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第04話 使い魔のベルフィちゃん

 


 「よっと。転移終了! ここは……何処だ?」

 「此処は東の大陸で一番の大国のクラーク王国さ。まさか知らないで転移したのかい?」


 俺は盗んだ転移石を使って龍人から逃げるように転移した。

 転移先には兵士の様な格好をした人がいたので今いる場所を尋ねてみたんだが、どうやらクラーク王国とかいう場所に転移したらしい。


 視界にあった《スキル:逃走犯発動》の文字が消えているのと、近くに龍人がいないところを見るにどうやら逃げ切ったようだ。イベントクリアの音声が流れていない……もしかしてまだイベント中だと腕輪側に思われているのだろうか。俺か龍人が死んだときにそれを確認してイベントクリアですーとか言うパターンだったらそれで納得できるが……それは大丈夫なのか?少し不安だ。


 俺は美也と一緒にいたときの記憶を呼び覚ます。

 たしか……このイベント、神の試練をクリアしたら使徒になれますとか言ってたっけ?うーん、なんかそんな感じだったような……。

 

 俺は一度、ステータスを確認してみることにした。




□□□□□□□□□□□        


プレイヤー名:みきゅあ  


出身:第七世界《地球》

所属:


選択:職業制

職業:罪人 Lv3


能力値: 

 HP 200

 MP 45


STR 18

VIT 18

INT 15

DEX 12

AGI 23

LUK 12


BP:0


□□□□□□□□□□□





レベルが上がっていない……。

 やっぱり最後に逃げてしまったのがダメだったみたいだ。それに所属欄が空白になっているのはイベントをクリアしたわけではないから使徒になれていないということなのだろうか。

 

 神々の使徒になって戦おう!みたいなキャッチコピーだったGWOで使徒になれなかったとか。モン○ン買ってハンターになれないのと同じくらいありえない。ぶっちゃけありえない。


 

 というか良く見たら視界の上の方に《イベント:神の試練》って光る文字で書いてあった。これはまだイベントの途中ですよという証なのだろうか。

 

 うーん……龍人かあ。まあ、絶対に勝てない! なんてことはないと思うよ?俺のスキルのシステムアシストなら、殺人鬼で攻めて逃走犯で守れば。ただ、長期戦になってMPもHPも先に俺の方がなくなってしまうだろうけど。クールタイムの問題もでてくるだろうし。


 3秒間の発動でMPの20%を消費してしまうスキル:殺人鬼。

 逃走の補助一回につき数%のHPを消費してしまうスキル:逃走犯。


 例えば俺に圧倒的な火力があれば、15秒以内で龍人のHPを削りきるような武器があれば、勝てるだろう。でも、それはなんだかスキルに頼ってばっかりで卑怯な感じも射止めないし、なにより肝心の武器がない。ドッペルガンじゃあ倒せないだろうな。リザードマンの鱗すら貫通できなかったわけだし。


 となると……あれだな。ゲームにしても異世界にしても、ファンタジーな世界観ではまず、しなくてはいけない事柄の一つ。冒険者登録だ。冒険者となって金稼ぎ&腕磨きに勤しんでレベル上げまくって、その後で龍人に挑むのが一番理想的な展開であろう。きっとそうに決まっている。


 

 ここで何か秘策を考えて、機転を利かせて龍人を倒すなんてパターンもありっちゃありなんだが……できればAIGだけでも奴と同等にしておきたいんだよな。

 このGWOは攻撃力と防御力に圧倒的な差(防御系スキルや技の使用等)がない限りは一回の攻撃で最低でも1のダメージが与えられる系のゲームだから、ゴブリンのような自動回復機能がない限りは倒せないこともない。龍人は多分だけどSTR、INT、AGI特化の攻撃系だから防御スキルを持ってない……と思いたい。


 通常時の自然回復で押し切られる可能性も無きにしも非ずって感じだが、どうだろうか。

 リザードマンの時は一回で約5%前後くらい回復していた。イメージ的にはボスリザードマンの自然回復量は他と比べて多そうな気がする。龍人ともそんなに変わりはしないだろう。いや、変わるか?やっぱり事前情報だけでは良くわからないな……。

 まあ実際に対峙した時に勝てなさそうだと思ったら転移石って便利な逃走手段もあるし多分大丈夫だろう。



 俺は汚れた戦闘服から初期装備の服へ着替えた。

 防具を外した一般人スタイル。ナイフを有事の際に取り出せるようにアイテムボックスを視界の端の方に開きつつ、とりあえずは宿屋を探すことにした。


 

 なにをするにしても拠点というのは作っておいた方がいい気がする。幸い、所持金は少し多い。初期の段階で金貨1枚、銀貨10枚、銅貨100枚を貰えるようだった。昔のゲームは薬草数個分くらいしか貰えてなかったから、これは素直にありがたいと思う。


 街を歩きながら周りを見てみると、銅貨を使っての買い物をしている風景が目に映る。銀貨での取引には、商品の量が多いという特徴も発見。ということは、今の俺でも少なくとも宿屋に泊るくらいのお金は持っているということだな。


 

 俺は宿屋を探すためにミニマップを確認しながら歩いていた。

 恐らく宿屋のマークであろう建物に向かって進んでいく。途中で何回か「宿屋はどこですか」と聞いてみたけど同じような方角だったのでこれであっているだろう。






 しばらく歩いていると、割と大きめの宿屋についた。

 中に入ってみると、どうやら酒場付の宿屋のようで、奥に部屋がたくさんあるみたいだった。入口付近が酒場、奥が宿屋というファンタジー世界によくありそうな宿屋だ。



 店主らしきおじさんと会話をして、部屋を借りることに成功した。どうやら一泊銅貨20枚のようだ。食事は別で頼んでくれよと言っていたのでどうやら酒やつまみ類だけではなくご飯系の料理も食べられるらしい。……食べ物が食べられるゲームは多いいので、まだこの世界が異世界じゃない可能性も残っているな。うん。



 俺は銅貨20枚を払ってから、借りた鍵と同じ番号の部屋を発見した。

 部屋に入るとさきほどまで聞こえていた声やら音やらがぴたっとやんだ。店のおじさんが言っていたように部屋毎に防音の魔法が掛けてあるようだ。さすがファンタジー。


 俺は部屋に入ると、最初にトイレに。

 理由は簡単だ。食事はできるゲームは多くてもトイレをできるゲームは少ない。そして、"ナニ"をできるゲームはもっと少ない。というか聞いた事がない。俺はさっさとここが異世界なのかゲームの中なのかをはっきりとさせたかったのだ。





 それから30分ばかし検証を重ねた結果…………。この世界は異世界だという結論に至った。排泄全般及び嘔吐をできるゲームなんてまずないだろうし、ソロプレイもできてしまった…。心はすっきりしたが少し疲れたなあ。


 

 異世界かあ。漫画で読んでたけど、こうもすんなり異世界転移させられるとあんま実感がわかない。VRゲームに慣れてるからかもしれないな。きっと現実じゃない場所にいるっていう状況に対して耐性があるんだ。


 

