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第12話 馬車を手に入れた

突発的な盗賊退治イベントの翌日。緊張から中々寝付けなかった私は大分寝坊をしてしまった。やってしまった…。早くこの町を出ないといけないのに…。そろそろ王宮の使者一行が近くまで来ていてもおかしくない。



「ごめん…寝坊しちゃった」

「移動の疲れもあっただろうし、仕方ないよ。これから暫く野宿が続くだろうし、ちゃんとした所で休める時は休んだ方が良い。

大丈夫、迂回していけば王宮の人達と鉢合わせる事もないだろうし。



それより、宿の人が朝ご飯取っておいてくれたみたいだから食べに行こう?」

「うん…」



今はこれでも逃亡中なんだからもっと気を引き締めないと。取り敢えずこれからは寝坊に気を付けよう…。






私たちは民宿で遅めの朝ご飯をご馳走になった後、早速馬車を受け取りに向かう。アレクが商人から渡された地図を頼りに、周囲の人にも道を尋ねつつ目的の家に辿り着いた。



そこは町一番の商家らしい。店と住居が一体になってるみたいで、三階建ての建物となっており、一階には高級感漂う道具屋が入っている。これこの格好のまま入っていいのだろうか……。ドレスコードとかないのかな…と不安になる私とは対照的に、アレクは特に臆する様子も無く堂々と扉を開ける。


カランと入店を告げるベルの音がなり、店内にいた店員さんと思しき女性が私たちが入ってきた入口を見る。



「いらっしゃいませ___



あら?」



店員さんは首を傾げ、「誰か入って来たと思ったのだけれど」と不思議そうに入口を眺める。そっか、認識阻害マントを被ったままだから気付かれないのか。慌ててフードを外そうとする私の手をアレクが掴む。



「顔を覚えられるのは避けたいから、このままでいこう。認識されにくいだけで話はできるしね」

「分かった」



確かにこんな高級店っぽい所の店員さんなら、一度来ただけの客の顔もしっかり覚えてそうだ。後に王宮がこの店に探りを入れた時、顔を覚えられていたら都合が悪い。

そんな訳で認識阻害は発動したまま、アレクが店員さんに向かって声を発する。



「すいません」

「!?今どこから…?



__ああ!申し訳ありません、気が付かず……」



声を掛けたことにより私たちの存在に気付いた店員さんは深々と頭を下げる。認識阻害が発動しているのだから気付かないのは当たり前だ。それでもプロ意識なのか、はたまたこの店のオーナーか何かに怒られる事に怯えているのか、こちらが恐縮してしまう位に謝られてしまった。この人の落ち度ではないので「気にしないで下さい」と優しく応える。



「あの、僕はアレクといいます。ここに来れば馬車を譲って貰えると聞いて…」

「あぁ、アレク様ですね。お話は伺っております。こちらへどうぞ」




店員さんに案内されるがまま上の階へ。二階は所謂VIPルーム的な所らしく、一階よりも更に高級そうな壁と床、調度品が並ぶ廊下を歩いて一際大きな部屋へ。



「こちらでございます」



ご丁寧に扉を開けてくれた店員さんに頭を下げつつ、中に入る。


落ち着いた色味の革張りのソファ、大理石で作られたと思しきテーブルといい、如何にも“VIPルーム”って感じの造りだ。正面に座るのは1人の男性。その人は「ん?アレク君は…?」と首を傾げる。この人が荷馬車の持ち主か。まだフードを被ったままなので認識されていないみたいだ。


流石にここでは認識阻害を解いた方が良いのでは…とアレクの方を伺うと、小声で「ルミナはそのままで」と言われた。今回もアレクが表立って会話を進めてくれるらしい。頼りっぱなしなのは申し訳ないが、アレクより私の顔を覚えられる方がマズイ。簡単に足取りを掴まれてしまう。



勿論、私と一緒に村から居なくなったアレクの足取りも王宮は追うだろうけど、いくら調べてもそこに聖女()の痕跡がなければ一緒に行動していないと判断されるだろう。そうなれば、聖女を探す方に更に人材が投下され、アレクを追う人員は次第に少なくなり、上手くいけば、“これ以上アレクを追っても意味が無い”と判断され、アレクは捜査対象から外れるかもしれない。


まぁ流石にそれは希望的観測が過ぎるけれど、いずれにせよ私の顔を覚えられるのはダメだけど、アレクの顔が割れる分にはそこまで問題は無い。という事で私は貝の様に口を閉ざしておこう。



商人はアレクの隣に腰掛けた私に気付く素振りもなく、口を開く。




「改めて、私はゼニス・ルーベルト。商いをしながら各地を巡っている、しがない商人だよ。



昨日は本当にありがとう。君のお陰で大事な商品を取り戻す事が出来た」

「いえ、たまたま、ですから」




世間話もそこそこに、アレクは「ところで馬車について何ですが」と早速を切り出す。




「もう受け取れますか?」

「あ、あぁ…馬車だね……。勿論だとも。



しかし、本当に馬車で良いのかい?他にも貴重な魔道具もあるけれど…」

「生憎ですけど、僕は馬車が欲しいので。契約書もきちんとありますし…ね?」




気のせいだろうか。アレクの笑顔が黒い気がする。


恐らく昨日作られたであろう契約書には“馬車を譲る”という旨の文章が並び、そこにアレクの名前と商人__もといゼニスさんの名前が書かれている。正式な書類ではなくその辺にあった紙に書いた簡素なものだが、契約書は契約書だ。ゼニスさんも商人としてこれを無下には出来ないだろう。なんか馬車渡すの渋っていたけど。



