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告白(1)


「そうだ、アルカ。一つ頼みがあるんだけど」

「なになに?」


 私が頼みたい、と言ったからか、ウキウキついてくるアルカ。

 どさくさに紛れて人の手を握る。

 こいつ、こんなに積極的だったか?

 そして申し訳ないがやはりドキドキ感はない。

 いや、きっと普通の感性を持つ“プレイヤー”なら胸キュン展開なんだろうけれど。

 胸キュン、私には到底無縁のもの。

 こういう甘酸っぱい胸キュンが楽しくてほしくて、私の前世の両親は不倫に勤しんでいたのでしょう?

 だから私、そもそも好きじゃないのよね、恋。

 吐き気がする。

 ここはきっぱりとアルカの手を振り払って――。


「それで、どこに行くの?」

「え? あ、ナシュの蒔いた薬草の種。一つだけ聖魔力で成長させて、粉にする前の薬草の効果を[鑑定]したいの。ナシュには許可をもらっているわ。あとでを話してちょうだい。私はあなたの気持ちを受け入れるつもりはないわ」

「……理由を聞いてもいい?」


 振り返ったアルカが優しい笑顔のまま、問う。

 ああ、この表情はしらを切れないな。

 主人公らしい顔だ。

 なら、私もしっかり全部話さないとダメだろう。

 諦めてほしいの。

 アルカが優しいのを知っているから。

 私の心は、前世の時点で恋愛拒絶状態になっている、って。


「歩きながら話しましょう。時間がもったいないし」

「いいよ」

「まず、全部本当の話よ。信じるか信じないかはあなたに任せる」


 ということで、前世の家庭環境から今世の家庭環境も全部アルカに話した。

 別に隠している必要もないだろう。

 だって、もうストーリーは終わったもの。

 森に向かう道中、畑に辿り着いても話が終わらなくて自分でも驚いた。

 こんなに饒舌になる自分に違和感。


「なんとなくわかった」

「それじゃあ一つ、成長させてもらえる?」

「うん」


 私の話が終わったのは、畑に到着した時。

 アルカは盛られた土に手を翳して、聖魔力を注いで薬草の成長を促す。

 魔力を注ぎながら、「でもさ」と話を続けてきた。


「僕はレイスの前世の両親とも、公爵夫妻とも違う人間だよ」

「ええ。そうね。わかっている。だからあなたには恋愛を嫌悪している、私なんかじゃなくて、ルナーシャみたいな天真爛漫で優しくて可愛らしい女の子と幸せになってほしいのよ」

「そうじゃなくて」


 首を傾げる。

 アルカが立ち上がると、小さな芽がニョキニョキと成長してすぽん、と大きな葉のついた薬草が生えた。

 見た目は紫蘇(しそ)に似ているかも?

 丈が小さい。

 その葉を一枚取って、[鑑定]をしてみる。

 ジュエバリー。薬草。解熱、傷痕を治癒する効果を持つ。


「――――この薬草……」

「レイス、聞いている?」

「え? あ、ええ。な、なに?」


 まずい、とんでもないものが出てきた。

 ハンカチに包んで[空間倉庫]に放り込む。

 アルカを無視するつもりはなかったけれど、こっちも大事な話をしていたんだった。

 で、でも、このジュエバリーという薬草、もしかして……。


「僕は君の前世と今世の両親とは違う人間だよ」

「え? わ、わかってるわよ? だから――」

「だから、君の両親たちと同じにはならないよ」

「……わかってるわよ?」


 なに? なんの話?

 そんなのわかりきっている。

 アルカは私の両親たちとはまったく違う人種だ。

 一人の女性を選んだら、きっと生涯一途に愛し続けるんじゃないだろうか。

 それなら、その相手は私じゃない方がいい。

 胸キュン展開にも吐き気を催す邪悪な人間。

 それが私。

 主人公のアルカに、そんな私が相応しいわけがないでしょう。


「僕を見て」

「え? は? はあ? 見てるわよ?」

「うーん。そうじゃなくて。学園の時みたいに、見て、って言ってるの」

「は……はあ?」


 学園の時みたいに?

 構えってこと?


「――それは難しいわよ。あの頃はあなたとルナーシャにつきっきりでいられたけれど、今は仕事もあるのだから」

「ま、まあ……それは……」

「でも、ちゃんと真摯に考えてはみるわ。期待はしないでね。私、あなたと同じ熱量をあなたに向けてあげられないわ。それって絶対にあなたが苦しくなる。だから早めに私のことはやめておいた方がいいって言ってるの。あなたのために言ってるのよ」

「レイス……」


 これは正直な本心。

 私、恋愛なんてわからない。

 知りたくもない。

 でも不倫中の前世の両親はいつも楽しそうだった。

 恋愛って多分、楽しいものなのだろう。

 そうでなければ乙女ゲームや恋愛漫画、ラブコメなんてものが前世の世に蔓延るわけがない。

 私に向いてないだけで、普通の人間は楽しめるものなのだ。

 いや、まあ、前世の親たちが“普通”で括っていいのかは甚だ疑問ではあるが。

 でも想像しただけでわかる。

 アルカは正しく人を愛せる人。

 私みたいな欠陥が多い人間なんて、隣に相応しくない。

 恋愛って同じ感情を同じ熱量で交わし合うから幸せなんでしょう?

 私には無理。

 だから私は絶対アルカに相応しくない。

 そんなの絶対幸せになれない。

 前世両親が不倫相手と長続きしなかったのも、その熱量の変化が原因であることが多かったみたいだもの。

 それですぐに相手をコロコロ換えているのがまた、あれだけれど。



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