 俺はベットに腰掛けるとステータス画面を開いてみた。すると、先ほどまではなかったスキルが追加されていた。あれ、レベルが上がったわけでもないのにスキルが増えている? スキルの入手は職業事に違うとはいえ、基本的にはレベルが上がるときに覚える系だと思ったんだが。他にもNPCに教えて貰うって手もあったが…別に教わってないしな。



□□□□□□□□□□□ 

スキル:

■罪人Lv3

・殺人鬼

・逃走犯

・窃盗犯

・悪魔召喚

・悪魔送還


■認識Lvmax

・認識

・誤認

・五感強化



技:

・隠形


□□□□□□□□□□□





 スキル:悪魔召喚。MPの消費はなし、HPの消費もなし。説明文には使い魔を召喚すると一言だけ書いてあった。


 

 悪魔を召喚するのか。使い魔って書いてあるけど、こういうのって高レベルの悪魔が出てきて「俺様を召喚したのはお前か! 食べてやる!」みたいな展開が予想できるが……試してみるか? 使い魔が俺に対して従順だった場合情報が少し手に入るかもしれないし。


 情報は大事だからな。初めてやるゲームの情報を事前に集めるのは一端のゲーマーとしての嗜みだと思って各情報サイト及び掲示板から色々と調べてはいたが、β時の情報との齟齬がはんぱないから。こんな死んだら魂劣化&地獄行きだとか知っていたらもう少しマシな"メンバー"でも集めたのに。


 

 例えば…DOCで国内ランキング1位の名前が若干呼びづらいあの人とか、それこそ母さんとか、アメリカとイギリスにいる数人のDOC友達とか。

 共通点はみんなゲーム廃人で命が係わろうが強敵と戦えればいいみたいな、しかも技術が半端ない。そんな基地外共だ。母さんも普段はお母さんしてるけどゲームとなると結構いかれてるし。




 使い魔の召喚……俺は立ち上がるとスキルを使った。





 《スキル:悪魔召喚発動》






 ベットの上に紫色の魔法陣が現れる…少し大きい。っていうか使い魔がすごいでかかったらどうしよう…それこそ部屋より大きかったりしたら俺って潰れるんじゃね?


 

 魔法陣から垂直に光が溢れる。ベットの上から天井にまで届いた光が部屋全体に広がるように光を放っていて……。それは幻想的で少し綺麗だったが、客観的に見て怪しさ抜群の光景だった。他人に見られたら即通報されるレベル。


 そして、光が収まって……ベットの上に座っていたのは黄金の長髪をストレートに垂らしていて、左目を髪で隠した目つきの鋭いヤンキーみたいな女だった。

 背丈は170㎝程だろうか…座っているから良くわからないが。目以外の顔のパーツは結構可愛いのに髪の毛と目つきがヤンキー度を上げている…。そのヤンキー女は若干気怠そうにこう言った。



 「どうもー、怠惰の使い魔ベルフェゴールのベルフィちゃんでーす。気軽にベルフィって読んでね」




 と言ってる途中にどんどん声が小さくなって最後の方は良く聞き取れなかった。五感強化で聴力が強化されている俺が聞き取れないのだから相当だ。なんかこの使い魔やる気ぜろなんですけど。怠惰の使い魔ってなんだよ。いきなりやる気ないですよ発言か。




 「俺の名前は『みきゅあ』だ。使い魔を持った事がなくてな。どういった事をしてくれるんだ?」


 「『みきゅあ』? 斉藤幹也でしょ。基本的に命じられればなんでもするわよー」





 あ? まてまてまて。この使い魔、俺の本名言い当てたぞ!? それもなんでもないように。というかここって異世界なんだよな。あ、ゲームじゃなくて異世界ってことはこの悪魔は本物の悪魔って事だ。簡単に呼んでしまったが、少し早計だったか。



 名前を言い当てられて焦ったもののどうせ召喚したならと、とりあえずは色々と聞いてみることにした。




 「なあ、お前って俺の使い魔なんだよな。俺の味方って認識でいいのか?」

 「そういうこと。あとお前じゃなくてベルフェゴール。もしくはベルフィちゃん。」


 「そうか。じゃあベルフェって呼ぶよ。ベルフェ、使い魔と召喚者の立場について教えてくれ。もちろん嘘、冗談抜きで」

 「そんなことも知らないで私を召喚したの? あきれちゃうわね。じゃあ教えてあげるわ、この"ゲーム"において私と幹也の立場は対等よ。普段は違うんだけど、このゲームにおいて私達は二人ともプレイヤー扱いなのよ」



 ん、なんか言い始めたぞ。いきなりキリキリと話始めたし。つーかベルフェの格好が黒いタイプの悪魔コスっていうか、エロいコスチュームなんだけどなぜか全然エロくなってない不思議。ああそうか、痩せてて肉付きが良くないんだ。貧乳だし。あと髪の毛切ればいいのに。



 「続けてくれ」

 

 「うん。私たち上級悪魔は普段は第四世界に住んでるんだけど、このゲームに参加できる第四世界の使徒は一人だけなんだよね。他の上級悪魔は他世界の使徒の使い魔としてゲームに参加して、その使徒のイベントの貢献度と同等の貢献度を第四世界のポイントに追加できるってわけ。ほら、第四世界の上級悪魔達は他の世界の使徒と比べて戦闘能力が掛け離れすぎているから、バランス調整されちゃったのよ」

 

 

 「まあ確かに、俺たち人間と悪魔じゃあ戦闘能力は違うだろうな。なるほど、バランス調整ね…」



 「だから私たちは対等。お互いイベントを頑張って進めなきゃいけないんだけど……幹也、あなたなんで神の試練のイベントが続行中になってるの?」



 「これか。いや、ちょっと勝てなさそうなボスに当たってな……ぶっちゃけ逃げてきた。転移して」

 「ええー…。これ、そのボスっての倒さないと神の試練終わらないわよ? まあ最初のイベントまでは一年間はあるはずだから、それまでに倒せばイベントには間に合うけど…………あれれ? いや、むしろその方が良い?」



なんだ。急に真面目なトーンになりはじめたぞ…。その見た目で真面目ぶるとむしろギャグだな。俺は続けてベルフェゴールの話を聞くことにした。



 「え、どういうこどだ?」

 「神の試練をクリアしていない幹也は今は使徒ではないでしょ、だから"使徒同士は互いが使徒であると認識する事ができる"っていうゲームのルールに引っかからないのよ。 だから少なくとも使徒に倒されるっていう一つの敗北条件を無視できるって事なの。イベント期間中以外は、使徒は自分の神様を優勝させるために他の使徒はできるだけ殺すってのがセオリーだから」



 「なるほどな…あえて使徒にならずにイベントぎりぎりまで待ってから龍人を倒すってことか…。」

 「……? え、龍人?」


 「お、なんだ知ってるのか。その倒せなかったボスモンスターってのが龍人って魔物なんだよ」

 「知ってるけど…龍人かあ。一年で龍人かあ。ねえ、知ってる? 龍種って、私たち上級悪魔の次に強い種族なのよ。純粋種じゃないとしてもかなり強いわよ? 人族の幹也じゃあ簡単には倒せないかも知れないわ。……仲間を集めるか、罪人のレベルを上げるか…せめて怠惰魔法が使えれば良い勝負に持ち込めるかもしれないわね」


