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ゲームはエンディングを迎えたはずなのに(1)


 それは実にありきたりな一言から始まった。


「レイス・トゥワイエット! 貴様のような品性も愛想のかけらもない野蛮な女とは今夜限りで婚約を破棄させてもらう! 王族たる私を謀り、図々しくも婚約者の座に居座っていた罪で国外追放を言い渡す! わかったら今すぐこの場から去ね!」


 親友、ルナーシャの肩を抱き、婚約者だった王太子ケビン・アーレシュアが壇上から言い放ったその言葉の前半は納得もできる。

 髪は短く、魔王討伐の旅にもついていってしまう上、表情筋は生まれつき動かしづらい。

 品も愛想もないと言われればその通りだと思う。

 しかし、お前の婚約者の座に私を据えていたのはお前の父親(国王陛下)だろうが。

 と、思ったが私も婚約破棄に関しては異論がない。

 はあ、と一つ溜息を吐いて片足を後ろへと動かし腰を傾ける。


「かしこまりました。婚約破棄に関してトゥワイエット公爵家の方からも手続きを進めていただけるように、本日は御前を失礼いたします」


 私が頭を下げると、周囲の貴族たちからものすごいざわめきが起こる。

 まあ、それはそうでしょう。

 今日の夜会は国王陛下と王妃様が主催した魔王討伐祝勝会。

 その席で魔王を討伐したパーティーメンバーの一人である私を婚約破棄からの国外追放宣言だもの。

 ぜひ、ケビンには後ろを振り返ってみてほしい。

 あまりのことに国王陛下と王妃様が目をひん剥いて『今コイツなにを言った?』と理解が追いついていない顔をしている。

 婚約破棄は大歓迎なので、私としてはこのままこんなパーティーからバックレたいのだが……。


「冗談じゃないわよおおおぉぉーーーーー!!」

「アッパーはダメよ! ルナーシャ!」


 勝ち誇った顔のケビンにおとなしく肩を抱かれていたルナーシャが我慢の限界を迎えた表情になり、拳を握ったのが見えた。

 仮にも相手は王太子。

 暴行はまずい。

 咄嗟に止めたが拳を放たれた直後。

 顎から軌道をずらすくらいしかできなかった。

 まあ、それでもかろうじて頬をかすめる程度に被害を止めることができた――と、思う。思いたい。


「ひっ――ひいい……!?」

「黙って聞いていれば好き勝手言って……! レイスが野蛮で品がない!? わたしの方がよっぽど野蛮で品がありませんけど!? もっというと、『聖者の紋章』を持って生まれただけでわたしは貴族でもなんでもない、ただ田舎者の平民ですけど!?」

「そ、そなたは……『聖者の紋章』を持って生まれた時点で、王家に次ぐ尊い者なのだ……! 聖女は王族と結婚するものだろう……!」

「知りません! レイスの悪口を言う人はわたしの敵です!」

「やめなさい、ルナーシャ! それ以上はさすがに反逆罪に取られかねないわ」


 小柄で童顔なルナーシャだから、子どもの駄々のように見える。

 それでもそれ以上はまずい。

 大勢の貴族がいるだけでなく、国王陛下や王妃様の御前だ。

 とはいえ、婚約破棄されたばかりで腰を抜かしたケビン王子に近づくのはなんか嫌だし。

 と、思っていたら、後ろから一人の青年が前へ出る。

 真紅のマントをはためかせた、茶髪でピンクに近い赤い瞳の好青年。

 彼はルナーシャの双子の兄、アルカ。


「ルナ、どんなに腹が立ったと言っても陛下たちの御前で王子殿下に暴力はいけない。レイスにもよく『淑女たる者常に冷静に』と言っていただろう?」

「そうよ。申し訳ございません陛下。ルナーシャは魔王討伐の旅から戻ったばかりでまだ気が立っているのです。いつ汚染魔物に襲われるかわからない旅でございましたので……何卒ご容赦くださいませ」

「――はっ……! そ、そうだな!」


 ようやく私への婚約破棄の衝撃から戻って来られたみたい。

 なかなかにお時間がかかったわね。

 意識朦朧の状態のおかげでルナーシャの暴力はうやむやにできそうでよかった。

 貴族たちも「それほど過酷な旅だったのね」とか「汚染魔物にいつ襲われるかわからないとは……」とか同情的な声が聞こえてくるからセーフ。


「そ、それよりもケビン! なにを勝手にレイス嬢と婚約破棄など! 我はそのようなことを許してはいないぞ!」


 いかん。

 陛下の意識が戻ったことで婚約破棄が反対されかねない。

 どうにかして陛下を丸め込まなければ。だる。


「陛下、わたくしが殿下の下で殿下をお支えして来なかったのは事実ですわ。わたくしではこの先もケビン殿下を支えていくことはできません」

「なにを申す。そなたが学園で『聖者の紋章』持つ双子を友人として支え、魔王討伐の旅でも二人の背中を守り、知能を持つ汚染魔物が生まれる前に魔王を討伐した功績はこの場の誰も批判などできぬ! そなたこそ、未来の国母に相応しい! というか、そなたでなくば我らが不安だ!」


 言っちゃったなぁ、陛下。

 ケビン殿下が「えっ」という驚いた顔で陛下を見上げているけれど、そう思うのでしたらケビン殿下を教育し直してくださいよ。

 ケビン、ゲームと全然違う(・・・・・・・・)んだもの。


「そんなことはありません。この国には優秀な淑女がたくさんおりますわ。ねえ、王妃様」

「へ!? ……そ、そうねえ……でも、あなたより優秀な淑女は……どうかしらね?」


 貴族女性を束ねる王妃様に話をぶん投げてはみたものの、王妃様も私とケビンの婚約破棄には反対か。

 チッ、面倒な。



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