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うちの聖女は殺意が高い


「ルナーシャ嬢に王都に戻れと。でなくば魔族国を仮想敵国とし、必要ならば武力も辞さない――などと言い出したようで」

「は……?」


 エルワーズの言葉に表情筋が仕事しなくてもさぞ私は怪訝な声を出しただろう。

 いや、怪訝な声も出る。

 ケビンはなにを言っているんだ……?


「それは、陛下もご存じなの?」

「おそらくご存じないのではないでしょうか。どう考えても陛下のおっしゃっていたことと、真逆ですし」

「そうよね」


 ルナーシャと結婚するためになりふり構わなくなってきたのね。

 バ、バカすぎる……。


「手紙でお知らせしましょう」

「し、しかし、それでは支援が遅れてしまうのでは……」

「む……」


 確かに。

 陛下と手紙のやり取りをしてケビンをしばいてもらうとしても、陛下と直通でやり取りができるかと言われるとそれは無理。

 おそらく私の両親やケビンが事前に『レイスの手紙があったら回してほしい』なんて手回しをされていたら、陛下に届く前に握り潰されてしまう。

 そうなったら、魔族国復興全体に大きな影響、または遅れが出るだろう。

 この……っ、めんどうくさい。

 仕方ない。

 それなら直接叩き潰すしかないか。

 先に手を出してきたのはケビンなんだから、仕方ないわよね。


「ルナーシャ、さすがにちょっと鬱陶しいから完膚なきまでに叩き潰しましょうか」

「え? 誰を? ケビン殿下を?」

「そう」

「やる!」


 ものすごく前向き。

 そして即答。

 アーカーとエルワーズに至っては変な顔をしている。

 あのパーティーを見ていたなら私とルナーシャがケビン殿下と不仲なのは知っているだろう。

 だが、一国の王子に対して『完膚なきまでに叩き潰しましょうか』と言うのは、さすがに不敬すぎるものね。

 でも、一人の女としては強権発動してまでストーキングするヤンデレ野郎、しっかりトドメを刺しておかなければこの先もしつこくつきまとわれる。

 いや、しつこい粘着質ヤンデレストーカーって構わない方がいいのか?

 でも放っておくと魔族国の復興に関わって来るしなー。

 はあ……やっぱりバカに地位と権限なんて与えるべきではないわね。


「しかし、暗殺の危険があるのでは――」

「今のあなたたちなら、アーレシュア王国に住んでいる暗殺者に負けることはないわ。魔力過多で魔力量が膨張し、前回よりも魔族国で過ごすのが苦ではないはずよ」

「「え? ……確かに……?」」


 アーカーとエルワーズが顔を見合わせる。

 気づいてなかったんかーい。

 魔力の伸ばし方って基本的に一種類で、魔力を使い果たして飢餓状態にさせ、睡眠をとって魔力を回復すると量が増える。

 実際私もそのやり方で魔力量を増やしていた。

 しかし、魔族国はその逆。

 無理矢理魔力をパンパンに詰め込まれる。

 当然心身に悪影響が出るから、今回のようにアーカーたちには一度魔抜きして体調を戻してもらったわけなのだが、無理矢理押し広げられたおかげで魔力の総量は増えているのだ。

 そして二人とも魔族国にいる間、常に身体強化を使い続けていたから身体強化魔法も極めていると言っても過言ではない。

 そんな二人が一般暗殺者に負けるわけがないのよ。


「身体強化していれば割と毒耐性も上がるしね」

「毒を盛られる前提で話されても……」

「せっかく村に新しい住人が入ってきて、これから、というところなのよ。こんなに早々に支援一時停止なんて、魔族国の人たちがどれほどがっかりするか」


 そんな権利、ケビンにあるわけがない。

 私への嫌がらせも兼ねているのだろうけれど、そういうところがルナーシャに嫌われているのよ。


「それに、報告したいこともあるの。経過報告という形なら、ケビン殿下やその関係者も手出しができないはず。陛下に必ず届くと思うわ。その中に『直接成果をお届けしたい』と入れておけばケビン殿下も準備して来るでしょう」

「アーレシュア王国に戻るのですか?」

「時間があまりないのもあるわ。もうすぐアーレシュア王国は雨季だから」

「どういうことだ?」


 雨季は、いわゆる梅雨。

 湿度が上がり、風邪が悪化しやすくなる。

 冬の乾燥した季節もまずいけれど、それよりも斑点熱が流行るのは雨季。

 ジュエバリーから作った特効薬を届けておきたい。

 もちろん、試作品でしかないから、試薬は必要なのだけれど。

 マイキーとナシュの話だと、ジュエバリーは成長が早く、一ヶ月ほどは葉を千切るとまた生えてくるらしい。

 ただ一ヶ月ほどで枯れてしまう。

 つまり、雨季が始まる前の、この一ヶ月が勝負。

 あの畑で採取できるジュエバリーで、どれくらいの特効薬が作れるのか、それも検証しなければならない。

 アーレシュア王国ほどの大国の人間の分は、どう考えてもあの畑だけでは足りないわ。

 村周辺の土地の浄化を進め、畑を増やし、ジュエバリーを量産したい。

 アーレシュア王国に一番近いこの村からなら、出荷もしやすいし。


「まあ、まだ完成したわけではないしね」

「気になる言い方をするな?」

「未完成品を話すつもりはないわ。どこで誰が聞いているかわからないしね」

「む……なるほど」


 というわけで、ケビンの横槍を根本からへし折ってやることに決定。

 あと、そろそろ本気でストーキングをなんとかしないと国内外の恥になりそう。



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