 「ふーん……怠惰系スキルって?」

 「私が使える魔法の一つよ。相手の能力値を減少させるスキル。私の力は幹也も使えるはずだから、二人で重ねて発動させればかなりの能力値downが狙えるわね。他にもバットステータスにする類の魔法が多いわ」



 「そうなのか。それじゃあ俺はこれから自分のレベル上げと龍人に対応できそうな仲間を探せば良いって事か……。因みに、ベルフェは戦えたりするのか?」

 「戦えるけど…私が魔法を使うと幹也の魔力を使っちゃうから、幹也の最大魔力値が増えるまでは無理ね。私、肉弾戦ってできないし。攻撃系の魔法もあまり持ってないわ。後は戦うなんてめんどくさい事あまりしたくないし…。」




 さすがは怠惰の悪魔って事か。俺も対外めんどくさがり屋だが、ベルフェは段違いだな。さっきは座って話していたのに会話の途中からだんだんとベットに寝っころがりだして、今では枕を抱いて寝ながらしゃべってるし……。しかも段々と声が小さくなっていく…。そうか、いざって時以外は戦ってくれないのか。




 「となると、こういう風に呼び出すのも本当は迷惑とか?」

 「いやー、それは別に迷惑ってわけじゃないわ。むしろ大歓迎よ。使い魔は待機中はなにもない空間で待ってなきゃいけないし…でも外を出歩くのとかは嫌だわ。こういう風に部屋の中とか、ベットの上とかで呼び出すなら良いけど。うふふ、幹也も男の子だしね」



 うっふんとしなをつくりながらこっちを見てくるベルフェ。俺のタイプと全然違うしエロいコスが似合ってないのでピンともこない。さっき一人でしちゃったってのもあるけど、それを差し引いても……ないな。



 「じゃあそのうち呼んでやるよ。今から寝るからベット返して」

 「嫌。待機中は何もない空間にいなきゃいけないって言ったでしょ? ベットすらないのよ。私はここで寝るからー。あら、別に私は一緒に寝てもいいわよ?」



 やべえ、うざいなこの使い魔。銃で撃ってやろうか。いや、落ち着け幹也。こんなやつでも一応仲間なんだ。明日からベットが二つある部屋を取ればいい話だろ。



 「わかったよ。俺は床にでも寝て…………やっぱベットで寝たい。じゃあなベルフェ」

 「え?、まだ話終わってないよ?」



 俺は気付いたら増えていた二つ目のスキル、スキル:悪魔送還を発動。強制送還してやる。



 「明日はツインベットの部屋とるから今日は勘弁してくれ…眠いんだよ」




 ベルフェは俺の枕を抱えたまま何もない空間とやらに転送されていった。ベットの上に寝っころがって今日はもう寝るとこにする。おやすみー……。

 




 


 


ゲーム2日目。俺はベットから起き上がってから身支度を整えて、その後再度ベルフェゴールを呼ぶことにした。話は終わってないとか言っていたのが気になったのだ。




 《スキル:悪魔召喚発動》




 昨日と同じく紫色の魔法陣が光った後のベットの上には、枕を抱えたベルフェゴールが横たわっていた。どうやら眠っているようだ。俺は寝ているベルフェを叩いて起こすことにした。



 「んん…………あれ? 幹也。なによ……」




 と寝ぼけ眼で言ってくるベルフェ。こいつ……枕に抱きついていたせいか髪が寝癖ですごいことになってるな……。目を半分閉じているベルフェゴールは目つきの悪さが和らいでいて結構美人顔だった。



 「いや、昨日は話を中断しちゃったからな……起きれる?」

 「大丈夫よこのままで…。ええっと、どこまで話したかしら?」


 「俺とベルフェが二人ともプレイヤーで立場が対等って事と、第四世界の話。それと俺が一年間で龍人を倒せるようにならなくてはいけないって話だな。なあ、昨日も不思議に思っていたんだが、なんでベルフェはゲームについてこんなに詳しいんだ?」

 「なんで?って、前もって神様に教えて貰ったからよ。ルールの詳細も含めて…。私たち上級悪魔は個体数が少ないから一か所に集めての説明くらいはできるってことよ。」


 「そうなのか…それで、他に情報は?」

 「そうね……第七世界に限定された話だけど、一定期間毎に戦闘能力が数値化されて、ランキングとして発表されるみたいね。上位100名にはランダムに特典アイテム、更に上位10名にはそれに加えて特定の特典アイテムが支給されるって……私たちには関係の薄い話だろうけど。」


 「まあ一年でもぎりぎりって話だからな…。他には?」

 「じゃあ私たちは一蓮托生なんだし、お互いのゲーム終了後の報酬と罰についてでも話す? 私たち第四世界の上級悪魔達はイベントの最終順位が4位以下になってしまったら下級悪魔に降格されてしまうわ。4位以上のときは更なる力を与えようって感じだけどね。きっとそんな力貰えないと思うけど。」



 「へー。俺たち地球人は1位以外なら寿命を減らされて、尚且つ死後に地獄送りらしい。逆に1位になれば寿命の劣化を無しにして死後に天国に送られるらしいぞ」

 「地獄と天国ね…。それって第二世界と第三世界の事ね。私は第七世界までの事ならなんとなく知ってるわ。それも話す?」


 「一応。使徒の特徴とかか?」

 「ええ。第一世界は神々が住む世界ね。他の世界の管理をしているわ。ゲームを始めたのがこの世界の住人。

 第二世界は天界といって第七世界以下の住人が生前に徳を貯めていた場合に送られる世界ね。他にも天使とかいうのも住んでいるわ。天使の戦闘力はなかなか高いから注意が必要ね。

 第三世界は地獄といって生前に悪行を行った第七世界以下の住人と、他に鬼達が住んでいるわ。鬼たちの戦闘力も高いわね…というか人族は戦闘力が低すぎるのよ。」



 「悪かったな。俺からしたらお前らが怖すぎるんだが……」

 「ええー…こんなに可愛いのに? まあいいわ。第四世界は私たち上級悪魔の住む世界で第五世界が下級悪魔の住む世界ね。下級悪魔は惨めよ? 召喚されたら召喚者には絶対服従だから、どんなに最低な事をされても媚び諂わなければいけないし……なりたくはないものね。」

 

 「4位以内だろ。一番戦闘能力が高いんなら大丈夫なんじゃないか? 1位になるのは俺たちに譲ってほしいけどな」

 「私は下級悪魔にならなくて済むんならなんだっていいわ。話、続けるわね。

 第六世界は第七世界以下の世界で死んだ霊魂達が集まる霊界ね。徳もなく悪行もしていない者たちと、他には生前に結構強かった者とかが暮らしているって聞くわね。

 第七世界は幹也たちみたいな人族の世界。それ以下の世界もにたようなものよ。そして、ここがゲームを行う為に調整された十三番目の世界ね。


 「となると、ゲームに参加する世界は13個あっても、結局は2~12の11個の世界が争い合うのか?」

 「いいえ、この世界からも使徒は選ばれるから12の世界ね。」



 話を纏めると、世界の順番は神、天使、鬼、悪魔、悪魔、幽霊、人間って感じなのか。思ったより人外だった。人の住む世界って、地球だけなんだ。

 

