第10話 ヒロインはゲームイベントに関わらない
どうやらアレクはどうしても盗賊の元へ行きたいらしい。西の街道を通らなくとも目的地には行けるが、盗賊が持つものに興味があると言う。
私としてはゲームイベントに関わりたくないので全力拒否したいところだけど、アレクは頑として譲らない。
あまりに拒否する私を見かねて「僕一人で行く」とは言ってくれたが、それはそれで彼の事が心配。件の盗賊はチュートリアルの敵なので、ゲーム的には負ける方が難しい、という難易度になっているが、それが現実だとどの程度の強さになるのか分からない。
あと、単純に数が多い。盗賊の頭がテイマーだったので、魔物も敵に加わっている。イベントでは5人の盗賊+3匹の魔物の相手をする事になる。そして捕らえた盗賊達から仲間の情報を聞き出したところ、アジトにはまだまだ仲間__勿論魔物も含む__がいると判明。流石にちゃんとした討伐隊を組んだ方が良い、という話になり、通信の魔道具で王宮とルースラの町に連絡。王宮の使者の一団から数人残し、後は彼らと町の憲兵及び冒険者によって組まれた討伐隊に任せて、聖女御一行は予定通り王宮へ……という所でイベントは終了する。因みに、その後盗賊は大きな問題もなく退治された事を王宮の使用人から聞く事が出来る。
とにかく、そんな訳でいくらアレクでも一人で向かうのは心配だ。チートチートと言っているけど、実際のところ彼の戦闘能力についてきちんと把握してるわけじゃないし。盗賊の頭達など、チュートリアル戦闘で戦わなかった相手のステータスも分からないし。
でもやっぱりゲームイベントにはなるべく関わりたくない。それがきっかけで結局原作通りに王宮に捕まる可能性だってある。でもアレクは盗賊が気になるって言ってるし…何がなんでも行く気だし……。
そうして私が導き出した妥協案は、“アレクに全力のバフをかけて私は後方待機”というもの。結局アレクに任せる事になってしまったけど、その分今私が持てる全ての力を使ってバフをかけるから!!
村の教会で修行した時を思い出しながら、アレクにバフをかける。全ステータス上昇…あとは状態異常耐性アップ…。彼の身体に掌を向け、魔力で包み込むイメージでバフをかけていく。
「……調子はどう?ちゃんと能力上がってる??」
「うん、絶好調だよ。ありがとう」
アレクは彼に向けていた私の手に自身の手を合わせ、微笑んだ。
町へ移動している間にも試しに彼に聖女の力を使ってみたりしたが、やっぱり“バフがかかかっている”と目に見えて分からないせいでいまいち上手くいっている実感がない。ゲームだとステータス画面見ればどのステータスがどれくらい上昇しているか一発で分かるのになぁ。とはいえアレクが大丈夫だと言うのならちゃんとバフはかかっているんだろう。
「それじゃあ早速盗賊に会いに行こうか」
「それは良いけど…アジトの場所、分かるの?酒場でも“西の街道に出る”って話くらいしか聞けなかったのに」
ゲーム内でも盗賊のアジトの場所までは出てきてない。戦闘チュートリアルは襲ってきた盗賊を退治するまでだったし、その後はヒロインの知らぬ所で討伐隊が壊滅させていた。限定版特典の設定集には載っていたかもしれないけど……流石に覚えていない。つまり【王宮ラビリンス】の記憶は役に立たないので自力で見つけるしかない。
普通に考えるのなら周辺の地図と町で聞き込みをした情報を照らし合わせて、盗賊がアジトにしそうな場所をしらみ潰しに調べていくしかない。結構時間がかかりそうだから、今日は町に泊まって更に情報を集めて、明日からアジトしらみ潰しに探して……っていうのが妥当かな。早くこの町を去りたい気持ちはあるけど、アレクの為だから仕方ない。
なんて考えていたら、アレクがとんでもない発言を投下してきた。
「僕が囮になって盗賊を呼び寄せるよ。後は本人達に案内させれば良い」
「いや危なくない!?」
