第44話 ヤンデレ幼なじみの帰還
「___やっと帰って来れた」
アレクは無骨な町並みを見ながらそう呟いた。身体は疲れている筈なのに自然と頬が緩む。
海底ダンジョンの攻略は終わった。
ダンジョン奥までの道が開通し、アレクを除いたダンジョン攻略参加者達が次々にお宝を持ち出すのを尻目に、アレクはこっそり地上に戻った。そしてダンジョンの破壊を見届けないまま、グライスに向けて出発した。
行きと同じ様に強化魔法を使ったとはいえ、ダンジョン攻略による疲労もあって辿り着くまでに時間を要した。ダンジョンから出た時点で既に日は傾いていたが、今はもうすっかり日も沈み夜となっていた。
ルミナは起きてるかな、なんてソワソワしながらアレクは町を歩く。アレクに気付いた町民が声を掛けてくるが、彼はそれに応えずひたすらルミナが待つギルドへ向かう。
「…あれ?アレクくん!」
ギルドに入ると真っ先に出会ったのはリリカだった。笑顔で名前を呼ぶ彼女にも応えず、アレクはルミナの所へ行こうとして___。
「ルミナなら部屋に居ないよー」
「………何だって?」
リリカの言葉に足を止めた。
夜も更けてきたというのにまだ外に居るのか。しかもリリカがここに居るという事はルミナ一人?一人で何をしている?こんな夜遅くまで。心配と苛立ちが混ざり合う。
「ルミナはどこ?何してるの?というか何でリリカはあの子に付いていない。ミラも連れて行ってないよね?『一人で行動させないで』って言っておいた筈だけど」
「ちょ、落ち着いて!ルミナ一人じゃないから!!」
「じゃあ誰がルミナに付いているの」
そう問えば、リリカは困った様に目を泳がせた。
___僕に言えない様な相手って事?
「誰が、ルミナと、一緒に居る。こんな時間まで、彼女は、何をしている」
「怖い怖い!!」
ズイっとリリカに顔を近づけ、圧をかける。彼女の肩に置いた手に自然と力が込もる。あまりの威圧感に、端正な顔が目の前にあっても、トキメキより恐怖が勝る。
観念した様に両手を上げ、“降参”のポーズをとるリリカ。
「えっとね…ルミナは今修行中。一緒に居るのはルミナの師匠」
「修行?師匠?」
首を傾げるアレク。もっと詳しく聞こうと口を開こうとした時。
「____アレク?」
愛しい声が聞こえて、アレクは反射的に振り返る。彼の瞳に、世界で一番大切な存在が映る。
「ルミナ!」
アレクは修行だの師匠だのの話も忘れ、ルミナに駆け寄る。そしてそのままの勢いで思いっきり彼女を抱き締めた。
「ちょっ!?」
拘束から逃れようと身動ぎするルミナをしっかりと抑え込み、アレクは耳元で囁いた。
「___ただいま。会いたかったよ、ルミナ」
困惑した表情を浮かべていたルミナは、アレクの言葉を聞いて、躊躇いがちに彼の背に手を回す。
「___おかえり、アレク」
・・・・・
感動の再会が終わった所で、アレクはふと思い出す。
そういえばルミナは修行中だったんだっけ?怪我とかしてないかな…。
非常に名残惜しいがルミナから離れ、アレクはサッと怪我の有無を確認する。目立った傷は見当たらない。その事にホッとしつつ、アレクはルミナに尋ねた。
「さっきリリカから聞いたんだけど、修行してたんだって?」
ルミナはバツが悪そうに答える。
「うん…。もう少し強くなりたくて……。アレクに頼りっぱなしじゃ嫌だし」
「………別に良いのに。僕はルミナに頼られるの嬉しいよ?」
「それはそうかもしれないけど……私が嫌なの」
真っ直ぐこちらを見てそんな事を言う。アレクとしては非常に面白くないが、かといってどうしてもダメだと突っぱねる程の事でも無い。なるべくルミナの要望は叶えたいし、何より“アレクへの負担を軽くするため”の行動なのだから、その気持ちがいじらしくて嬉しい。
だからアレクは、笑顔を貼り付けて「そっか」と頷いた。
「どんな修行をしてるの?」
「魔法のコントロールと、魔力の出力調整の修行。魔力は十分あるらしいんだけど、使い方が雑って師匠に言われて……」
うんうん、と笑顔で話を聞きながら、まだ見ぬ師匠への憎悪が蓄積されていく。
雑って何だ。ルミナの大らかさが魔法にも反映されているだけだろ。そもそもルミナの隣で戦うのは僕かリリカ位何だからたとえ魔法が暴発しようが問題ない。周りに合わせて魔法を使う必要なんて無い。僕ならどんな魔法でも合わせられる。
ルミナが修行をする事自体が気に入らないのも含め、アレクの怒りの矛先は彼女の師匠に向く。
師匠は誰だろ。魔法の修行って事はマナリス?それともまさか僕が居ない間に悪い虫がルミナに近寄っていたり……。
アレクは腹の奥で渦巻く黒いものを隠しながら、何でもないように問う。
「ねぇ、その師匠ってどんな人?」
ルミナがにんまりと笑う。
「アレクも知ってる人だよ」
「マナリス?」
「ううん」
一番身近な魔法使いの名を挙げるも、否定される。ならば誰…?と首を傾げるアレクに、ルミナは答える。
「キースさんだよ」
「キース…?」
聞き覚えのある名前だ。アレクは記憶をほじくり返す。
____そうだ。確か3年程前教えを乞いに行ったエルフがそんな名前だったかな。
村からそう遠くない森にエルフが居るという噂を聞きつけ、もし本当なら教えを乞おうと思って森に行った。そこで出会ったのがキースというエルフだった。
懐かしい記憶を思い出す。彼は中々役に立った。
「……あのキースが、ルミナの師匠?」
「うん。多分今アレクが思い浮かべてるキースさんが、私の師匠。アレクの妹弟子だね、私」
そう言って笑うルミナはとても愛らしい。
……でもそうか。キースが師匠か。
アレクはキース自身の事をそれ程嫌っていない。2週間だけだったとはいえ、彼から学んだ技術は今の自分に活かされている。
修行だって、厳しい事は厳しいが、理不尽な内容のものでは無かったし、自分の身に合ったものだったと思う。
____けれど。
「……ムカつくものはムカつくよね」
だって恐らくルミナと2人っきりで修行に励んでいた訳で、たとえ双方が何とも思っていないとしても、それだけで腹が立つ。しかもアレクが知らない間にルミナと仲を深めているのだから、余計に。
……後できちんと釘を刺しておかないと。
グライスのどこかの宿屋で、キースがぶるりと背を震わせた。




