪ルナーシュというケビンの執着存在がこちらにいるから、城に入れないことはないと思っていたけれど。

 それでもつまらない妨害で時間をかけてしまうのは、陛下に対して失礼だから。

 ボックス馬車を下りて、城内に入る。

 真っ直ぐに玄関ホールに向かい、衛兵に声をかけるとすぐに「取次ます」と言ってもらえた。

 なんか……スムーズすぎるのも気持ちが悪いわね。

 わたし名義の報告書に、ケビンが目を通していないとも思えないのだけれど……。

 このまま私たちが陛下と話し合いを終えて帰るまでなにもしない――わけがないと思うし。

 なに? どこでしかけてくるつもり?


「お待たせいたしました。ご案内します」


 本当にすぐ……いや、むしろ衛兵の詰所に控えていたのではという速度で士官が現れて廊下を歩き出す。

 まあ……今日、この時間に面会に来ることは約束していた。

 陛下は分刻みのスケジュールで動いておられるから、案内役が待機しているのも不思議ではない……のだけれど……。


「なんだか今日はずいぶん手回しがされているな?」

「アーカーもそう思う?」

「え? なにか変なの?」

「親切すぎる気がするのよね」


 ディブレが一緒だから?

 後ろに騎士も二人、ついてくる。

 振り返ると「安心してお進みください」と笑顔で先を促された。

 いや……さすがにこれは……。

 一旦鎌をかけてみるか。


「陛下とのお約束は一時間後のはずなのですが、すぐにお会いできるのでしょうか?」

「いえ、陛下が来るまでお庭でお茶を楽しんでいただきたいと」

「――殿下ですか?」

「はい」


 気まずそうに行き先を告げた士官は、最後に目を背けた。

 殿下の話を出した途端、ルナーシャの表情がわかりやすく険しくなったが私は溜息が出た。

 本当に、どこまでもしつこい。


「わたくしたちは応接間で待つように言われております。殿下のお茶会に出席するつもりはありませんわ。招待状も持っておりませんし」

「しょ、招待状は不要です。急遽決まったお茶会のようで……殿下の婚約者候補を集めたものです」

「それにルナーシャを連れてこいと言われたのですね。はあ……一国の王太子というご自覚がまだ足らないようで」



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