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第48話 ヒロインはヤンデレ幼なじみから逃げられない



アレクとシーガイドを観光し、翌日。




遂に私たちはこの国を出る。







「準備は良いですか?」

「___はい」





強く頷き、私は船に乗る。




コタローさんの船は豪華だった。数々の船が集まるこの港町でも一際目を引く程の大きさ。船体に施された細かな装飾。帆にも装飾が施されているのか、光に当たると僅かに模様が浮き上がる。商船というよりは、お金持ちが持つ客船のよう。







前世でも船は殆ど乗った事がないし、ましてや今世は初めての船。それがこんな豪華なものだなんて…。はしゃぐ気持ちよりも気後れが勝つ。





とはいえ乗らない訳にはいかない。私は意を決して船へと乗り込んだ。その後にアレクが続く。






私たちが乗り込んだ事を確認すると、汽笛の音と共に船が出航する。グラリ、船体が揺らめく。反射的に甲板の手摺を握り締め、揺れに耐える。






幸いにも船が大きく揺れたのは出航の時だけで、波に乗って海へ繰り出すと揺れは収まってきた。





海風が吹く中、私は後ろを振り返る。先程まで居たシーガイドが徐々に遠ざかっていく。






………本当に、出たんだ。




私の故郷であり、乙女ゲーム【王宮ラビリンス】の舞台であるあの国から。






安堵やら郷愁やらが襲ってきて自然と涙が滲む。嬉しいのか悲しいのか、自分でもよく分からない。








____でも。






私はこの選択を後悔しないように生きる。




両親や友人とも離れて、沢山の人の手を借りて、多くの人を巻き込んで、それでもこうして出てきたのだから。







___たとえ幸せになれなくても、今日この国を出た事を後悔する事だけはしたくない。









そしてもう一つ、私の中で決めた事がある。





私は隣に居るアレクを見る。アレクは私の視線に気付くと微笑みを浮かべる。








___私は彼にも後悔して欲しくない。私と共に来た選択を、未来で後悔するような生き方を彼にさせたくない。





だから。






「……アレク、改めて今までありがとう。アレクのお陰でこうして逃げる事が出来た。本当に、ありがとう」

「僕がしたくてやった事だから」






そう言ってアレクは笑う。




あぁ……本当に優しい幼なじみ。そういう所が大好きだけど____





だからこそ、私がその手を振り払わなくてはいけない。





優しいアレクは、きっといつまでも私の手を振りほどけないから。







「私ね、強くなったよ。ギルドで色んな依頼を受けて、経験も積んだし、キースさんとの修行で魔法も前よりも扱えるようになった」





アレクの顔を見る事が出来なくて、隣の彼ではなく正面に顔を向けて、水平線を見つめる。




「依頼の報酬で貰ったお金は貯めてたし、冒険者ならこの先も仕事に困らない」

「……ルミナ?」







きっとアレクは困惑しているんだろう。顔は見れないから分からないけど。







私は深く息を吸って、言葉を吐き出す。彼の手を振り払う為の言葉を。







「私はもう一人で大丈夫。





____だからアレクは、もう私と一緒に居なくていいんだよ」






これから先は好きに生きて欲しい。国に戻るでも良いし、コタローさんの所でお世話になるのもいい。冒険者として活躍するのだって。世を変えるような発明品を生み出す事だってアレクには出来る。







