第47話 ヒロインと港町
お別れパーティーから翌日。まだ日も登り始めたばかりの早朝から私たちは出発する。
町は静かで、薄暗い。
アレクのアイテムボックスのお陰で荷物は少ない。「お腹が空いたらどうぞ」とマナリスさんから貰ったお弁当もアイテムボックスの中だ。
「本当に、色々とお世話になりました」
昨日と同じ様に深々と頭を下げてお礼を言う。この人たちにはいくらお礼を言っても足りない。
「落ち着いたら連絡ちょうだいね。何ヶ月、何年でも待つから」
「うん」
差し出されたリリカの小指に自分の小指を絡ませ、「約束!」と二人で笑い合う。
「そろそろ行こう」
最後にそれぞれの別れの握手を交わしてから、私たちは馬車に乗り込んだ。アレクの合図でミラが走り出す。
____いつかまた会えるといいな。
そんな希望を胸に抱きながら、私たちはとうとうグライスを出た。
・・・・・
馬車を走らせること3時間。私たちはシーガイドに到着した。
普通なら馬車でも5時間以上掛かる道程だけど、ミラの力で通常よりも早く到着した。定期的に外で遊ばせてはいたけれど、久しぶりに走り回れるものだからミラもテンションが上がったのだろう。想像よりも早い到着だった。
こんな時間じゃまだ町は静かだろうな、と思っていたけど、そんな事はなくて。チラホラと人影が見える。
「朝早いのにもう働いている人が結構居るね」
「港町だしね。漁師も多いし」
アレクの言う通り、あくせくと動き回っている人の大半は漁師らしき人たちで、今日の波がどうだとか、天候がどうだとか、そういう話が漏れ聞こえてくる。
「もう少し経てば新鮮な魚が売りに出されるだろうから、買いに来ようか」
「そうだね。魚にはあんまり縁がなかったから楽しみ」
流通がまだ発展していないこの国では、こういう港町など海が近い場所以外で食べられる魚といえば干物ばかりだ。それもあまり出回っていないので、滅多に食べられない。
お寿司…はないかもしれないけど、刺身くらいはあったらいいな。あとは貝類も食べたい。勿論、シンプルな焼き魚も楽しみ。
想像するだけでお腹が空く。馬車の中でお弁当食べたのに……。
アレクと他愛のない会話をしながら、まずはミラを預けに冒険者ギルドへ。アレクによると、ギルドの隣に使い魔用の待機所があるらしい。まずはそこにミラを預けに行く。
待機所へミラを預け終えると、私たちは今度は宿屋へ向かう。そこのロビーでコタローさんと待ち合わせしているらしい。
「あ、アレクだ」
明らかに高級そうな宿屋に気後れしながら入ると、ロビーに居た青年がアレクを見て声を上げる。認識阻害は発動している筈なのに……。
驚く私の心情を察してか、アレクが小声で言う。
「コタローには効かないんだよ」
アレクの認識阻害を破るなんて相当では…。さてはこの人もチートだな。
「久しぶり、アレク。また会えて嬉しいよ。
そっちがルミナさん?初めまして、僕はコタローと言います。よろしくお願いします」
丁寧なお辞儀とともに名刺が渡される。
「あ、はい…。こちらこそよろしくお願いします」
こちらも恭しく名刺を受け取る。名刺を貰うのなんて前世ぶりだ。
コタローさんはアレクと同じ黒髪。その上瞳までこの世界では珍しい黒だ。幼さの残る東洋系の顔立ちといい、まるで日本人のよう___。
…………もしかして、本当に日本人だったりして。異世界転移か異世界転生した日本人という可能性も十分ある。だってアレクの認識阻害を見破る程の観察眼に加えて、世界でも有名な商会のトップというチートスペック。何らかの転生特典が働いているとしか思えない。それに周りにも多種多様な女の子侍らせているし。
「早速出航……と行きたいんだけど、船のメンテナンスにもう少し時間が掛かりそうで。申し訳ないんだけど、出航は明日でいいかな?」
「私は大丈夫です」
「ルミナがいいなら僕も」
「ありがとう。お詫びと言ってはなんだけど、君達の分の部屋も取っておいたから、今日はここに泊まるといいよ」
こんな高級宿に!?
良いのかな、なんて恐縮する私とは対照的に、コタローさんから部屋の鍵を受け取ったアレクは「じゃ、遠慮なく」とスタスタスタスタ進んでいく。
「折角だから1日だけでもリフレッシュして下さい」
「ありがとうございます」
今更断る訳にもいかない。有難く厚意を受け取っておこう。
去り際にもう一度深々と頭を下げて、私はアレクを追い掛けた。
・・・・・
宿に荷物を置いて、少しのんびりしてから私たちはまた町に出る。因みに部屋は広くて見晴らしもよく、ベッドもフカフカだった。朝早かったせいもあって、油断したらそのまま寝てしまいそうな程心地良かった。
宿で時間を潰したお陰で、既に市場は開いている。ズラっと並ぶ新鮮な魚や、それらが焼ける香ばしい匂いに心奪われる。
「はい、これ」
私が市場に夢中になっている間に買ったのだろう、アレクが魚の串焼きを渡してくれる。
お礼を言って受け取り、思いっきり頬張る。外側はパリッとしているのに、中はふっくらしていて美味しい。お腹のあたりは特に脂が乗っていて、僅かな苦味がまたいい。
久々の魚を堪能し、至福のため息をつく。
「随分と気に入ったみたいだね」
アレクが微笑ましいものを見るように目尻を下げた。
「干物も売ってるから、幾つか買って帰ろうか。他に食べたい物はある?」
「い、いや…」
なんだか年甲斐もなくはしゃいでしまったようで、恥ずかしさからしどろもどろになってしまう。そんな私を見てアレクはクスクスと笑う。
「欲しい物があったらいつでも言って」
「う、うん」
一応頷いたものの、やっぱり申し訳なさが拭えないので遠慮しておこう……。
そう思ったのだが、目敏いアレクは私の視線から「これが欲しいの?」と私が気になったものを当ててきては買い与える、という事を繰り返していた。何度も断ろうと思ったが、その前にパパっと彼が買ってしまう。無駄にする訳にはいかないので私は受け取るしかない。
まだお昼も回らない内から私のお腹はパンパンになったし、荷物もいっぱいになった。アイテムボックスがなきゃ詰んでた。