 

 「なるほどなるほど……。他には何かあるか?」

 「うん。ええっと…昨日、私の空間にアイテムを持ちこめる事がわかったのよ。この枕なんだけど…。だから他にベットと布団とかが欲しいわ。それと、話す度に一々召喚されるのがめんどくさいから、幹也、少し良い?」




 そう言ってベツフェは俺に近づいてきて俺の頭をがしっと両手でつかんだ。ん、なんだ? そして、俺を捕まえたベルフェは俺にむかってキスをするように顔を近づけ始めた。ちょ、


 「おいおいおいおいおい! やめろ、気持ち悪いッ!」

 「ん、なによ気持ち悪いって。少し傷つくわ……」



 俺は手を使ってそれを防いだ。なんだこいつ? キスすると召喚しなくても話せるようになるとか?キスして能力が増えるとかそれなんてエロゲ?


 

 「わかったわよ。じゃあおでこでもいいわ。ほら、近づけて」

 


 そう言って熱を測るように俺とベルフェは額をくっつけた。すると、一瞬だけ魔力の光が輝いた気がした。



 「これで召喚状態じゃなくても話ができるようになったわ。念話って技術ね。」

 「これか……。消費HP、MP無し。使い魔とのみ念話が可能っと。」



 俺は技:念話を新たに覚えることができたらしい。ステータスの技欄に載ってはないみたいだけど、使い方はなんとなく理解できてしまった。

 これでいざって時はベルフェゴールに助けを求めたり意見を聞いたりできるって事だな。まあ、怠惰の悪魔のこいつが俺に協力してくれるかはこいつの気分しだいって感じだと思うが……こいつ、さっきっから段々声が小さくなってきているし。恐らく、そろそろだるくなってきたのだろう。




 「よし、じゃあ送還するぞ。それと、その枕はここに置いていけな。それ、宿のだし。あとでちゃんと買ってやるから」

 「じゃあ買う時になったら召喚してね。私だって選びたいし…お金は金貨が一枚、銀貨が十枚、銅貨が百枚あるから寝具くらいだったら買えるわね」



 「そうか、じゃあ起きてたり適当な話があったら念話しろな。俺もピンチだったり意見を聞きたい事があったりしたら遠慮なく念話させてもらうから。なんたって一蓮托生なんだろ、俺たちは」

 「わかったわ…。本当はゆっくり寝ながら過ごしていたいんだけどね」



 じゃあねーと言いながらベルフェゴールは帰って行った。よし、宿屋で朝食でを食べて、とりあえずは冒険者ギルドにでも言ってみるか。異世界なら多分あるだろ。冒険者ギルドのないファンタジー系の異世界なんて、天ぷらの無いそば屋みたいな者だからな。はあ、天そば食べたい。


 


 











 

 宿屋で謎の炒飯(銅貨三枚)を食べた俺は、一人街中を歩いていた。時々優しそうな人を見つけては「冒険者が集まる建物はどこですかー」と聞いたりしながら歩いていく。すぐに冒険者ギルドってテンプレ施設の存在を確認することもできたし、NPCっていうかここの人たち優しい事も理解できた。





 この世界がファンタジーな異世界だとしてもありそうな施設。冒険者ギルドだ。そこに登録すれば魔物を倒したときとかにお金がもらえると思うので、レベル上げと金稼ぎを両立できるというわけだな。スキル窃盗犯を使って金品を盗みまくってもいいのだが、人としてどうかと思うのでそれは最終手段にしておく。



 どうやらこの街はとても広いらしく、三つのギルドが存在しているらしい。どれくらい広いかというともう街って感じじゃなくて………いや街だった。つーか王国だった。うーん…なんて言ったらいいんだろう。まあとにかく大きかったんだ。



 さすがは異世界。やっぱ人間だけじゃなくて色んな種族の人がいるな。俺が今まで発見した有名な種族は獣人とドワーフ等だ。獣人はわかりやすい。色んな動物の耳やら尻尾やらが服からで出たりする。てか頭に被っているごついヘルムから耳だすってどうなの? そこの部分びた一文守れていないんですけど。


 

 ドワーフもかなりわかりやすい。背丈がちっちゃいんだ。俺も"多少"平均より背は小さいが、それでもドワーフと比べると大きい。130㎝くらい? やばいなこいつら。小さいおじさんやらおばさんを見ると違和感が酷い。ムキムキマッチョでびげがサンタか賢者かってくらいたくさん生えてるのに、小さい。小人だ。歩いてるのを見るとなんか人形が動いているみたいな違和感が………まあしょうがないか。


 ドワーフの子供にはそういった違和感は感じないんだが。なんだか可愛い。髪の量が多いのかな? てこてこ歩いている様子がとても可愛いらしい。でかいテーブルを片手で持ってるあたり子供でもSTR値がやばそうだけど。


 



 それで一番近いギルドがこの辺にあるらしいんだが…あ、あれかな。変な文字で冒険者ギルドって書いてある。文字も自動翻訳機能が働いているのか。

 VRゲームの中なら言葉だけはVR機器で自動的に翻訳して機械の声で同時翻訳みたいに話してくれるが文字は今のところは翻訳してくれないのだ。それと比べると文字も翻訳してくれる当たり結構優秀だな。


 

 俺は大きなドアを開けた。中は結構広いみたいだ。建物自体が縦にも横にもかなりの大きさだったからな、少なくとも三階建てくらいな気がする。中には人がたくさんいた。装備を付けている人、ギルドの人なのか制服を着ている人。街の住人らしき一般人の人。他にも色々な人々がそこにはたくさんいた。



 その中に、一際俺の目を奪う存在がいた。俺のすぐ目の前にいるその人はドアを片手に動きを止めた俺を「あれ、この人ドア開けたままどうしたのかな?」なんて目線で見ている。いや、そんなことはどうでもいい、その目の前の人は、人は…………エルフだった。


 え、エルフや。本物のエルフや! 身長は俺より高く175㎝程だろうか。細見でThe貧乳で、薄緑色の綺麗な髪を持っていて、耳がしゅっと横にとんがっている。

 その容姿は奇跡的な程整っていて、つまりすごい美女だった。クラスの姫宮なんて目じゃない程の美女。ベルフェの100倍美しい。そんなエルフの彼女は目に掛けた眼鏡の奥の、髪と同じような薄い緑色をした綺麗な瞳で俺の事を見ていた。


 

 





  やばい…こ れ は や ば い 。


 ……。少しだけでいい、みんな聞いてくれ。ここは異世界だ。つまり周りには知り合いなんて一人もいない。

 ので、今から俺は人としてアウトな行動をとってしまうかもしれないが…皆ならわかってくれるはずだ。エルフ。眼鏡美女のエルフ。テンプレ通りの貧乳のエルフちゃん。なあ同志諸君。おまえらだって俺と同じことをするはずだろう?