てっきりアジトを突き止め、こっそり忍び込むなり、遠くから魔法で一方的に殴るなりするかと思っていたのに、まさかの正面突破。しかも自分が囮になるなんて…。下手したらゲームイベント通りに5人+3匹の魔物の相手をした上で残りの仲間達とも戦わなければいけない。いくらアレクがチートだろうと、いくら聖女のバフがあろうと厳しいんじゃないだろうか。
そう言って止めようとするも、アレクは「大丈夫」の一点張り。やっぱり私も後方支援だけじゃなくて前に出て一緒に戦った方が良いのでは…。原作イベントに関わりたくないけど…。
「ルミナは心配性だなぁ。大丈夫だよ、彼らの根城に案内して貰ったら、後は睡眠の魔法薬で眠らせるから」
「でも……盗賊の強さも分からないのに」
「勝算はあるって言ったでしょ?これでも僕って結構優秀なんだよ?ルミナのお陰で絶好調だし」
「……やっぱり私も一緒に戦った方が」
「それはダメ」
食い気味で否定された。ガシッと肩を掴まれて瞳孔ガン開きで言われてしまえば引き下がるしかない。私を心配しての事だろうけど、ちょっと怖かった。普段は優しくて穏やかだから余計に。瞳孔ガン開きのアレクなんて初めて見たよ……。
彼の事が心配ではあるが、こうなっては仕方ない。何かあれば直ぐに助けに入ろう。大丈夫。聖女の力は自分にも有効だから、筋力ステータスに出来る限りのバフをかけてぶん殴れば私でも盗賊に勝てるはず。………少なくとも逃げる時間は稼げる。バフを乗せれば足も速くなるし。
アレクが立てた作戦はこうだ。まず、アレクが装飾品に見せかけた魔道具を身に付け西の街道を歩く→アレクを狙って現れた盗賊を捕縛し、アジトへ案内させる→認識阻害マントでアジトに侵入し、睡眠の魔法薬を撒いて盗賊達を眠らせる→拘束。その後は可能であれば町まで連れて来て憲兵に引き渡す予定だ。上手くいきますように……。
・・・・・
結論から言おう。めちゃくちゃ上手くいった。
驚くくらい予定通りに事が進んだ。最初の関門は街道に現れた盗賊を無事捕縛出来るかどうかだったが、アレクは一瞬で彼らを捕まえた。魔道具の力があってこそとはいえ、あまりの早業に思わず拍手をしてしまいそうだった。音を立てると認識阻害の効果が薄くなってしまうからやらなかったけど。
その後は捕まえた盗賊達にアジトへ案内させる。アレクとの圧倒的な力の差を見せられた盗賊達にはただ言われた通りにする以外の選択肢がなかった。アジトに行けば仲間がいるから形勢逆転出来ると思ったのかもしれないけど。まぁアジトにいた残りの盗賊もアレクが一人で片付けたんだけど。私は街道で待機してる様に言われていたので、実際に彼の戦闘を見たわけではないけれど、余裕の表情で帰って来たので作戦通りにいけたのだろう。
人数が多いので流石に町まで運ぶのは大変、という事でアレクは盗賊達と魔物を縛って戻って来た。後は町の憲兵をアジトへ案内してしょっぴいて貰うらしい。
「そういえばアレクが気になってた物はあったの?」
「うん。ただ大きいからね。カバンにもギリギリ入らなさそうだから一度戻って来たんだ。少し時間はかかるけど新しく収納カバンを作ろうかな……」
…………魔道具、しかもアイテムボックスってそんな気軽に作れるものだったっけ。というか空間魔法使えるならわざわざ魔道具の形にしなくても良いのでは?そのまま魔法で仕舞えないんだろうか。少し気になって尋ねてみると、「その方が魔力消費も少なくて楽だし効率もいいから」との事。そういえば魔道具って“魔法を誰でも、効率的に使える様に”生み出されたものだっけ。
それにしても、町で色々買い物したとはいえアレクのカバンに入りきらないなんて結構大きなものなのかな。何なんだろう?聞いてみると、「馬車だよ」と返ってきた。…………馬車??確かに移動する上であった方がいいものだけど、そんなのが盗賊のアジトにあるって何で分かったんだろう……と考えた所で、酒場で聞いた話を思い出した。
『昨日だかもこの町に向かった商人が被害に遭ってね。荷馬車ごと盗られたって嘆いてたよ』
「……まさか、アレク____商人の荷馬車を貰おうとした?」
「うん。あ、積まれていた荷物はちゃんと返すよ?」
