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第13話 攻略対象は動き出す

ルミナが聖女と判明してから5日、ルミナが村を出てから4日経った日のこと。



聖女の護送を命じられた王宮の使者団は聖女を探し回っていた。村中を駆け回り、村人に話を聞いて、それでも聖女の影ひとつ見つけられない。




「ローレンス様!やはり聖女様は既にこの村に居ないものかと思われます」

「そうか」



兵士からの報告に、1人の青年が表情一つ変えずに頷く。彼の名はローレンス・ディアン。【王宮ラビリンス】の攻略対象の1人にして、聖女を王宮へと連れていく使者である。ゲーム内ではヒロインが最初に出会う攻略対象だ。




彼は“神眼”と称される優れた鑑定スキルで、聖女が本物であるかどうか見極め、王宮まで連れて行く。慎重な彼は、自身が見た聖女のステータスが合っているかどうか確認する為、道中で盗賊退治を行う。___本来であれば、その様に物語は進行した。



しかし、聖女(ルミナ)は既にこの村には居ない。



村に到着するや否や、神父が焦った様子で駆け寄って来た時から、ローレンスには嫌な予感がしていた。話を聞いてみれば案の定、1人静かに修行に出ていたはずの聖女が一向に村に戻ってこないという。



報告を聞いたローレンスは思わず無能な神父の首を焼き切りたくなった。なぜ大事な聖女を1人にしておく。聖女だ何だと騒がしい村人から遠ざかりたい気持ちは理解出来る。それが嫌で一時身を隠すのも良いだろう。だがせめて、教会の中で匿うべきだった。この辺りに魔物は少ないとはいえ全く居ないわけではない。村の外で野営をして過ごし、我々が来るまで無事でいる保証は無いのだから。




とはいえ、村の周辺まで探索したが、今の所聖女の遺体は出ていない。魔物が人を食い荒らした痕跡も無く、また味を占めた魔物が村を襲いに来た訳でもない。一先ず、聖女は無事と考えて良いだろう。



となれば姿が見えない理由は2つ。誰かに攫われたか、___逃げ出したか。




今の所後者の可能性が高い。聖女と共に姿を消したアレクという幼なじみ。彼が手引きをして聖女を逃がしたのだろう。神父の話によると、アレクから“聖女が1人で修行をすると言っていた”と聞いた。彼はその優秀さと物腰の柔らかさから、随分と信頼されていたらしく、まさかそんな嘘をついているとは思わなかった、と神父は言っていた。



しかし同時に、アレクが聖女を好いているという話もある。あの位の年齢の少年が恋心故に後先考えずに突っ走ってしまう事は十分有り得る。聖女が逃がしてくれと頼んだのかは分からないが、十中八九アレクが聖女を連れて逃げたのだろう。





ローレンスは通信の魔道具で王宮にその旨を報告する。直ぐに探索部隊が組まれるとの事だ。ローレンスは王宮へ帰還がてら、聖女の情報を集めるように王命を受けた。



___全く、面倒な。態々こんな場所まで足を運んだというのに、聖女は居らず、また直ぐに王宮へ戻れる訳でもない。情報収集を命じられた以上、行きのように転移魔法陣を駆使して最短距離・最短時間で王宮に戻る訳にもいかない。情報収集に掛ける時間も考えれば、王宮に帰れるのはいつになる事やら。




不満が溜まっていく一方であるが、王命とあれば仕方ない。ローレンスは不満も文句を一切顔に出さず、淡々と伴としてやって来た兵士達を集め、指示を出す。




「“聖女の情報を集めよ”との王命が下った。念の為村には2名ほど兵士を残す。そこのお前と、お前だ。もし何か情報が入れば直ぐ魔道具で連絡を。



それ以外はここを発つ。早急に支度を済ませろ」

「「「は!」」」



一糸乱れぬ敬礼を見せた兵士達は、村に残るよう命じられた2名を除き、ローレンスと共に村を発った。


・・・・・


「父上、聖女が行方不明とは本当ですか?」




王宮の玉座の間にて。玉座に座る国王に恭しく頭を下げるのは、この国の第一王子にして【王宮ラビリンス】のメインヒーロー、カイン・アースラン。



聖女が行方不明という話は瞬く間に王宮中に広まった。当然、第一王子である彼の耳にも届いている。



最初に噂を聞いた時はまさかと思ったが、我が国が誇る諜報部隊に出動命令が下り、魔術師団が魔法による追跡と町の監視を命じられた。ただ事ではないと感じてこうして国王に確認しにくれば、王は「ローレンスからはその様に報告を受けている」と頷いた。



魔術師団の団長にして優れた鑑定スキルを持つローレンス。ビジネス人間であるが、それ故に国王に対して無益な嘘はつかない。現状“聖女が行方不明”という嘘をついたとして、彼に利はない。

たとえそのままローレンスが聖女を手中に収めようと画策しても、彼の実力では、いや彼でなくとも、王宮の追跡から逃れ切るのは至難の業だ。それが分からないローレンスではないし、王宮に捕まった後どうなるかも勘定出来ない馬鹿では無い。




つまり、本当に聖女は“行方不明”なのだ。





「聖女の不在は国の一大事。やっと見つけた彼女を手放す訳にはいきません。


___私も探索に加わってもよろしいでしょうか?」

「……騎士団を伴にするのなら良いだろう。良い訓練にもなる。


但し、私が戻れと言ったら何があろうと戻って来てもらうぞ」

「ありがとうございます」




そうとなれば準備が必要だ。早急に手配しなければ。






聖女の存在は国の伝承にも残っている。聖女が現れた世代の国は、災害やスタンビートなど未曾有の危機に襲われるも、聖女の力によりそれを退け、繁栄したという。



今この時代に聖女が現れたという事は、遠からずこの国に危機が訪れるかもしれない。そうでなくとも、聖女の力は国の繁栄に不可欠だ。





____どこへ逃げようとも、必ず連れ戻してみせる。私が、この手で……。











そして、攻略対象は動き出す。国の為に。自身の為に。___物語を正常に戻す為に。




だが、彼らは知らなかった。



精鋭揃いの攻略対象達。彼らから、そして国から逃げ切れる程の力を持った存在に。本来なら、脅威にもならない、モブですらなかった1人の少年に。






___ヤンデレチート幼なじみと、ヤンデレ(予定)の攻略対象達による、聖女争奪戦が始まる。

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