第46話 お別れ
さて、海底ダンジョンも攻略され、アレクも無事に戻って来て、私たちは早速出港の為シーガイドへ____
なんてそう上手くはいかない。
これから海底ダンジョンの後始末やら、海の安全確認やら何やらを行う為、まだまだ船を出せる段階ではない。仕方ないのでグライスで修行を続けつつ、出港の日を待つ事になった。
直ぐ出れる様にシーガイドで待っていても良いんだけど、何だかグライスから離れるのが名残惜しくて、もう少しだけここに居たいと私がお願いした。アレクもロナルドさんも快く受け入れてくれて、私たちは未だグライスで生活している。
キースさんとの修行も続けているけど、頻度は減らした。理由は2つ。
1つは散々お世話になったこの町とロナルドさん達に恩返しがしたいから。準備が整うまでの間、なるべく町の為に働く時間を増やしたかった。
2つ目はキースさんの顔色が悪いから。アレクが帰って来てからというもの、彼は私たちの修行を見学しているのだけど、アレクが居るとキースさんは緊張してしまうみたいで、死にそうな顔で修行をつけてくれている。そんなキースさんに長時間修行をつけて貰うのは流石に申し訳なくて、頻度を減らした。
ま、修行を始める前よりは確実に成長しているし、自主練も欠かしていないから多少修行の頻度を減らしても大丈夫でしょ。アレクも自主練を見ててくれるし。アドバイスもくれるし。……まぁ隙あらば「もう十分じゃない?」って止めさせようとしてくるけど。
そんな訳でグライスでの残り少ない日々を惜しむように過ごしていた。やり残しがないように、と意気込みながら、休む間もなく動き回っていたんだけど……。
「海底ダンジョンの後始末も終わったし、シーガイドは安全な港町に戻ってきた。そろそろ向かっても良い頃だと思うぞ」
ロナルドさんからそんな話を聞かされ、私とアレクは顔を見合わせる。
「コタローも直ぐシーガイドに来るだろうし…確かにそろそろ向かっても良いかもね。
船旅には何かと準備が必要だけど、それを揃えるのもここより港町であるシーガイドの方が良い」
アレクが同意する様に言う。
私としても、アレクが戻って来た時からいつでもここを立つ覚悟と準備をしていたので、問題ない。……ないんだけど。
私はチラリとリリカを見る。彼女は一瞬目を伏せたものの、次の瞬間には笑顔を浮かべる。
「良かったね!これで安心して暮らせるね」
「……うん」
まるで我が事のように喜んでくれるリリカ。いや、彼女だけでなく、マナリスさんもメリアンさんも、ロナルドさんもキースさんも『良かったね』と言うように優しい目をしている。彼女たちのその気持ちが嬉しくて、自然と私の頬も緩んだ。
本当に、この町には、彼女たちにはお世話になった。そのお礼をしたくてここ最近色々なお手伝いをしていたけど、それだけじゃ足りない。
「だから、プレゼントを用意しようかと思って」
元々仮眠室だったとは思えないくらい、すっかり生活感の溢れた部屋で私がそう言うと、アレクは暫く何かを逡巡するように斜め上に目線をやる。
「……今から買いに行くの?」
「ううん」
アレクの問いに首を横に振って答え、私は町で買った収納袋を手に取る。そしてその中からいくつかの魔道具を取り出した。
「これをプレゼントしようかと思って。練習用に作ったやつだから不恰好だけど…」
この魔道具はマナリスさんに魔道具作りを教わっていた時に作っていたものだ。いわば試作品なので不恰好だし、魔道具としてのランクも高くはないが、聖女の魔力を込めているだけあって、ステータス上昇の効果は中々のものだ。状態異常耐性も少し付くし、プレゼントとしてあげても良いだろう。
勿論市販の物を買って贈るのも良いけど、折角なら手作りをあげたいという私の我儘だ。それに、多分あの人たちはこういう手作り品も素直に喜んでくれる。
………まぁ、流石に今からちゃんとした物を人数分作っている余裕はないから出来合いのものだけど。
魔道具を並べて、ロナルドさんにはどれが良いかな、リリカにはこれが似合いそうだな、とか考えている私を見て、アレクが手伝いを申し出てくれた。ありがたく厚意を受け取り、二人でプレゼントを見繕っていく。
「あ、そうだ。グライスを立つ日取り、ちょっと遅らせても良いかな?」
「全然良いけど……何かやり残した事でもあった?」
「うん。ちょっとね」
何だろう。町の人からの頼まれごとでも残っていたのかな?