 俺はすたすたと彼女に近づくと……両腕を大きく開いて、力いっぱい抱きしめた。


 「あら?」

 「わあ!エルフや、エルフ!エルフエルフエルフちゃーん!」


 真正面から抱きついた俺は顔をぐりぐりさせながら声をだした。

 す…すごい!この人、見た目は細見で貧乳なはずなのにこの感触は……着やせするタイプなのだろうか、うぇやあああ、柔らけー! ん?くんかくんか。なんか香水の良い匂いもする!……腕輪さん、ここガチで異世界かもしれないよ。疑っていてごめんね! 異世界ばんざーい! エルフばんざーい!(錯乱中)


 

 そんな感じで抱きつきながら一人で悶える俺に、愛しのエルフちゃんは…………俺の精神を突くような、まさかの一言を告げた。






 

 「あら"御嬢さん"、冒険者ギルドに何か御用ですか?」







 

 …ん?え、御嬢さん? んんん? え? …………あ、まさかとは思いますが、お嬢さんって俺の事ですか? 俺は一応、念のために、聞いてみることにした。


 

 「御嬢さんって……僕の事ですか?」

 「ええ、ここは冒険者ギルドという場所ですよ。何か依頼したいことが御座いましたらあちらの受付の方へ行って下さいね」


 

 

 な…なんだと?まさかこのエルフさんセクハラかましてる俺に向かって、俺に向かって…

「別にあなたなんて男として見てませんよ。あなたみたいなお坊ちゃんは、ああチキンで玉無しの"御嬢さん"でしたね。玉無しチキンの御嬢さんはさっさとあちらの受付へ行って下さい(超笑顔)」……とでも言っているというのか!?




 

 ほほう、なるほど……これが異世界クオリティか。キツい一言だったぜ。正直、今にも泣きそうだ。

 精神ポイントに90%以上のダメージを受けた俺はエルフさんにむかってしょんぼりと「どうもすいません」と一言謝罪を告げると、とぼとぼ受付に向かって歩き出した。

 やべえ、怖ええよこの世界。キャーとか言われたら走って逃げるつもりだったが、まさかの玉無し扱いとか…。



 「なんだこいつ?」「この犯罪者(セクハラやろう)め」といった感じだろうか。嫌な視線を周りから受けながら、俺は受付の方へ向かって歩いて行く。うう…初エルフに感動してテンションおかしくなりすぎた。


 落ち着けよ、落ち着けよ俺。お前は状況を冷静に確認して最善策を考える事が生き残る上で一番大切だってさんざんゲームで学んできただろう? DOC歴何年だと思ってるんだ。こちとらVR版発売当初からやりこんでるんだぞ。冷静になる事くらい朝飯前だ。今までにもっと恥ずかしい思いだってしてきたはずだろうがよ。びークール、びークール……ああ、でも恥ずかしい。3分前の俺を叱りたい。


 

 でもエルフちゃん可愛かったなーと思いながら冒険者ギルドの受付まで歩く。受付は四ヵ所あった。うち三ヵ所には人が列をなして人が並んでいる。皆美人の受付員が対応しているので、恐らく彼女達目当てなのだろう。


 ただ、一か所だけはダンディなおじさんが受付をしている。そこには誰ひとりとして並んでいる者がおらず、となりの行列を横目でどこか寂しそうに眺めているおじさんが一人佇んでいた。その姿はどこか哀愁が漂っていて…なんか寂しそうだった。


 ……。俺はおじさんがいる受付に向かって歩いて行く。これは決して同情ではない。初めて見たエルフにテンションがおかしくなった俺よりも、いや、それ以上にどこか寂しそうな彼に妙な仲間意識を感じてしまったのだ。いや、本当に。

 だって他の受付は結構な列作ってるんだぜ? なのにおじさんとこだけ誰もいないの。男の人も女の人も他の三人の列に並んでいてさ。



 おじさんは歩いてくる俺に気付くと少し目を見開いて、すぐに別になんとも思ってませんよといったような風に装う。俺は彼の元へ歩いて行く。そして冒険者登録をしたいという旨を話すことにした。


 「すまない、冒険者になりたいのだが」



 俺はできるだけ声を低くしてそう言う。これは俺の癖でもあるのだが、声変わりをしていない俺は妙に声が高い。なので以前に地声の高さを周りに指摘され……いや、馬鹿にされて以来、俺は声を低くして話す事が習慣になってしまっているのだ。これがいがいと大変なんだよ。せっかくキャラクター登録の設定で声をいい感じに低く設定したのに元の声に戻ってるんだもん。



 「はい、ではこちらの書類に名前と得意な武器、それから血を数滴ばかしこの場所へ垂らして下さい。」



 受付のおじさんはそう言いながら緑色に縁どられた紙を取り出す。名前か…キャラクターネームで良いのだろう。俺は「みきゅあ」と書いてその下に短剣と書き込む。ドッペルガンはMPを多く消費するので気安く使う事は難しいだろうと考えたうえで短剣とだけ書いてみた。


 それから血か…俺は短剣を使い手に切れ込みを入れる。HPが少し減って、血を紙に垂らす。つか宿屋で寝たのにHP回復してねえ。自然回復どこいった。回復しないと死んじゃうよ。俺は残り15%程になってしまった簡易ステータスのHPバーを眺めながらそう思った。


 これは後から知ったんだが、どうやらイベントでの戦闘中はプレイヤーに限りHPの自然回復がしなくなってしまう仕様のようなのだ。なので俺は食事による微回復や、魔法や薬による体力の回復を行わないと待とうが寝ようが使徒にならない限りはHPが自然回復しないって事だな。



 「それでは此方のカードが冒険者としての身分を証明する物となります。再発行の際には銀貨が5枚程必要となりますので注意して下さい。」



 お、できたできた。冒険者カード! 何やら丈夫そうだな。その後は冒険者として必要な知識をおじさんにあらかた教えてもらった。結構親切なおじさんだったよ。人も並んでこないから変な遠慮もいらなかったし。



 「これで冒険者登録を終了いたします。みきゅあ様の冒険者ランクはGランクとなります。ですが、魔物の討伐を専門とする冒険者になる場合のみランク認定試験を受けることで初期ランクを上げる事ができますが、「受けます!」…わかりました」


 「それでは冒険者登録込みで銀貨10枚となります」



 俺はランクを上げるための試験と冒険者登録で所持金の銀貨を全てを失ってしまった。残りは金貨一枚と銅貨77枚です。どうやら、最後の手段のスキル:窃盗犯の使用は思ったより早くなりそうだな。



 

 「ではこちらの書類を、あちらから入った奥に訓練場が御座いますので、そこにいる職員にお渡しください」



 おじさんにそう言われて、俺は冒険者のランク上昇試験を受けるために訓練場とやらに向かって歩き出した。因みに後ろをちらっと見てみた所、おじさんの受付に人が続いてる様子はなかった。……あとで少し寄ってやろうか。






 

 

 

 

 



 冒険者ギルドの奥の方へ歩いて行くと、かなり大きな訓練場といったような場所へ続いていた。すごいな、大きい建物だとは思っていたけどここまで大きいとは。やっぱりあれだろうか、魔法を使って見た目よりも大きな内装になっているとかそういうパターンだろうか。それとも単純に大きいだけなのか。



 その訓練場には真ん中に人が一人立っているだけで他には誰も見当たらなかった。ということは、あの人が試験官?…………。あれれー? どこかで見たことがあるぞー?



