魔王汚染
「やってみるよ、僕」
と言って鞘から剣を抜くアルカ。
魔王の汚染は汚染魔物の汚染とは桁違いの汚染濃度。
歴代の聖人、聖女はなぜ魔王の汚染を放置したのだろう?
「[浄化の雫]」
指先に聖魔力を集める。
[浄化の雫]は聖魔法の中で一番高濃度の浄化作用を持つ魔法だ。
それなりに広範囲を浄化できるが、魔力消費が上級魔法の中でもトップクラス。
私がさっき使った炎の渦の魔法が魔力消費50だとするならば、[浄化の雫]は120。
私の魔力総量を500としたら、アルカの魔力総量はおそらく300ぐらい。
なお、一般貴族の魔力総量はだいたい50前後ね。
賢者になったエルワーズが、私と同じぐらい。
そう考えればこの[浄化の雫]のえぐさが伝わるだろう。
ついでに[浄化の雫]にはデメリットもある。
聖魔法の中でもっとも浄化能力が高い。
高すぎて、対象が漂白化してしまう。
生き物なら色素と人格が消えて真っ白になる。
土地や物質も色素と含まれている成分が消滅。
めちゃくちゃ危ない。
だから使う場合は対象が魔王限定。
白い火花が起こるほど、アルカの指先に聖魔力が集中し、圧縮されていく。
まるで線香花火みたい。
指先を差し出して、土地に向かってゆっくりと雫状になった白い聖魔力の塊を、落とす。
ぽちゃん、と水音が響く。
何代も何代も放置された魔王の汚染。
草の一本も生えず、なにも育たない大地。
よくもまあ、こんなに長く放置されたものだ。
アルカの使った[浄化の雫]によって大地が波紋のように揺らぐ。
そして、魔王に汚染されている部分が真っ白に光る。
まさか、漂白化……と不安に思いつつ見ていると、光らなかった部分から草が生えてきた。
まさか……こんなに早く草が生えてくるなんて!
「草だ! 草が生えてきた!」
「上手く浄化できたみたい。でも、汚染が深いところは[浄化の雫]でも浄化しきれなかった。まだら状に汚染が残っていて、[浄化の雫]だと正常に戻ったところを漂白してしまう。[清浄の聖水]でこまめに浄化するしかなさそうかも」
「そう。面倒な感じなのね。……だから歴代の聖人、聖女が放置していたのかしら?」
「わからない。でも、何百年も前の魔王汚染がこんなに濃く残っているのなら、今回の魔王が生まれた場所も[浄化の雫]で浄化しないといけないね」
「そうね」
言われてみると確かにその通りだ。
草一本生えないほど深く汚染が残っているなら、魔族国の復興に差し支えるんじゃない?
どこの地域にどれくらいの魔王汚染が残っているのかわからないけれど、街道を敷きながらそのあたりも調査した方がいいわね。
「でも今日は一旦休んだら? 私が再建して拠点にしようと思っている村の屋敷に泊まるといいわ」
「いいの!?」
「状況的に、アルカとルナーシャに魔王の汚染を浄化してもらいたいかもだもの。魔族国の復興の妨げになるでしょう?」
「確かに」
「でも、しばらくはディニールで食糧の生産もし続けてほしいし……。二人で交互に来てくれたら助かるわ。まずは魔族国にどのくらい魔王汚染が残っているのか調べなきゃ」
「真面目……」
「真面目とか、そういう問題じゃないの。それが仕事なのよ、私の!」
せっかく逃してもらっているのだから、その分の仕事はしないとね。
アルカとルナーシャは頼めばホイホイ来てくれるだろうけれど、親しき仲にも礼儀ありでしょ?
なにかお礼を考えておかないと……あ、そうだ。
「魔王の汚染を浄化してくれたら魔物肉料理をなにかご馳走するわ。[浄化の雫]ってめちゃくちゃ魔力消費するもの」
「え!? レイスの手料理!?」
「私の料理なんて珍しくもなんともないだろうけれど、できるだけ新しいレシピを――」
「いやいや逆、逆! それなら俺、めちゃくちゃ頑張る! レイスの作る魔物のこま肉ハンバーグステーキ大好き!」
「アレが好きなの? じゃあ、今夜はそれを作ってあげるわ。魔物肉、新しく調達しないと」
だいぶボア肉も減ってきたもの。
魔物のボアのお肉は前世でいうところの豚肉。
とても重宝している。
まあ、アーレシュア王国では普通に豚がいるんだけれど。
でも、魔力を多く使う私としては一般的な豚よりも魔物のボアの方が美味しくいただけるのよね〜。
「魔物肉を、調理……!? 魔物肉って焼いて塩をかけて食べる以外に食べ方があるのですか!?」
「え? どういうことかしら? 肉なのだから調理できるわよ」
「ええ? で、ですが料理に使ってしまうと、調理過程で魔力が抜けてしまうのでは」
「ええ? そうなの?」
今日[鑑定]の魔法で調べてみよう。
食べた時はあんまり気にしなかったなー。
「魔力はともかく、レイスの料理の味は絶品だよ! 本っ当に美味しいの! 魔王討伐の旅の時は、毎食楽しみだった〜」
「あなたたち本当によく食べてくれたもの。作り置きしておかないと間に合わないぐらいだったわよね」
アルカとルナーシャは私の作る前世レシピが大好き。
なんか、それでますます懐かせてしまったような気もしないでもないけれど……餌づけ……いや、本当にそういうのはするつもりがなかった。
ただ単に、私が自分の食べたいものを作っていただけ。
前世はマジで親が両方カスだったから、自分のご飯は自分で作らないとなかった。
幸というべきか、私は料理が好きだった。
食洗機があったから後片づけも楽だったし、種つけした方は食費をちゃんとくれるしで気晴らしにワイチューブでレシピを検索してチャレンジしてみるのが一つの趣味だったと言える。




