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第9話 ヤンデレ幼なじみは盗賊退治に赴く

ルミナとデート気分で町を歩き回り、気付けばすっかり夕方に。ルミナは遊び過ぎ事を反省しているが、アレクとしてはたっぷり彼女との時間を満喫出来て、彼女のはしゃぐ姿も見られたので大満足だった。



とはいえ、ルミナがもう町を出たいと言うならアレクはそれに従う。実際、あまり長いするのは危険だ。そうと決まれば直ぐにでも出立すべきだが……ここまできたなら、やっておきたい事があった。情報収集である。



酒場では多くの人が集まり情報が得やすい。とはいえ、朝っぱらから酒場で飲み食いしている人間は少ない。行くなら夕方~夜にかけてが一番良い。



直ぐにここを立つ予定だったのでこの町での情報収集は期待していなかったが、結局夕方まで町にいる事になったのだからついでに済ませておこう、とアレクは考えた。使える情報があるかは分からないが、今後の為にも何もしないよりはマシだろう。念の為“聖女の噂”が広まっているかいないかも調べておきたい。




そう思い、アレクはルミナを置いて一人酒場へ向かおうとした。多くの人が集まるという事は、当然ながら善人ばかりではなくガラの悪い連中や、下品な奴らもいる。そんな所にルミナを連れて行きたくは無かった。



しかし、ルミナが「私も行く」と言うのなら仕方ない。いくら認識阻害マントがあるとはいえ、彼女1人を置いていくのも不安と言えば不安なのも事実。なら、嫌な光景は見せない様に立ち回ればいい。なるべく相手の機嫌をとり、手早く情報を集め、立ち去る。





脳内でシュミレーションをしながら、アレクは酒場への道を歩く。そして酒場に着くと、臆せず入店し、近くにいたウェイターに、この場にいる全員に酒を1杯ずつ奢るように声を掛ける。




酒を奢って貰った客たちは上機嫌にアレクへと話しかけてくる。アレクは彼らを上手く話に乗せて、情報を集めていく。



とはいえそれ程役立つ情報は得られない。無駄足だったか、とアレクが思った所で一人の男が盗賊の話をした。



「あぁそうだ。兄ちゃんがどこに向かうのかは知らねぇが、町を出て西の街道を行くんなら注意しな。あそこは最近盗賊の被害が多くてね。昨日だかもこの町に向かった商人が被害に遭ってね。荷馬車ごと盗られたって嘆いてたよ。



ま、命まではとらねぇみたいだし、ある程度金目もん置いてったら満足して五体満足で解放してくれるって話だから、盗賊にしちゃ良心的な方だけどな」




その話はアレクの興味を引いた。【王宮ラビリンス】戦闘チュートリアルという事を知っていた訳では勿論無い。ならば正義感からか?当然、違う。逃亡の邪魔になりそうだから?西の街道を通らずに進む事も可能なのでそれも違う。



彼の興味を引いたのは〝商人が襲われ、荷馬車を盗賊に奪われた〟事だ。





ルミナと逃亡をするにあたって、アレクは出来る限りの準備をした。しかしそれでも用意出来なかったものがある。それは、逃亡の際に必要な“足”。



アレクの計画では当面の目的地は彼が協力を要請する手紙を送ったお人好し達の一人が住む町__グライス。だが徒歩だとそこに着くまでそれなりの時間がかかる上に、ルミナに負担がかかる。村から馬車を持ち出す事も考えたが、貴重な馬車が無くなれば直ぐに騒ぎになってしまう。こっそりカバンに詰めるのは難しい。かといって逃亡の直前に乗っていけば、余計な物音を立ててしまい、気付かれる可能性が上がる。気配遮断や認識阻害は無機物には効果がない。




何より、馬にしろ馬車にしろ、村の貴重な資源を持ち出す事にルミナは良い顔をしないだろう。そこまで村の迷惑になる事はしたくない。ただでさえ、こうして逃げ出した事で多大な迷惑をかけているのだ。これ以上、村の不利益になる事を行うのは望まないだろう。



ルミナの気持ちも鑑みて、アレクは馬車を諦めた。だが快適は逃亡生活の為にも、どうにか道中で手に入れられないかと考えていたし、いくつかのアテがないわけでもなかった。

しかし、手に入るのなら早い方が良い。盗賊を片付けた駄賃として荷馬車の一つ頂いても構わないだろう。ルミナが気兼ねするのなら、件の商人と話をつけて荷馬車を譲り受ければ良い。



