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剣神だった者、再び剣神へ――その剣は継承されない  作者: Nexus


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7/7

届かぬなら、届かせる


 朝。

 ノアは庭で剣を振っていた。

 昨日から、何度も同じ動きを繰り返している。

 振る。

 止める。

 また振る。

「……」

 昨日の戦いで感じた、あの妙な感覚。

 剣を避けたはずの魔物に、なぜか剣が当たった。

 何度考えても分からない。

 だから、考えるよりも振ることにした。

 ノアは目の前に敵がいるつもりで剣を振る。

「……ここ」

 相手が避ける。

 その瞬間を想像して、剣を振る。

「……違う」

 もう一度。

 今度は相手が避けるタイミングを少し変える。

「……これか?」

 剣を振る。

 やはり、何かがおかしい。

 剣の速度が変わったわけではない。

 長さが変わったわけでもない。

 なのに、相手が「避けた」と思った場所に、剣が届く。

 ノアはそれを何度も繰り返した。

 その少し離れた場所。

 木陰には、一人の男がいた。

 アルカノイド・ジェスパー。

 気配を消し、ノアたちから見えないようにしている。

 その視線だけが、ノアを追っていた。

 そして、ノアの隣には父親がいる。

「……あの子、何をしているんだ?」

 父親が呟く。

 アルカノイドは答えない。

 答える立場でもない。

 ただ、ノアの剣を見ている。

 やがて。

「……少しずつ変わっているな」

 父親がそう呟いた。

 その時だった。

 森の方から、枝を踏み折る音が響く。

「……!」

 父親が振り向く。

 木々の間から、一匹の魔物が姿を現した。

「ノア!」

 父親の声に、ノアが振り返る。

 魔物はすでにこちらを見ていた。

「……分かった」

 ノアは剣を構える。

 魔物が走ってくる。

 ノアも踏み込んだ。

「――!」

 一閃。

 魔物が横へ跳んだ。

 空を切る。

「……」

 ノアは追う。

 もう一度、斬る。

 魔物は避ける。

 さらに斬る。

 また避ける。

 少しずつ、魔物との距離が開いていく。

「…………」

 ノアは魔物を見る。

 昨日と同じだ。

 自分が剣を振る。

 魔物が避ける。

 そして、避けたはずなのに当たる。

 その感覚は、確かに分かり始めている。

 だが。

 ノアが斬りかかった。

 魔物が大きく後ろへ跳ぶ。

 ――届かない。

 明らかに、剣の間合いの外だった。

 ノアの剣は魔物に届かず、空を切った。

「……」

 ノアは剣を見る。

「誤魔化すだけじゃ……駄目だ」

 相手の間合いを狂わせる。

 避けるタイミングを狂わせる。

 それはできる。

 けれど。

 剣が届かないなら、どうしようもない。

「……足りない」

 ノアは魔物を見る。

 魔物は距離を取っている。

 そこなら安全だと判断したのだろう。

 ノアは考える。

 そして。

「……なら」

 剣を握り直した。

「足りない分を、斬ればいい」

 一歩。

 踏み込む。

 ノアは、思い切り剣を振った。

 ――だが、剣そのものは魔物には届いていない。

 剣先と魔物の間には、まだ距離がある。

 それでも。

 次の瞬間。

ズバァッ!!

 ノアの剣先から、斬撃が飛び出した。

 まるで透明な刃が放たれたかのように、一直線に空気を切り裂いていく。

「――!?」

 魔物が反応する。

 だが、遅い。

ザンッ!!

 飛んだ斬撃が魔物の身体を切り裂いた。

 魔物が地面を転がる。

「…………」

 ノアは固まっていた。

 自分の剣を見る。

 そして、魔物を見る。

「……飛んだ?」

 父親も言葉を失っていた。

「今……剣は届いていなかったぞ」

 それは間違いない。

 剣先は魔物に触れていない。

 なのに。

 斬撃だけが、剣の届かない距離を飛んだ。

「……もう一度」

 ノアが構える。

 振る。

ズバッ!

 また飛んだ。

 今度は魔物の足を浅く切り裂く。

「……」

 ノアの目が輝く。

「飛ばせる」

 もう一度。

 振る。

 今度は飛ばない。

「……?」

 ノアは首を傾げる。

 もう一度。

 振る。

ズバッ!

 飛んだ。

「……まだ安定しない」

 ノアは笑った。

 失敗したことを悔しがる様子はない。

 むしろ、嬉しそうだった。

 まだできない。

 なら、できるようにすればいい。

 父親はそんな息子を見つめていた。

「昨日は……魔法を斬った」

 そして今日は。

「今日は……斬撃を飛ばした、か」

 理解できない。

 だが、目の前で起きたことだけは理解できる。

 剣が届かない距離を、斬った。

 それだけは事実だった。

 そして木陰。

 アルカノイド・ジェスパーも、黙ってその光景を見ていた。

「…………」

 何も言わない。

 ただ、その目だけが細くなる。

 ノアは再び剣を構えた。

「もっと遠くまで……」

 振る。

 飛ばない。

「……まだだ」

 もう一度。

 振る。

ズバァッ!

 今度は飛んだ。

 ノアは笑う。

 昨日まで知らなかった剣。

 今日、初めて触れた剣。

 それなのに。

 もう、その先を考えている。

「もっと……できる」

 ノアは剣を握り直した。

 届かないなら、届かせればいい。

 避けられるなら、避けられない剣にすればいい。

 まだ知らない。

 この技に名があることを。

 かつて自分が振るっていた剣の一つであることを。

 そして、この先。

 この少年が、既存の剣技すら越えていくことを。

 今はただ。

 剣を振る。

 それだけだった。

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