File No.18 新橋に張られた結界! 消えた侘助
ヒューマンドラマ〔文芸〕2026/04/28(火)88位
ランク入り、皆さんのお蔭です、ありがとうございます
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嬢ちゃん、いまはまだ目覚める時でない
裡に眠らせた、愛、みずから殻を破るまではな
人の世は騒がしい
さかしらな欲、思いがけない徳
すべてを愛しんでおっては疲れてしまう
すべてを忌んでおってはおのれが痩せる
時に人であれ、時にそれを忘れ
思うままに暮らせばよい
正義を謳うもの、時に悪しきものとなる
美しく見える夢よ、血の上に描かれてはいないか
見定めよ、そのやわらかな心で
侘助、ここに祈る、護る
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「あれ、ワビさん、ワビさんったら」
イチがアパートの部屋に一人、座っている。
「あー、全力で祈っちゃったんだね、また帰ってこれるのかなあ」
あぐらをかいて額に手をやっている。
「ボクを現世に残したんだ」
香純も自分の住んでいるロフトにいた。
(人に拳を打ったのは初めて……べつにそんなことしたくないけど)
両方の白い手のひらを見る。
(通じないもんだなあ、おじいさんや、明梨を守りたくても、これじゃダメだ)
『そんなんじゃ、大の男は倒せないんだ』サンジの叫びが残っている。
中学生のカラテ教室程度では人体の急所やそれを穿つ技術は教えない。
(サンジもバカだよね、あたしを守ろうとするなんて)
(でもなんであんな……おじいさん…おじいさん?)
騒動の原因はなんだったのか、なぜ自分は奇妙な老人を受け入れていたのか。
(たしか……ワ……)
その顔が浮かんでこない。
『綺羅』の店に行くと、明梨が先に来ていて開店準備をしていた。
「ねえ、最近ずっとおじいさんが来てたよね?」
「おじいさん?」
拭き掃除の手を止めて、明梨が首をかしげる。
「サンジさんがおじいさんじゃ可哀想ですよ? ほかの常連さんも……一番上で50代くらいでしょうか」
言われてみると、先刻よりさらにその人物がいた感触がなくなっている。
「うん……そうだったかもしれないな」
新橋の夜はもう初夏で、開店した7時も薄く夕暮れの気配が残っていた。
しばらくしてミチヨが従者を連れて現れ、常連の2人が来た。
いつものように遠慮がちにサンジが入ってこようとして、ミチヨを見て入り口で固まっている。
「サンジさん、こっち来てくださいよ友だちじゃないですか」
彼女の友人認定はどのような仕組みなのか。
(たまらんなー、真紀でも来てくんないかな)
サンジの男気はよほど非常事態でないと発動しないようだ。
誰も老人の行方を訊く者はいなかった。
香純「考えるな、感じるんだ……爆裂五点掌!」
明梨「もうちょっと、こう、乙女の祈りとかで」
サンジ「まだ終わらねえみたいだよ」




