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魔族国へ


「つまり、レイスは逃げてきたということ?」

「そうよ。ケビンを王にしたい派閥は私のことが邪魔だもの。他にも、私を殺して王太子妃の座を自分の娘に、という思惑を抱いていた者には何度か毒も盛られたことがあるの。今回ルナーシャが故郷に帰ることを許されたのは、そういう者たちからあなたを守る意味もあるのよ」

「え――」

 

 まさか魔王を討伐した英雄を、と思わないでもないけれど、ああいう連中ってマジで自分の利益と保身しか考えていないからやる時は本当にやる。

 バレたら、とか考えない。

 というか謎にバレずに実行できると思っている。

 多分前世の私の両親と同じで不倫するやつの思考回路。

 バレると思ってない。

 バレても謝れば許されると思ってる。

 失われた命は戻らないのに、自分以外の命は自分以下。

 自分以外の人間の尊厳なんて存在しないに等しいと思っている。

 だから、こちらから遠ざかるのが一番安全。

 話が通じないやつのことなんて、諦める。

 

「わ、わたし殺されるかもしれなかったの……!?」

「まああなた魔力が高いから並大抵の毒は即浄化して通用しないけれどね。暗殺者が襲ってきても返り討ちにするでしょうし」

「するけど」

「私もよ」

 

 私も毒は通じない。

 私の魔力は双子よりも多いもの。

 そして常に汚染魔物の奇襲に備えていた心構えがある。

 暗殺者なんて来ても返り討ち。

 その自信がある。

 でも、じゃあそんな常に安心のできない環境にいたいかと言われたら絶対に嫌。

 

「普通にストレスでしょ? 魔王がいた魔族国の旅より嫌でだもの」

「う、うん」

「友人も作れない。仲良くなった友人だと思った相手から毒を盛られたり、刺されたりするの。そんな生活を死ぬまで続けなければいけないなんて、お断りでしょう? だから私は逃げることにしたし、陛下もそれをお許しくださった。あなたは嫌いかもしれないけれど、ケビン殿下はそういう環境に今もいらっしゃる。それはとてもすごいことなの。そこだけは評価してあげてね」

「――、……うん」

 

 変態(ロリコン)であることは間違いないが、あの環境にいられる神経だけは本当に尊敬する。

 私は絶対嫌だもの。

 で、話を戻すけれど。

 

「だからあなたたちはこのままディニーラで願った通りに過ごす方がいいわ。そのうち王都から監視も来るはずよ。私や『聖者の紋章』を持つ者たちの現在の動向は、把握しておきたいはずだからね」

「で、でも……」

「それに二人がディニーラにいてくれた方が伝手があって安心だわ。魔族国の状況にもよるけれど、ディニーラとの交易は必要不可欠になる。その時にすぐに物資や食料が手に入るかどうか、二人に頼もうと思っていたんだもの」

「「ぐっ」」

 

 まだなにか言いたそうだった二人が押し黙る。

 実際双子が国境の町ディニーラに戻ったら物資や食料をすぐ頼ろうと思っていたのよね。

 二人の魔力量なら畑を増やすことも、実りを早めることもできる。

 魔族国の方は私がそれをすればいいけれど、魔力過多の魔族国でそれがすぐにできるかどうかは行って試してみなければわからないもの。

 時間がかかりそうならば、やはり外部に頼らなければ。

 

「そういうことなら……」

「レイスがわたしたちを頼りに思ってくれてたってことなら……」

「本当? わかってくれたならよかったわ。魔族国の状況にもよるけれど、少なくとも食糧はいくらあっても困らないわ。野菜や保存食を用意しておいてくれたら近々取りに来ることになると思う。向こうについたら私もすぐに拠点を作るつもり。そこから転移陣をここに繋げたいのよ」

「なるほど。そういうことなら……確かに僕らはディニーラで準備をしていた方が効率がいい、か」

「ううう……ついていきたかったよー」

 

 私の説明に効率厨気味のアルカはすぐ理解を示してくれた。

 それでもまだ、ジトっと見つめてくるけれど。

 

 

 

 翌日、アーカーとエルワーズと荷馬車に乗り込み、魔族国に出発した。

 頬を膨らませるルナーシャと、置いていかれた子犬みたいな顔をしているアルカを宥めるのはちょっと大変だったけれど。

 国境の町ディニーラからさらに東へ進むこと一時間。

 魔族国に入った瞬間、空気が変わる。

 空気というか、空気に含まれる魔力の量。

 ディニーラの時点で王都に比べて自然魔力の濃度はだいぶ濃くなっていたのだけれど、やはり魔族国はその比ではない。

 

「重い、な」

「え、ええ。これが魔族国……ですか」

「すぐに慣れるわ。最初ちょっとびっくりするわよね」

 

 アーカーとエルワーズに『マジかこいつ』みたいな顔で見られる。

 なによ、経験に基づく助言よ。

 実際入ってすぐは自然魔力の濃度の濃さで重力が増したのかというような錯覚を引き起こす。

 魔力のないアーレシュア王国平民などはこの感覚がずっと続くので、まあ生活なんて無理だろう。

 しかしアーカーもエルワーズも貴族で魔力もある。

 学園でルナーシャに選ばれなかっただけで攻略対象でもあるのだ、慣れないわけがない。

 慣れればアーレシュア王国と似たように生活できる。

 

「汚染魔物が襲ってこないだけましよ。魔物は襲ってくるかもしれないけれど、汚染魔物よりは戦いやすいし」

「基準がイカれてんだよなぁ」

「うんうん」

 

 これにはなにも返せない。

 魔王がいた頃の魔族国は、小さな汚染魔物が空を飛び、いつ襲われるかわかったものではなかった。

 アレを知らないから、そう言われる。

 でも、あれが基準と言われると確かにアレは『異常事態』であった。



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