アレクは商人と盗賊の情報を入手し、酒場を後にした。認識阻害マントを身に付けたままのルミナは最後まで酒場の客に気付かれる事はなかった。ホッと息を吐く彼女に、アレクはなんて事ない様に言う。





「ルミナ、僕これからちょっと盗賊の所に行ってくるね」




その言葉を聞いたルミナは大層驚き、震えた声で尋ねる。



「な、なんで?西の街道通らなきゃ目的地には辿り着けないの…?」

「そんな事は無いけど…ちょっと盗賊の持ち物に興味があるだけだよ」

「持ち物…?いや、でも、ほらやっぱり危ないし、そんな危険を冒してまで行くほど価値のある物はないと思うよ……?」




必死にアレクを止めようとするルミナ。 


怖いのかな?それとも僕を心配してくれてる?どっちにしても可愛いなぁ。あまり見ない顔だ。ルミナはどんな表情をしてもその可愛さは変わらない。一分も翳る事はない。




実の所彼女は原作イベントに近付きたくないだけで、盗賊が怖い訳でもアレクを心配している訳でもないのだが、勿論そんな事アレクは知る由もない。「大丈夫だよ」と安心させる様に彼女の頭を撫でる。



「盗賊に勝てる見込みはあるから安心して」

「いや、アレクが強いのは知ってるけど…あんまり盗賊に近付きたくないっていうか……」

「僕1人で行くから大丈夫だよ」



元々そのつもりだった。ルミナに盗賊退治なんて危険な事させるつもりは微塵もない。ただ、それはそれで彼女としてはバツが悪い様で、申し訳なさそうに眉を下げる。



「1人でも勝てるから、安心して?」

「………じゃあ、せめて強化だけさせて。あと念の為、近くで待機してるから」

「うん、よろしく」




本当は聖女の力による強化なんて必要ないが、ルミナの厚意を無下にする筈ない。それに、強化魔法は彼女の魔力に包まれている様で心地が良い。ルースラの町への道中、試しに一度かけて貰ったらその心地良さも相まって魔法の効果以上に身体能力が強化された気がする。いや、絶対されていた。




心地よい魔力に包まれながら、アレクは盗賊が出る西の街道に向かった。


・・・・・


西の街道は周囲を林で囲まれている。街の付近はある程度の灯りもあり道も少しは整備されているものの、少し進めば人の手は入れられておらず、道も荒し夜は暗い。確かに盗賊が狩場にするのにも頷ける。



アレクは既に日も落ち、暗くなった西の街道を悠然と歩く。マントのフードをとり、認識阻害の効果を無くした上で、自身が持つ魔道具をこれ見よがしに身に付け、何も知らない箱入り息子の様な顔をして。


魔道具は装飾品として身に付けるタイプものを選んだ。知識があるか、鑑定スキルでもない限り一目見て魔道具だとは分からないが、ルミナのバフものったそれらはキラキラと輝き、一見かなり高価な装飾品に見える。



そんな物を身に付け、1人で歩く無垢な少年。盗賊が見逃すはずは無い。案の定、直ぐにアレクの周囲をいくつかの気配が囲った。




___4人。前後に2人ずつ移動した。逃げられないように街道の道を塞ぐつもりなのだろう。僕1人だけだから奇襲も仕掛けず、少人数で真正面から来るつもりなんだろうな。



相手は完全に油断している。いいカモが来たとしか思っていない。だけど好都合。油断している相手ほど御しやすい。




「よぉ、兄ちゃん、命が惜しけりゃ___」




下卑た笑みを浮かべながら余裕綽々といった様子で盗賊がアレクの前に現れた___のもつかの間、アレクは身に付けていたバングルを取り外し、盗賊に投げ付ける。一瞬にして大きくなったバングル_____もとい、拘束具は目の前に現れた2人の盗賊をまとめて捕らえる。




「……………は?」



背後から呆けた声がした。退路を塞ごうと後ろに現れた残りの2人だ。アレクは直ぐに彼らを同じ様にバングルを投げつけて捕らえる。出会って1分も経たないうちにお縄についた盗賊達は何が起きたのか理解出来ない。



アレクは呆けたままの盗賊達を重力魔法で地面に捩じ伏せた。「ふべっ!?」と汚い悲鳴を上げる彼らを見下ろし、静かに言った。




「さて……君達の根城に案内して貰うよ」



………盗賊4人はただ頷くことしか出来なかった。





盗賊達の案内に従い、アレクは林を進む。ルミナには街道で待機して貰っている。盗賊の根城に彼女を連れていくなど有り得ない。事前にその話をした時、ルミナはアレクの身をを心配していたが、何かあれば直ぐに魔法で狼煙を上げる、という事を条件に頷いた。