「アレクは、自分の未来の為に生きて。いつまでも私に囚われずに、広い世界に出て、好きな事をやって、





____幸せになって欲しい」







一人の幼なじみとして___そして彼に恋する一人の女として、心からそう思う。






アレクは何も言わない。まぁいきなりこんな事言われても困るよね。







「まぁ時間はたっぷりあるし、これからどうしたいか考えてみて。私はアレクの選択を応援するよ」





なるべく明るくそう言って、私は甲板から船室に入ろうとする。







____それを、アレクが掴んで引き止める。





「痛っ…」





軋む程の力強さで握り締められて、思わず声が漏れる。




アレクは私の腕を掴んだまま、微動だにしない。俯いていて、彼の表情は分からない。





「アレク…?」





恐る恐る呼び掛けると、アレクは漸く口を開いた。






「___僕の幸せは、君と二人で居る事だよ。ずっと、ずうっと、二人一緒に過ごす。それが僕の幸せ。だから」






アレクが顔を上げる。一切の光が入らない深海のように暗い瞳。







「僕の幸せを願うなら、離れるな。生涯傍にいると誓え」






聞いた事もない声。見た事もない顔。背筋が凍る。冷や汗が頬を伝う。








____彼は、本当にアレク?






何か言わなきゃいけない。今すぐこの手を振りほどいて、何でもいい、彼を宥める言葉を吐き出さなければならない。



けれど私の身体は凍ったように動かない。なんで、なんで、私は、アレクに、あの優しい幼なじみに恐怖を感じているの。





私が動けずに居ると、アレクがポツリと呟いた。





「……ルミナは、僕と一緒に居るのは嫌?」






そう問う声は、顔は、寂しげで___私の知るアレクのもので、ホッとすると同時に、漸く私の身体は動いた。






「嫌じゃないよ」





素直に答える。そうしなければいけない気がした。ここで嘘でも「嫌」と答えれば___アレクが私の知る彼ではなくなってしまう気がして。





私の答えを聞いたアレクは嬉しそうに破顔した。そして私の腕から手を離す。






「なら、一緒に暮らそう。今までと同じ様に、二人で、ずっと」

「でも、」

「僕の幸せには、ルミナが必要だ。寧ろ君が居なきゃ、僕はたとえどこに居ても、何をしていても幸せじゃない」





熱のこもった瞳が私を射抜く。







……あぁ、ダメだ。これは。




私が何を言おうが、彼は譲らないだろう。





そして厄介な事に、彼の事が好きな私は彼の言葉に、彼の強い想いに、心臓が跳ねるのを抑えられない。






____もう、受け入れよう。結局私も彼の手を振りほどく事なんて出来ないんだ。





私は観念するように両手を挙げた。







「後悔しても知らないよ?」





おどけるように笑えば、アレクは顔を優しく包み込む。





「後悔なんてする筈がないよ」






アレクの唇が重ねられる。私は目を閉じてそれを受け入れた。


・・・・・











そっと唇を離すと、ルミナは恥ずかしそうに笑う。それが愛おしくて、思わず彼女を抱き締めた。




ルミナは戸惑う様に体を一瞬強ばらせたが、やがておずおずと僕の背に腕を回す。







___あぁ、愛おしいな。





今、彼女は自分の腕の中に居る。そして僕も彼女の腕の中に居る。その事実がどうしようもなく嬉しくて、自然と頬が緩む。








ルミナから別れを切り出された時はつい余裕を無くしてしまった。あのまま彼女を閉じ込めて、何処にもいけないように縛り付けてしまおうかとも考えた。








______それをしなかったのは、彼女が別れを切り出した意図に気が付いたから。





ルミナは僕の為を思って別れようとしたのだろう。この先も僕を縛り付ける事を嫌って、離れようとした。







______なんて健気で愛らしい。





僕の愛が伝わってなかった事に思う所はあるが、それよりも僕の為を思っての行動をいじらしく感じる。









_______大丈夫だよ、ルミナ。






僕はこの先も、一生君を手放す気はない。何があっても。








______それをちゃんと分からせてあげる。これからじっくりと。不安を感じる暇さえないくらい、君を愛し続けよう。









「愛してるよ、ルミナ」







_______絶対に離さない。そんな思いを込めて僕は強く彼女を抱き締めた。












これにて本編終了です。最後は駆け足になってしまいましたが、ここまでお付き合い頂きありがとうございます。



今後、エピローグとしてその後のお話を数話投稿予定ですので、よろしければもう少しだけお付き合いください。


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