 訓練場に立っていたのは……先ほど俺はセクハラをかました可愛らしいエルフちゃんだった。





 「あらら? もしかして、お嬢さんは初期ランク認定試験を受けに来たのですか?」

 「…はい、よろしくおねがいします」




 く、またもや玉無し扱いとは…。というかこのエルフちゃんは試験官として俺と戦うんだよね?さっきおじさんはそう言っていたし。

 なんでもランクの高い元冒険者のギルド員と戦い、新米冒険者の戦闘力を考慮しつつ初期ランクを決めるのだとか。最低でGランク。最高でBランクになることができるらしい。特例はなくどんなに高い戦闘力をもっていたとしてもBランクがスタート時の最高ランクなのだとか。



 俺はできるだけ早く装備やらなんやらをそろえたいので初期のランクが高い事に不満なんかなく、目指すはBランクだ!とか思っていたわけだけれど、…このエルフちゃん強いのか。エルフって種族は魔法が得意だってのがまあ俺たちゲーマーの常識の一つなわけだけれど。



 

 「試験内容な至って簡単です。今から私と戦って貰います。最初にこちらの指輪を付けてください。この指輪を装備していれば"命に関わるような攻撃"が一切できなくなりますから、ですので全力で私に挑んで下さいね」





 にこーっと微笑みながらどう言うエルフちゃん。こういった余裕を持つあたり、実は高齢ですこぶる強いってのがお決まりだ。エルフと人間とは寿命がダンチだからな。となると、俺も本気で戦わなくてはならない。



 だが、今の俺は残りHPが15%、MPに至っては宿屋で銃弾を装填してきたので、殆ど残っていない。できれば回復してほしいんだけど…ためしに言ってみようかな。



 「ちょっといいですか? 僕のHPとMPがもう全然残っていなくて、できれば先に回復とかしたいんですけどー」

 「MP?あ、魔力の事ですか? でしたら、○×△□~~ごにょごにょ。はい、これで大丈夫ですよ」



 エルフちゃんがなにやら呪文のようなものをごにょごにょと唱えると、俺の真下に濃い藍色の魔法陣が現れて、そこから緑色の光が溢れだし俺を包んでいった。


 すると俺のHPとMPがみるみる回復していく。おお、これって多分上位の回復魔法かなんかだ。HPだけじゃなくてMPも回復となるとスキル制か職業制の上位スキルでしか覚えられないやつだった気がする。



 その光が消えると俺のHPは半分くらいまで、MPは全て回復していた。便利だなー。こういう僧侶系の人がパーティーに居ればスキルとか使い放題なのか。んー…ゲーム始める前はぼっちスタイルで貫こうかと思ってたけど…負ければ地獄問題かあ。ベルフェは仲間つくれやみたな事言ってたし。パーティー組もっかな。超迷う。



 

 「これで魔力も回復しましたね。では、ランク認定試験を始めます。試験官の私、リライン・スカーラ・フォン・リラナルテがお相手致します。よろしくお願いします」

 「了解です。じゃあ行きます!」




 エルフの…あれ?名前長すぎて…なんて言ってたっけ?なんとか…リラナルテ?リラナルテさんはなんの武器も持たずに一人優雅に佇んでいる。攻撃していいんだよね?


 俺はリラナルテさんに向かって走っていく。俺の中では彼女は超上級冒険者という事になっているので最初から全力で戦う事に決めた。システムアシストチートも自重しない。だって「あ、あいつだぜ。冒険者なり立てで行き成りBランクになったにゅーびー」とか言われたいし。優秀な仲間を捕まえる時とかにこういった噂なんかは案外便利なもんなんだ(アニメ漫画知識)。



 アイテムボックスを視界の端の方で開きつつリラナルテさんに近づいた俺は腕を大きく振り、急に体を回転させるようにしながら短剣を取り出し、全力で斬り付けた。

 え、エルフの女の人をナイフで斬るなって? いやいや、こういうのは変に遠慮すると逆にボコられるパターンがあるんだよ。 それにここは冒険者ギルド。一流の回復魔法使いくらいいくらでもいるだろ。


 俺のそんな心配?を無視するように、斬りかかっていた俺の視界からいきなりリラナルテさんが消える。またこれか。おそらく俺のAGI値が足りなくて彼女の速さに追いつけていないんだろう。龍人といいリラナルテさんといい、皆AGI値高すぎなんだよ。


 俺はすぐにスキル:逃走犯を発動させる。俺のHPが少しだけ減って"リラナルテさんの攻撃"から体が勝手に逃げる。というか避けた。

 斬りかかった俺はそのまま勢いよくしゃがみこんだ。その頭のすぐ上を物凄い轟音(爆音みたいな)と共に恐らくリラナルテさんの足であろう何かが通り抜ける。


 やべえ…リラナルテさんって実は武闘家タイプ?回復魔法使ってたから魔術師タイプかと思ってた。あのAGIとSTRはもうあれだな。一撃で俺死ぬな。


 俺はすぐにスキル:殺人鬼を発動させる。もう少しステータスが高かったなら自らの力で戦うんだが、さすがにこのステータス差はどうにもならないからと言い訳をしつつ発動。



 俺の体が勝手に動く。アイテムボックスに即座に短剣を仕舞うとドッペルガンを二丁取り出した。

 それを両手に構えながら体を素早く転がすように動いてリラナルテさんから距離をとる。一秒未満でその動きを終えるあたりスキル:殺人鬼発動中の俺は軒並みステータス値が底上げされているようだった。さすがチート級のシステムアシスト。



 俺の真上を蹴りぬいたままの姿勢で動きを止めているリラナルテさん。彼女の両足からは橙色に輝く炎のような物が纏わりついていた。あれは…身体強化の魔力?


 

 俺の体は二丁のドッペルガンを構えながらリラナルテさんに銃口を段々と合わせる。次の瞬間、俺の手の中のドッペルガンが急にぐねぐねと動き出しながら、銃の形状を、形を変え始めた。え、何その機能?



 気が付くと俺の手の中には二丁の機関拳銃があった。見覚えがある。よくDOCで使っていた銃だ。俺の体はそのまま引き金を引いて二丁合わせて計60発以上の弾丸を嵐を彼女に向かってばら撒き始めた。



 パラララララッ! と乾いた音と共に吐き出される銃弾を俺の攻撃と認識したリラナルテさんはまたもや俺の視界から一瞬で消えた。

 だがその速さにも対応していたスキル:殺人鬼は銃弾を撃ちつづけながら体を斜め後ろ向きに変える。これでスキルを発動させてから約3秒。俺のMPは残り80%程となっていた。



 

 「なッ!」




 リラナルテさんが悲鳴をのように声を上げる。どうやら瞬間移動は連続性に欠けるらしい。ドッペルガンの銃弾がリラナルテさんの足に何発か命中して……その足から鮮血が噴出した。ああ、思ったよりグロい!ごめんなさい!