「……あの、あそこの洞窟がオレらの根城っす」



盗賊の1人が指差す方を見れば、確かに林を抜けた先に洞窟が見えた。意外と街道から距離が離れている。見つかりにくい筈だ、と思うと同時に疑問も生じる。



いくら慣れているとはいえ、ここから街道まで行き来するのには少し時間がかかる。街道で標的を見付けても、場合によっては仲間を更に呼ぶ必要があるだろう。伝令役を1人送って、残りが足止めするにしてもかなり迅速に動けなければいけない。鑑定スキルで見たところ確かに盗賊達はかなり素早いが……他に何か秘密があるのか。



まぁどんな隠し球があろうが今の僕には関係ない。ルミナにバフをかけてもらって絶好調だからね。



「案内ありがとう。じゃあね」

「え……」



アレクは盗賊4人に睡眠の魔法薬を浴びせかける。直ぐに深い眠りについた彼らを、風魔法を使って洞窟の前へ。

ドサッと音を立てて投げ捨てられた4人に気付いた仲間達が外に出てくるやいなや、倒れる4人を見付けて騒ぎ出す。



「敵か!?」

「オレらを捕らえに来た冒険者か!?」



慌てる男たちを鎮める様に、奥から1人の女が現れた。



「騒ぐんじゃァないよ、アンタ達」

「お頭!」



お頭と呼ばれた背の高い女は、倒れる4人の仲間達を見て、「ふーん」と呟いた。



「アタシらに手を出そうってバカが居るらしいねェ。まだ近くにいるはずだ。……来な、ペット達!!」



お頭が指を鳴らすと、洞窟の奥から、林の中から、空から、魔物が現れる。



なるほど、盗賊の頭がテイマーなのか。となれば迅速に街道へ移動出来るのも頷ける。魔物に乗っていけば人の足で走るより遥かに速い。

鑑定スキルで見た限りでも、テイマーとしてのレベルも高く、従える魔物もそれなりの強さだ。まともに相手をしたらかなり面倒な相手かもしれないね。




アレクは()()()()()冷静に相手の戦力を分析していた。



アレクは認識阻害マントに気配遮断の魔法、そしてそれらを強化する効果のある魔道具を身に付け、徹底的な隠密スタイルで既に洞窟内に潜り込んでいた。

そして索敵を魔物に任せた盗賊達が洞窟内へ入るやいなや、先程と同じ睡眠の魔法薬を今度は洞窟全体に撒き散らす。魔法薬を吸った盗賊達は、1人、また1人と倒れていく。



「ちょっと!!何が起こってンだい!?」



慌てたお頭が外に出ようとするが、時に既に遅し。突如襲った睡魔に打ち勝てず、呆気なく地面へ倒れ込んだ。




「__これで全員、かな」



ルミナによる“状態異常耐性”のバフ、そして自身の“睡眠系の状態異常耐性アップ”の魔道具の効果により1人魔法薬の効果を受けなかったアレクは、倒れる盗賊達を見回す。残すは今は索敵に出ているテイムされた魔物達である。



とはいえ、戻ってくるなり同じ様に眠らせてしまえば良いだけの話だ。倒しても良いが、戦闘の余波で荷馬車が修復不可能にまで壊れてしまってはたまらない。それを避ける為にわざわざ眠らせるなんて回りくどい事をやっているんだから。荷馬車がなきゃ根城に火の魔法を放って燃やして終わりなんだけど。



アレクは洞窟の奥で見つけた荷馬車の点検をしつつ、魔物が戻ってくるのを待った。

幸いにも積荷の中身こそ出されているものの、荷馬車自体は特に目立った損傷もない。これなら問題なく使えそうだ。



そうこうしている内に魔物が戻ってきた。意外と早かったが、もしかしたら主人に何かあったと察したのかもしれない。まぁなんにせよ好都合だ。

戻ってきた魔物達は未だ残る魔法薬の効果により、アレクが何かするまでもなく、主人と同じ様に深い眠りについた。それを確認すると、アレクは盗賊達と魔物をまとめて拘束する。

僕としてはこのまま放っておいても良いんだけど、ルミナが気にするのであれば町の憲兵に報告して捕縛して貰おう。魔法薬はかなり強力なものを選んだので、今から町に戻って憲兵を連れて来る時間は十分にある。





___こうして、西の街道を騒がせていた盗賊は、派手な戦闘もなく、いとも簡単に無力化された。

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