File No.20 オンナ心が火と燃えるのだ! 最後のご挨拶
長いような短い間でした
みなさん、ありがとうございました
香純は『綺羅』を他のスタッフにまかせて『愛』に向かっていた。
春先に着ていたブルゾンに古着のジーンズという姿だ。
そんな格好のほうが映えて見えるのは、計算もしていないのだろう。
一部の香純人気で応募してくる子が増えて、ローテーションが組めるようになっている。
彼女たちが普通の女子なのは、元々は店が『男の娘』を売りにしていないせいもある。
(お役御免かもしれないなあ)
冷やかしや取材で来られても店は潤わないし、かえって常連客の足が遠のく。
香純もそう経済的に余裕があるわけではないから切実な問題だが、いつものようにどこか気楽そうに、目的などないというように歩いている。
(真紀さんの会社に入るって話もあったし、なんかあの人たちに素直に頼ってもいい気持ちにはなってきた)
真紀が「女子の制服でいいよね?」と言ってきたのには笑った。そりゃ世の中は寛大になってきてるけどさ。
たわむれに過ごした日々 お互い甘やかしあって
世間のやつを笑いながら 自分に笑われてた
うつろにきらびやかな光 それでも愛してたつもり
あの時ただの気まぐれで 離した手は戻らない
香純が口ずさむ歌、いつもの替え歌は「ギフト」だった。
単なる作詞作曲の才能かもしれないが、香純は常にその流れのなかにいる。
異様に昂然として「自分に素直」なのも、「魔王」の演技も。
悔やまない 拒まない
お前がいまここにいるから
物語はいらないだろう
おれがお前に 翼をつけてやる
傷ついたと言えないで 強がりつづけてたんだ
見捨てていてほしかったんだ 全部冗談なんだって
「香純くん」
明梨が後ろから来ていた。
コーラルピンクのブラウス、光沢が目に入る。
(あれ? アカリちゃんも呼ばれてたっけ……それに香純くんって)
いつもはかすみちゃんアカリちゃんと女子同士として呼びあう。
「歌、きこえたよ」
「そんなに声にだしてたか……下手っぴで申し訳ないわ」
「わたしはあなたを、見捨ててあげないよ」
明梨が背中から抱きついてきた。
「自分を見捨てて、人から見捨てられて、そのほうが気がラクなんでしょう」
「そんな大げさなことじゃ……よせって、人がくるだろ」
体面を気にしているのではない。「おかま」の自分と抱き合っていては明梨に傷がつく。
「やだもん」
「子どもかよ」
「わたしは決めたんだ、香純くんがイヤだって言っても知らないよ、ついていく」
香純はただ、困った。そして思った。
(あたしだってただのオトコなんだ、明梨は好きだ……でも)
「おれだってこんなんで、この先どうなるかわからないんだ、そんなだと」
「イヤじゃないんだね」
明梨が笑う。零れる花に光が差したように。
「香純くんが女の子になるなら、わたしが男になってもらってあげるよ」
明梨、最後の暴走。
その言葉で緊張がとけた。
「バカだなあ」
「バカなんだよ」
はじめて一つになった、影。
抱き合うことで確かめるぬくもり、それが永遠であればいいと思う。
いつまでもと願ったそのとき、消え去ってしまうこともあるけれど。
続けることで、最後には真実になってくれたらいい。
自分の影を捨てちまえよ おれがお前を見ててやるから
終わりのある物語は いらないだろう?
おれがお前に 翼をつけてやる
不細工に ゆがんだ翼でも
(了)
香純「最初に言っただろ、恋には落ちないって、フラグ回収かよ」
明梨「ふふ、わたしにだってオンナのサガがあるのですよ、1200明梨ファンのみなさん、応援ありがとうね!」