 

 MP残量が気になってスキルの発動が中断さした。俺は少し格好をつけながら、銃口を向けつつ足から血を流す彼女に近づいた。





 「ええーっと……まだやります?」

 「…………。"上等です"」




え? リラナルテさんがそう呟いた直後に彼女の全身から藍色の魔力が溢れだして、足の傷を一瞬で回復させた。ゴブリンの時のように足に埋め込まれた弾丸がぽろぽろと出てきて…完全に回復したようだった。やばいな、本気モード来たかもしれない。てか口調が変わってる!?







 







 私の目の前のお嬢さんは両手に飛び道具を構えながら私にこう告げました。「ええーっと……まだやります?」と。それは私にとって、とても屈辱でした。

 いくら全身に着けている呪具によって強制的に戦闘力をD級冒険者相当まで落とされているとしても、元A級冒険者の私がこんな新米のお嬢さんにここまでコケにされるなんて。



 私の戦闘スタイルは、膨大な魔力を四肢に纏わせることによって身体能力を上昇させて、相手を圧倒するのというのが基本なんですが、彼女はその速さに対応してきました。

 恐らくは新米と言ってもそれなりの戦闘経験を既に積んでいるのでしょう。私の蹴りを避けてから攻撃体制に移るまでわずか1.2秒。この時点で彼女の冒険者のランクはGからE又はF相当に上げてあげても良いかもしれません。



 そして手に持つ武器。それは弓や魔法よりも取り回しが効くようで、更にそれなりの攻撃性も持ち合わせているようでした。少なくとも、硬化の魔力を纏わせる以前の私の皮膚を貫通できる程度には。



 でも、もう油断はできません。そもそも新米冒険者の初期ランク認定試験といったものは、ランク認定なんて言葉は建前で、"思い上がったクソガキ共を叩き止めし更なる向上を促す"というのがギルド側の目的です。

 かくいう私も最初の蹴りで一撃で仕留めて、「あなたは冒険者としてはこの程度なのです。これからは慢心せず一生懸命に精進して下さい」と教えてあげる予定でした。



 しかし、彼女は思ったよりできるようですね。私の蹴りを躱した時と、私の移動術を完全に見切っていたその動きはなかなかのものでした。そうですね、ランクDにしてあげてもいいかもしれません。

 しかし、もう油断はしません。私は全身から藍色に光る硬化の魔力を出します。これでもう彼女の攻撃は私に対して効果の無いものになりました。



 傷の回復も確認した私は彼女を圧倒するために動き出します。藍色の魔力に加えて橙色、緑色の三つの魔力を全身に纏います。

 呪具さえなければ他にも数十種の魔力を纏えるのですが、戦闘力Dランク相当ではこれが限界のようです。攻撃性を上昇する橙色の魔力、防御力を上昇させる藍色の魔力、体を常に最高の状態へもっていくための、回復力上昇の緑色の魔力。この三種でも、この新米のお嬢さん相手なら十二分過ぎる力です。



 私は真正面から近づいて四肢をフル活用して攻撃を繰り出しました。牽制のジャブから本命の右足での蹴り。彼女はその両方を回避しましたが、続いて足の裏から放出した炎属性と闇属性の二つの属性を持つ、混合魔法死炎(デットブラスト)を回避することはできなかったようで、赤黒い魔力を全身に浴びた彼女は倒れてしまいました…。


 指輪の御蔭で命はあるようですが、かなりの重傷なはずです。私は上級の回復魔法を使えるので、一言つげてから使って差し上げましょう。




 しかし、次の瞬間、彼女の手元から紫色の魔力が溢れて…………巨大な魔法陣が現れ、その魔法陣からは黒色の服に身を包んだ女性が現れました。



 「このエルフを倒せばいいのね。幹也……残りMP36じゃ私の魔法なに一つ使えないじゃない。まったく、肉弾戦は苦手だって言ったのに……。」

 


 そんな事を言いながら彼女は私に対して敵意を向け始めました。私は急に現れた女性に尋ねます。



 「あなたは何者ですか……」

 「私? この子の使い魔よ。この子に変わってあなたの相手をするわ」




 そう言って私に向かってかなりの速さで近づいてくる使い魔の女性。私は彼女の攻撃を回避しようと思いましたが…予想外に攻撃スピードが速く、両手から繰り出されたその攻撃を、避けそこなってしまいました。


 私の硬化魔力を抜ける程の力を持つ彼女を使い魔に持つこのお嬢さんはいったい何者なのでしょう。

 いずれにせよ、このお嬢さんの初期ランクはDに決定ですね。本人の力で私を圧倒できればランクCでしたが、私の攻撃を回避した動きと初めの短剣を持っていた時の動きに差がありすぎます。その戦闘力のぶれ幅を抑えることができればランクCでもよかったのですが…。




 



 私と使い魔の女性はその後、数分間にわたって戦いを繰り広げましたが…傷つくたびに回復する私に呆れたのか、戦うのをやめてしまったその使い魔は主人であるお嬢さんの回復を私に求めてきました。私は回復魔法を唱えてから、お嬢さんの初期ランクがDランクであることを告げて、その場を後にしました。


 

 面白い、とても面白いです。こういった特別な雰囲気を持つ新米冒険者が現れるのは昨日に続いて今日で二度目です。こんな偶然がありえるのでしょうか。

 彼は私に対して魔法も何も使わず只管格闘戦を仕掛けてきて、評価Cランクを持っていきました。このお嬢さんは遠距離火力があるようなので、彼とパーティーを組ませるのが良いかもしれません。



 私は陰の受付員のフラッド・クレイヤさんにその旨を告げてから私室に向かって歩き出しました。














 「悪いなベルフェ、非常事態だったんだ。」

 「別にいいわよ。んじゃあこの寝具セット買ってね♪」



 俺はベルフェに金貨二枚相当の寝具セットを買ってやった。金貨二枚…俺の調べた感じでは銅貨一枚で100円、銀貨一枚で5000円、金貨一枚で500,000万円のようなので、百万円相当の寝具って事だな。超絶高級品だ。枕が複数ついていたので、枕だけは一つ俺用に貰える事になったが。おお、やばい、すごい寝心地よさそう。


 リラナルテさんにボコられた俺は、今際の際にベルフェゴールを召喚した。初期ランクを少しでも上げて、これからの行動を有利に進めたかったのだ。その結果、苦手だとぼやいていたものの素様しいクオリティの近接戦闘をリラナルテさんとベルフェは繰り広げた。



 DOCと剛拳で戦闘経験を積んだとしても、あのレベルには戦えないだろう。元一流冒険者と上級悪魔。一年であのレベルまで戦闘能力を上げなければいけないと考えると頭が痛い……が、俺もゲーマーだ。燃えてくる物もある。


 ベルフェの御蔭だろうか、俺は初期ランクをDにしてもらえた。ランクD。この世界での冒険者ランクについて調べた結果、ランクDというのは一般的に考えて"一流の冒険者"といった認識だという結論に至った。つまりはこういうことだ。