案の定、ゼニスさんは「勿論分かっておりますとも」と作り笑いで答えるしかなく…。




「店の裏に馬車を停めてあります。ご自由に持っていって構いません」

「ありがとうございます」

「なに、命の恩人ともいえるお人の頼みごとですから。




___ところで、これから旅を続けるのなら何かご入用のものはございませんか?私で用意出来るものなら今すぐご用意しますよ。


ただ、こちらも商売なので代金は頂きますが。勿論、お安くしておきます」

「すいません、必要なものは既に買い揃えてあるので遠慮しておきます。


その代わりと言っては何ですが、これらを買い取って頂くことは可能でしょうか?」




そう言ってアレクはアイテムボックスから魔法薬をいくつか取り出す。「拝見します」と手に取って眺めるゼニスさんに、ひとつひとつ効果を説明する。



「そちらが睡眠効果のあるものです。自然な眠りに導くもので、不眠治療にうってつけですよ」

「なるほど、確かにその様だ。睡眠に悩む貴族の方は多くいらっしゃるので、よく売れるでしょう」

「こちらが状態異常耐性を上げる品物で__」




恐らく鑑定スキル持ちであろうゼニスさんは、アレクの良質な魔法薬に興味津々といった様子だ。




「買い取っていただけるのなら、こちらの魔法薬のレシピもお付けしますよ」



そう言って魔法薬のレシピが書かれた紙を取り出す。ゼニスさんは頷き、かなりの大金でそれらを買い取ってくれた。


・・・・・


「お金も馬車も手に入ったし、これで用は済んだかな」



馬車が置いてある店の裏で、アレクが満足そうに頷いた。うーん、たった1日で盗賊退治して、馬車とついでに路銀まで手に入れるとは、流石アレク。私の幼なじみが色んな意味で強すぎる。



用も済んだし早速出発したいのは山々だけど、馬車を引く馬はどうするんだろう。昨日「代用は考えてある」とは言っていたけど。




「アレク、馬はどうするの?」

「色々方法を考えてみたけど…やっばりこの方法が一番良いかな」



そう言ってアレクが取り出したのは馬の人形。一見何の変哲もない人形だけど…?いや、よく見たら目の部分は魔法石が埋め込まれているのか。という事は何かの魔道具?



「コレを媒体として、使い魔でも召喚してみようかと」

「……はい?」





ファンタジー世界にはおなじみの使い魔。勿論【王宮ラビリンス】にも登場する。魔力のステータスを一定以上上げると“使い魔召喚イベント”が発生し、使い魔は戦闘で色々とサポートしてくれる。敵を攻撃してくれたり、はたまた敵を状態異常にしてくれたり…などなど。



使い魔には色んな種類があり、召喚者の魔力ステータスや得意な魔法属性、媒体として用いる品物などによって召喚される使い魔が変わる。ただ使い魔召喚については完璧な法則というものはないので、ランダム召喚ではある。ステータスや媒体によってある程度絞れるというだけで。



媒体として用いるのは魔法石が埋め込まれた馬の人形。確かに馬系の使い魔が召喚される確率は上がるかもしれないが、そう上手くいくのかな…。いやでもアレクだしな…。





「ここじゃ目立つから、場所を移動しよう」というアレクの言葉に従って、私たちは町から出て、開けた空間に移動した。因みに馬車はアレクが新しく作ったというアイテムボックスに収納されました。いつの間に作ったのかと思えば、私が呑気に寝ている間に暇だから作ったらしい。アイテムボックスってそんな気楽に作れるもんなんですかね。



アレクは慣れた手つきで魔法陣を地面に書いていく。完成した陣の真ん中に馬の人形を置き、自分の血を垂らして呪文を唱える。その途端、魔法陣が光り出す。



眩しくて思わず目を瞑ってしまう。光が収まり、目を開けるとそこにいたのは___




「ヒポグリフ!?」




鷲の頭と翼、鋭い爪が生えた鳥の前足、馬のような後ろ足と尻尾。どう見てもヒポグリフですね。え、ていうかヒポグリフってグリフォンの仲間というか、グリフォンから生まれたやつだった気がするけど、大丈夫?食われたりしない??



そんな心配は杞憂だったようで、ヒポグリフはアレクを認識するとスっと頭を下げる。アレクは彼(もしくは彼女)の首元に手をやり、優しく撫でる。一瞬で手懐けてる…!と思ったがそもそも使い魔として召喚され、既に主従の契約が結ばれてるんだから当たり前か。




「上手くいったよ、ルミナ!」

「……そうだね」



100点満点の笑顔で喜ぶアレクに、私は思考を放棄した。幼なじみが嬉しそうだからもう何でもいいや。



「ルミナもおいでよ」



アレクに手招きされ、恐る恐るヒポグリフに近付く。私はこの子の主ではないが、敵ではないとは分かってくれたようで、多少の警戒は見られるものの、いきなり襲われる、なんて事にはならなかった。



「はじめまして、私はルミナ。アレク…君の主の友達だよ。よろしくね」



どこまで言葉を解するのかは分からないが、とりあえず伝わったらしい。ヒポグリフはうむ、と言わんばかりに頷いた。




「ところで、この子の名前はどうするの?」

「ルミナが決めていいよ」

「えー…召喚者はアレクなんだからアレクがつけてあげなよ」

「…分かった。じゃあ、ミラで」

「シンプルで良いね」



多分直感でパッと思いついた名前だろう。考えて考えぬいて付ける名前も愛情がこもっていて素敵だけど、インスピレーションで決めるのも良いよね。呼びやすいし、本人…いや本鳥?本馬?も覚えやすいだろうし。



「これからよろしくね!ミラ」



ヒポグリフ___ミラは答えるように大きく鳴いた。



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