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第03話 イベント"神の試練"

 


 

 光でいっぱいだった視界が段々と鮮明さを取り戻していく。

 ここは……どこかの平原みたいだ。周りを見てみるが、一面草しかない。本物の、草原。


 すげえな。

 こんなあたり一面全てが草原な平原のフィールドなんてDOCにもなかったぞ。草の一つ一つが妙にリアルだし。


 体は……別になんともないか。特にどうといった違和感もなく異世界へと転移させられてしまったらしい。

 まあ、異世界なんて嘘っぱちで単なるマップ移動説の可能性が大幅に上昇したってことだな。


 それにしても、今更だけどログアウト機能とか見当たらないのな。俺が読んだ漫画だと、ふっふっふクリアするまでログアウトさせてあげないもんねーなんてのが一種のパターンとしてあるんだが、戻りたきゃ一回死ねっつーことか。

 地獄に送るぞとか小学生じゃねえんだからさ、そういう設定なら普通に負けたら死ぬとかでよかったのにな。いや、別に死にたいわけじゃないけど……。


 さて、ここでボスモンスターと戦うんだっけな。移動していきなり戦闘じゃないみたいだし、恐らくは準備しろよってことなんだろう。


 俺はもう一度、すべての装備を確認した。


 

 まずは美也に作ってもらった緑巨人のナイフ。

 程よいサイズ感で使いやすく、切れ味も黒い魔物の首を貫通できる程度には持っている。


 次はドッペルガンという名前のハンドガンとサブマシンガン。

 ドッペルってドッペルゲンガーのことか? さっきのあいつらってドッペルゲンガーだったのか。ふーん、なるほど、だから俺の敵が戦闘服着てて美也の敵が格闘術使ってたのか。俺達の戦闘技術をマネたってことだな。納得納得……あれ、なぜ俺たちの戦闘技術を知ってた?


 あ、でもさ、二つとも同じ名前だよこの武器。アイテムボックス欄から急いで取り出すときとかに間違えそうで怖い。木の盾の上にハンドガン、下にサブマシンガンを入れとこっと。


 最後に戦闘服。

 ドッペル戦闘服って名前から推測するに、あいつらの装備には最初にドッペルの文字が入るのだろうか。

 戦闘服はグレーやら白やらが色々と混ざって迷彩服になっている。おいおい、なんで平原で雪上迷彩なんだよ。むしろ目立つわ。

 これから真っ黒な頭と手が出ていたあいつらは気味が悪かったが……俺が着ても変じゃないよな? 美也は何にも言ってくれなかったけど。


 FPS装備の奴からのドロップ品だからか、段々とそれっぽい装備になってきた気がする。


 地獄の件が仮に本当だとすれば、これからはガチで戦わなくてはいけないから銃と戦闘服はありがたいっちゃありがたいが……俺はファンタジーするためにこのゲーム買ったんだけどなあ。銃って、雪上迷彩って。


 他のアイテムはすべて美也にあげてしまった。鍛冶スキルやら錬金スキルやらをとっている美也なら有効に使ってくれると思うが……。あいつだって格ゲーマニアなんだ。半端な知識からWikiを半分くらいは見ているのだろう。よってGWOの基礎くらい知っているはずだが……ヘイトは知らなかったらしい。基礎すぎて書いていなかったのか。だとすると少しまずいかもしれないのか?


 んー……まあ大丈夫か。俺より戦闘能力高いんだし。俺なんて武器がなかったらボコボコにされるもんな。

 前にあいつが「一緒に遊ぼうよ! 遊ぼうよーッ!」って1時間以上ごねていたからしょうがなく遊ぶことになったんだが……。あいつ、なんで俺と格ゲーしたがるんだよ。瞬殺されたわ。一発も当てられなかったわ。剛拳って痛覚設定が甘いからそんなに痛くはなかったけど。


 そういえばGWOは痛覚設定甘々だよな。ゴブリンに足殴られた時もそんなに痛くなかったし。DOCでは銃で撃たれた箇所に針で刺すような痛みが走るからさ、一応痛みには慣れているだよ。

 もう少し痛覚設定値高かったほうがリアルで良いのになあ。あ、べつに俺にMっ気があるとかじゃなくてね。



 

 一人で動作ありきで色々と考えていたら、俺から20mくらい離れている地点に大きな魔法陣が現れた。おお、やべえ、めっちゃ光っている……。


 エフェクト処理重そうだなーとか思っていると、その光の塊からでかいトカゲ人間が出てきた。外見がすごいリザードマンっぽいんだけど…え、まさかボスってリザードマン?リザードマンって、水辺にいる雑魚キャラですよね?