 ・G級冒険者:新米冒険者。素人の集まり。死亡率が高い。

 ・F級冒険者:新米を抜けたレベル。G級で数か月程生き残る事ができればなれる。人外の生き物とまともに戦えるレベル。

 ・E級冒険者:殆どの冒険者がこのランク。数年から数十年かければ一般人でも成れる。最も割合の多いランク。

 ・D級冒険者:一流の冒険者。これ以上のランクになるためには才能が必要なレベル。一般人の限界地点。

 ・C級冒険者:超一流の冒険者:才能や経験、運が必要。強靭な魔物とタイマンを張れるレベル。

 ・B級冒険者:超一流の冒険者を纏められるリーダー格。天才クラスの才能を持つ事が大前提のレベル。天才の限界地点。

 ・A級冒険者:英雄クラス。一人いればB級以下の冒険者に対して相手の数に関係なく圧倒して戦えるレベル。天才以上の才能か圧倒的な能力か何かが必要となるレベル。

 ・S級冒険者:天災として考えられている。英雄視よいうよりは畏怖されていて基本的に化け物扱いらしい。目を合わせると殺される。話しかけると殺される。機嫌を損ねると殺される等々。



 

 といった感じだ。

 ただ、A級以上の冒険者は殆ど存在していないらしい。この国では歴史的に見ても極僅かしかいないみたいだ。この本の数ページで名前が埋まる程度。千人いるかどうか……。

 希少だったんだろうな。恐らく、使徒連中のせいで今後数だけは増えると思うが。



 俺のランクはD。D級冒険者だ。一流冒険者として扱われ、この道の才能ありと判断されるレベル。

 まあ、神様による成長制度によって身体能力が上昇、及びスキルや技が使えるなんて力だけでも、他の一般人と比べて十分チートだ。この世界の住人にはレベルなんてものは存在せず、地球人のアスリート達のように日々の訓練から戦闘能力を上昇させるからだ。異世界補正で元々がかなり人外だけど……。



 そうなると、少なくとも数千万単位で召喚されたであろう11の世界の使徒たちによってD級以上の冒険者の数が爆発的に上昇することだろう。

 いや、きっと使徒同士での殺し合いを警戒して冒険者に成らない者も多いいとは思うが………あの後ベルフェから聞いた話の中に、一年に一度のイベントの最中は"使徒同士は互いにダメージを与える事ができない"というルールが設定されるらしいから、イベントでの殺し合いは起こらないらしいが、それまでの期間ならそういった事も頻繁にありえるだろう。



 




 俺はベルフェに寝具を買ってあげてから宿屋に戻った。明日からは冒険者生活の始まりだ。残金は銅貨がたくさん。だけだ。宿代+ご飯代で一日に最低でも銅貨30枚以上が必要なので、あと猶予はたった二日しかない。スキル:窃盗犯はできるだけ使いたくないから、これからは慎重に行動をしなければいけないな。窃盗犯のスキルといっても、効果自体が只の泥棒以外の何者でもないからな。異世界で泥棒するのは、ちょっと違う気がする。




 その後、宿屋のおじさんと少し話して、部屋を二日間かりるために銅貨を40枚払い、昼食を食べた。部屋に戻った後はベルフェとの念話でこれからの生活の方針を決めていたのだが…………。夕方くらいに宿屋のおじさんからノックがあった。どうやら、俺を訪ねてきている冒険者がいるようだ。はて、一体誰なのだろうか。もしかして、美也とかか? それとも、明日香か姫宮か?





 

 酒場まで歩いて行く。一応、何があるかわからないため、アイテムボックスにはハンドガン状にしたドッペルガンと、アサルトライフル状にしたドッペルガンをいつでも取り出せるようにしておく。


 このドッペルガン。本家ドッペルゲンガーの如くその形状を変化させる事ができるのだ。複雑にすればするほど装填の際の消費MPが上昇してしまうが、重機関銃にすらその形を変えることができるようで、あんなチュートリアルにしては破格の報酬だと思った。いや、神様は自分の陣営に勝ってもらいたいんだから、その選別扱いなのだろう。




 酒場に着く。そこで俺を待っていたのは……一人の獣人だった。

 いや、ハーフの獣人なのだろう。人族の見た目から獣耳と尻尾だけが生えている青年だった。歳は高校生くらいといった感じだろうか。180㎝程の長身で、なかなかのイケメンだ。イケメン……ムカつくな。



 

 「!?………お前が、いや、あなたがD級冒険者の『みきゅあ』っすか」

 「ああ、そうだ。お前は何者だ?」


 「俺はアレン・ウルスダッツという名前っす。昨日冒険者になったばっかで、C級冒険者っす」

 「そうか。で、アレン。お前は俺に何の用があって呼び出したんだ?」


 「はいっす。受付のおじさんに、リラインさんからの伝言で「『みきゅあ』さんとパーティーを組みなさい」って言われたっす。俺は接近戦専門なんで、遠距離タイプのミキュアさんとは相性が良いって」




 

 はて、リラインさんとは誰の事だろうか…ともかく、受付のおじさんが言ったのか。昨日冒険者になってC級という事は、こいつは少なくとも強靭な魔物とタイマン張れるような奴なのだろう。リザードマンとかと。あの斧のおじさんと同じくらいって事だろうか。



 「そうか……わかった。だが、パーティーを組むのは互いに素性をしってからだ。明日、依頼を受けようと俺は思っている。その前に訓練場で互いの戦闘スタイル及び戦闘能力の確認、それからの依頼で相性の確認だ」

 「相性!? りょ、了解っす。明日の朝、冒険者ギルドで待ち合わせでいいっすね!」


 「ああ。それじゃそういうことで。よろしくな」

 「はいっす。それじゃあ失礼するっす!」




 そう言ってハーフ獣人のアレンは立ち去って行った。俺は部屋に戻るとベルフェにその旨を告げる。


 「わかったわ。でも一応気を付けてね。そのアレンって子がどういう子かわからない状況で気を抜かないようにね」

 「ああ。ベルフェに気を抜かないとか言われると、なんかムカつくな。」


 「ちょっと、なによそれー。明日の訓練場と依頼の時は私の事は秘密にしておきなさいよ。それでいざって時に召喚しなさい。」

 「わかってるさ。手札はそうそう晒さないよ。リラナルテさんの時は初期ランクを上げるための例外だ。本人も俺の戦闘方法は秘密にしてくれるって言ってたし。遠距離タイプってくらいなら大丈夫だろう。使うのは短剣と銃だけだ。見てわかるようなスキルとベルフェの召喚はなるべく使わないよ」






 そんな話を夜まで続けて、酒場で夕食を食べてから眠った。

 

 こうして、俺の冒険者生活が始まったんだ。









プロローグ終了



 

 


 







 

  

美也「むむむ、お兄ちゃんの貞操に危険が!

 お兄ちゃんは見た目が天使なので、いつも"変なの"に好かれます。私はお兄ちゃんをストーカーした変態男共を四人程病院送りにしたことがありまして、お兄ちゃんには私が襲われそうになったから撃退したと伝えてありますが……まったく、少しは自分の容姿を自覚してほしいです」




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