ま、私としては多少出港が遅くなったとして今更どうという事はないし、一向に構わないけど。その分修行の時間も取れるし。
アレクの“やり残し”について深く突っ込まず、私はプレゼントの選定に精を出した。
・・・・・
そうして3日ほどが経ち、私たちは出発の準備も終え、今はロナルドさん達が開催してくれたお別れパーティーの真っ最中だ。
パーティーと言ってもささやかなもので、ギルドの1階でギルド職員を集めてご馳走を食べている。マナリスさんが作ってくれた料理超美味しい。
料理に舌鼓を打ちつつ、私はお礼の挨拶をして回る。
「ロナルドさん、改めて色々とありがとうございました。これ、つまらない物ですが、お礼の品です」
「お、ありがとうな。
こっちこそ、退屈しなくて楽しい日々だったよ。また何かあったらいつでも声を掛けてくれ」
「メリアンさん、お世話になりました」
「こちらこそ、ギルドの仕事も手伝って貰って助かりました。
アレクと婚姻を結んだ際には是非とも教えて下さい。祝いに行きます」
「ちょっと何言ってるか分からないですね」
「マナリスさん、美味しい食事をありがとうございます。お世話になりました」
「こちらこそ〜。楽しかったですよ♪」
「キースさん、修行をつけて頂き、ありがとうございました」
「キミの役に立てたなら良かったよ」
そんな風にお世話になった方々にプレゼントを渡していく。最後はリリカだ。
「リリカ」
私が彼女の名を呼ぶと、リリカは元気いっぱいな笑顔を見せてくれる。
「リリカには特にお世話になったよね。何かと気に掛けて貰ったし」
「友だちなんだから当然でしょ!」
屈託なく笑う彼女。この笑顔が見られるのもあと少しかと思うと、何だか名残惜しくなる。
____それでも、もう決めた事だから。
村を出たあの日から、もう一年近く経っている。今更国を出た所でとか、この町でなら“聖女”とバレる事なく穏やかに過ごしていけるのではとか。そんな事も頭に浮かぶけれど、やっぱり心から平穏な日々を過ごす為にも誰も私を知らない遠い所へ行きたい。攻略対象ヤンデレから逃れたい。その気持ちは拭いきれない。
それに、アレクまで巻き込んで、ここまでお膳立てして貰って、今更引き返せないでしょ。
だから私はこの町を、この国を出る。故郷も家族も友人も、いつかこの国を襲うかもしれない厄災にさえ背を向けて、自分の為に。
「リリカ、今までありがとう。これ、受け取ってくれる?」
村を出てから新しく出来た友だちに、一番上手く出来た魔道具を贈る。リリカは目をいっぱいに輝かせながら、プレゼントを受け取る。
「ありがとうルミナ!大切にするね」
「…うん」
プレゼントを抱き締める彼女の目尻に、ほんの少し光るものが見えた。
私の目元にも同じものが浮かんでいるのを感じながら、私たちは互いの感謝を示す様に強く抱きしめ合った。
・・・・・
「気付きました?キースさん」
ルミナから貰ったプレゼントを手にしたマナリスが、同じプレゼントを手に持っているキースに問う。キースは苦笑いを浮かべて答える。
「勿論。___というか、多分皆もその内気付くと思うよ」
「そうですよね〜。到底素人が作ったとは思えないこの魔道具と、アレクくんの性格を考えれば誰だって分かっちゃいますよね。
この魔道具が、アレクくんがすり替えたものだって」
ルミナから渡された髪飾りを模した魔道具を見ながら、マナリスが呟く。その顔には『しょうがないなぁ』とでも言うような、呆れが混じった笑みか浮かんでいた。
ルミナは全く知らぬ事だが、彼女が用意したプレゼントはアレクがこっそり彼が作った物へとすり替えていた。アレクの“やり残し”とは、ルミナが用意したものと同じ魔道具を作る事である。
魔道具は見た目はルミナが用意した物と全く同じだが、込められた魔力はアレクのもので、そしてチート級の力を持つ彼が作った事により、全体的にパワーアップしている。ルミナの魔道具も道具屋に並んでいたとしても遜色ないレベルだが、アレクのものはともすればオークションに掛けられてもおかしくない程だ。
魔法使いであるマナリスとキースは、魔力からアレクが作った物だと直ぐに気付いたが、他の面子だって、魔道具のランクの高さを見ればその内気付くだろう。アレクがすり替えた物だと。
「全く…本当に独占欲が強いね、彼は」
たとえお礼の品だとしても、ルミナの作ったものを渡したくないなんて。
一番弟子の愛の重さにはちょっと引いてしまうけれど、それが彼らしいと言えば彼らしい。
何れにせよ、ボクにとっては大事な弟子がくれたプレゼントという事には変わりない。
キースは宝物を扱うようにプレゼントを抱えながら、愛弟子達の幸せを祈る。
「……でもリリカちゃんのもすり替えるのはどうかと思う」
「そうですよね。ちょっと無神経です」




