File No.11 初めてのお出かけです! 娘さんフタリ華やかでよくない?
ボーイッシュすぎるかすみくん(それはそうですが)
アカリちゃんが女子のお買い物を提案しました
闇に生きる二人(暗殺者ではない)明るい外へと飛び出します
明梨と香純は、阿佐ヶ谷の街へ来た。
二人そろって店の外を歩くのは初めてである。
香純に服を見立てる提案をしたのは明梨だった。
ふだんの香純はストリートファッションの古着、若い年齢層向けのガーリーを好んで着ることが多い。
明梨がちがった感じのお店を見てみましょうと言って行き先を選んだ。
香純にはもう少しフェミニンで大人っぽい服を着てもらいたいと思ったのだ。
「そういうのってカタカナばっかりになるもんだなあ」
「しかたないじゃないですか……ほかに言いようがないし」
香純は春先に着る薄手でグレーのリブニット、薄茶色のキュロットを身につけている。
自分の服を選ぶのなら試着のとき脱ぎ着しやすいようにという実用的な選択だ。
(それでもそれなりにかっこいいじゃないですか、ヒキョーだなあ)
明梨自身は無難に女子大生かというブラウスとスカート姿だ。
香純には明梨の嘆きが届いていないようだ。
ふだん着ようと思っていないワンピース類の架けられた壁を、吟味するというより好奇心で見ている。
これで3軒目である。
小一時間もしたころ、落ち着いた色合いの黒地でウエストをベルトで締めるようになっているワンピースが香純の目に止まった。
ウサギ、シカ、キツネなど森の動物たちが描かれていて、もう少し動物たちがデフォルメされていれば子供っぽく見え、大きく写実的なら関西のおばちゃん向けに見えたかもしれない。
どちらでもない繊細なタッチがいいなと香純は思った。
「2万するのかー」
「生地も縫製もしっかりしてるし、高くないと思いますよ」
「そういうのよくわかるなあ」
横にひかえている女子店員に二人はどう見えているのか。
片方の女子力に問題はありそうだが、これでレベルは高い二人だ。
香純は試着室でリブニットとキュロットから着替えた。
襟元の開いたトップスと黒のスパッツの上から、動物たちの歩いている黒い衣裳を身につけた。
「ワンピースっていうかドレスか、そんな感じ」
明梨は、いつもの中性的な姿よりずっといいと思った。
「キレイ、大人っぽいけどカワイイです、かすみちゃん」
さすがに外出先でママさんとはいわない。
「これください、着ていきます」
こうと決めたら迷わないのは、やはり男子らしいということなのか。
「そのまま着ていくんですか」
「ん、まずかったかな」
「……わたしだったら、もったいないけど一度ドライに出しちゃうか、自分の部屋で風通ししてからですね」
「へえ」
香純は素直に感心して言った。
「さすがアカリちゃん、女子力高いわ、パチモンのあたしとは違う」
「気にしてたんですか、お客さんに言われたこと」
明梨も2つ小物を購入してブティックを出た。
陽光の下であらためて香純の姿を見る。
派手すぎないドレスの黒地にキレイな顔が映えて(これでパチモンならわたしは何なんですか)と明梨は考えた。
「これでお役御免だね……あたしのことなのにそりゃないか」
「そうですよー」
「ありがとうアカリちゃん、新橋に行く?」
「結局そうなりますね」
駅へと向かう。今日は香純一人で夜の営業をする予定だ。
香純はこの衣裳のままのつもりらしいから、常連客は驚くことだろう。
それまでまだ時間があるので、軽く食事をして休憩しようということになった。
「沙絵さんとこ行くか、あたしが知ってる中じゃオトナ向けな店だ」
「一度『綺羅』に来られててご挨拶しましたよ」
「かっこいいお姉さんだし、料理も煮物とか和え物とか、本格的って感じなんだ」
「よくないですかそういうの、オフクロの味っていうんですかね」
「ああ……ああ」
そういえば、明梨が香純から実家について聞いたことはない。
(世間話にも出なかったし、ヤバイ、わたし地雷踏んだ?)
「あたしの母親は、ハンバーグとかカレーばっかりだったかな」
それで父親が頭から言い聞かせるように文句をいっていた、楽しくない記憶。
「それでも、母の味ですよ」
「ああ……そうだよ」
(元気だといいな、会いに行ってもいいんだけど、このなりじゃなあ)
香純は母にも誰にも、いわゆるカミングアウトはしていなかった。
何をどう伝えればいいというのか。
(同じようなことをしている人はたくさんいるけど、一人一人みんな違うだろうし、あたし自身よくわかってない)
香純は曲がりなりにも何年かレディースを着ているので所作自体は女性らしく、ドレスの裾を蹴とばして歩いたりはしない。
うしろからついてくる明梨は、見たことのないゆったり歩く香純の姿に見とれている。
(あたしはオンナになってヨメにいくわけじゃない)
いまの姿、ときどき雑にはなるけれど「あたしはあたし」という自覚。
(それで自分なりに気分よく生きていたいだけなんだ……オンナになりたいとすごく努力している人には怒られるんだろうな)
「ぶっころー、ぶっころー、イケてないやつはぶっころ」
また何かの替え歌を口ずさみ始めた。
「こんど店で歌おうっと」
明梨は初めて、美しいばかりではない香純の別な面に触れたのかもしれないと思った。
(なんか助けたいっていうか、わたしにそんなことできる気しないけど)
電車は新橋の駅に着いて、二人は街へ降り立った。
まだそれほど人出はなくて、この時間に見るのは初めてかもしれない。
春の光が柔らかく、見慣れた街に注いでいる。
(こんなにキレイでなんだか手の届かない人とわたしは歩いているのか)
明梨はうっすらと涙が溜まって、そのまま泣いてしまいたいのを必死にこらえていた。
香純のあとを追い、沙絵の店『愛』へと向かっていく。
香純「アカリちゃん、こんど二人で黒ゴスしようか」
明梨「知りませんよ……この人は!ああ!」
※初出で明梨が「愛」に行くのは初めてとなっていました
次回で沙絵が明梨を知っているので、こちらを修正