「いやそういう話じゃなくない??」
なんてこった。あのアレクが人のものをパクろうとするなんて……。優しい幼なじみが悪事に手を染めようとしている。いや、多分私のせいなんだけど。私が徒歩での移動をしんどそうにしているから乗り物を用意しようとしてくれたんだろうけど。アレクも葛藤した上で今後の逃亡生活の為にこの決断をしたんだろうけど。
「流石に盗るのはどうかと思う…。荷馬車なんて安いものじゃないだろうし」
「………大丈夫、ちゃんと交渉して譲って貰うから。
憲兵への報告と事情聴取もあるし、この町を立つのは明日以降になっちゃうけど…」
「それはしょうがないよ。そもそも私が遊びすぎたせいだし……」
「楽しかったから良いよ。
それじゃあ、憲兵に報告してこようか。僕が行くからルミナは宿をとっておいてくれるかな。あんまり痕跡は残したくないけど…休むならちゃんとベットで休みたいもんね。宿は……酒場で聞いたここが良いかな」
「分かった」
アレクから宿屋の名前と簡単な地図が書かれた紙を受け取る。「ちゃんと偽名使ってね」との忠告に頷いて、一度彼と別れて私は宿屋へと向かった。
・・・・・
少々奥まった所にある宿屋は一見ただの民家の様だ。主人の話では子供が巣立った事をきっかけに、リーズナブルなお値段で冒険者などを家に泊める事業を始めたらしい。つまり前世でいうところの民宿だ。まだ始めたばかりな事もあってこの宿の存在はあまり知られてないらしく、他に客もいない。私みたいな訳ありにとってはありがたい。教えてくれた酒場の人に感謝しなくては。
案内された部屋に荷物を置き、一息つく。部屋数が少ないし、節約もしたいのでアレクと同じ部屋になってしまった。イケメン幼なじみと同じ部屋で寝泊まりするのは緊張するが、これから先も野宿やらなんやらで同じ空間で寝る事はあるだろうし…今の内に慣れておこう。
ソワソワしながらアレクを待つこと数時間。すっかり夜は更けた頃に、部屋の扉がノックされる。アレクだ。宿屋の主人に連れられた彼が部屋に入る。主人は私たち二人を微笑ましいものを見る目で眺め、「ごゆっくり」と立ち去った。……多分、色々勘違いされているが訂正する暇もなかった。なんかより気まずくなった気がする。
気分を変えるように、なるべくいつも通りを装いながら私はアレクに声をかける。
「遅かったね」
「実は憲兵に引き渡す所までは直ぐに終わったんだけど…事情聴取を受けていたら、どこかから盗賊が捕まった事を聞いた、荷馬車を盗られた商人がやって来てね。馬車を貰えないか交渉してたんだ」
「そうなの?流石商人、耳が早いんだね。
因みに、交渉は…?」
「上手くいったよ。馬は流石に手に入らなかったけど、馬の代用は考えてあるから心配しないで。
大事な商品を取り返してくれたお礼に、馬車の改修もしてくれるってさ」
なんと、驚くくらいトントン拍子に事が運んでいる。このぶんだと明日の午前中には出立出来るかもしれない。
奪われた荷物を取り戻したお礼とはいえ、荷馬車も大事な商売道具だろうに、快く譲ってくれたその商人には感謝しかない。勿論、アレクの交渉術のお陰でもあるんだろうけど。私の幼なじみはそっち方面でもチートなのか。
改めて彼が一緒に来てくれた事に感謝しつつも、やっぱり私のせいで彼の才能を潰してはいけないとも強く思う。このままだとアレクに頼りきりになって彼から離れられなくなってしまう。それはいけない。私ももっと頑張らなければ。
いつか、アレクと離れる事になっても彼を心配させないように。彼が居なくてもちゃんと一人で生きていけるように。
まずは私にしか出来ないこと、つまり聖女の力の強化を頑張ろう。せっかく馬車が手に入ったんだから、移動の時間も特訓に集中しようかな。
取り敢えず、今日はもう休もう。私は特に何もしてないけど、アレクは疲れてるだろうし。そう思い、話もそこそこに私たちは布団に潜り込んだ。___二つ並んだ布団に。
……ある程度距離は離れているとはいえ、ちゃんと眠れるだろうか、私。