 あ、でも色が違う、すげえ赤い。鱗が赤いのか?……いや、違う。水色の鱗の周りを、高密度な赤色の魔力が覆っているんだ。

 うわー、差し詰め"強化されたリザードマンを倒せ"ってところか?赤色って俺のスキルと同じ色だし、能力上昇系だろうな。しかもあんなに濃い魔力だし……。


 光が消えリザードマンが完全に召喚されると、腕輪からおなじみの声が聞こえてきた。



 『イベント"神の試練"。ボスモンスター出現です。強化されたリザードマンを討伐して下さい。魔力特性に注意して戦闘することをお勧めいたします』



 でたよ魔力特性。ゴブリンの超回復みたいなあれだろ?めんどくせえ……。

 どうやって戦おうか。俺のMPは少ないわけだし、鱗に防がれそうな銃は使えない。どうせこのナイフも刃が通らないんだろ? 昔っから硬い奴には打撃系と相場が決まってるしな。


 リザードマンが俺に気づいたのか、両手に持つ巨大な曲刀と大盾を構えながら走ってくる。

 ん? 思ったより大きいな。ゴブリンより少し大きい……約3mくらいだろうか。まじででかいな。ここの原住民もでかかったりするのだろうか。ドッペル達は俺たちと同じくらいの背丈だったからそうでもないのか? まあいいや、今は戦おう。


 

 接近してくるリザードマンに対して、俺も奴に向かって走りだした。

 すぐに互いの距離がなくなって、奴は俺なんて楽に一刀両断できそうな大きい曲刀を横に薙ぎ払った。

 前もって攻撃が縦方向なら横に跳び、横方向ならしゃがんで避けると決めていたので、俺は走りながら姿勢をぐんと低くして一気に奴へと近づくことにした。


 体が大きいということは、当然腕の位置も高いわけで、俺から見て若干下斜め方向に刃が向いているその曲刀と奴の巨体との間に上手く潜り込んで、攻撃を回避した俺はそのまま奴の鱗に切り傷を作ろうとした。が、……まあ弾かれるわな。


 赤い魔力で覆われた鱗が硬い。

 俺はリザードマンの蹴りを右側へ移動しながら回避して、ハンドガンの弾丸を作成しそれを五発、脇腹へと撃ち込んでみた。


 パンパンパンパンパンッ!

 駄目か、弾丸でさえ鱗に弾かれる始末。HPゲージが数ドット分しか減っていない。


 俺はそのまま巨体の真横を走り抜け、リザードマンからの逃走を開始する。

 幸いなことに奴はそこまで素早くない。腕や足の動きだってゴブリンの方が何倍も俊敏だった。やっかいなのは圧倒的な攻撃力と防御力だ。


 こんな平原では勝てる可能性が低すぎるので、せめて森か、とにかく真正面から戦わなくても済そうな場所へと移動しなくてはならない。あの化け物とタイマンなんて無理に決まっている。


 リザードマンは俺とほぼ同等の速さで後ろから追ってくる。

 俺は全力疾走しているわけではないので、若干俺の方が最高速度は速いことになるのか? きっとAGIの補正で足が速くなっているおかげだろう。それに加えて俺はスタミナがあるほうなので、しばらくの間ならこのままの速さを維持して走ることができる。多分追いつかれることはないと思う。


 オタクな俺に体力がある理由は、VRゲームのFPSを始めるにあたってまず必要なのが体力だからだ。

 体を専用器具にスキャンされ、体力の限度を機械に勝手に決められて、それによってゲーム内でのスタミナ総量が少しだけ変化するというDOCにおいて現実世界の体力というものは一部上級者にとっては大切な要素の一つだった。少なくとも、デスマッチ戦で走り回る俺にとっては大切だった。


 俺は一時期、体力作りのために走り込んでいたりとかしていた。筋トレもした。食べ物にも注意したり、薬剤なんかも摂取した。

 その結果、体質のせいか筋肉は全然つかなかったが最終的にはそれなりの体力を手に入れることができたわけだ。それこそしばらく走っていても大丈夫なくらいにはな。


 GWOでも体力がその法則で決められているのか気になる。

 腕輪曰く自称魂を異世界へ転移させるゲームらしいし、俺の魂が体力はこれくらいって決めた総量にでも設定したのだろうか?もしくは現実世界ので体力量がそのまま設定されている可能性すらある。

 なんかもう、仕様が説明書と違いすぎて困る。説明書なんてたいして読んでないが。インストールして即起動させたし。




 こうして戦いはそのまま長距離マラソンへと変わっていった。

 約30分ほどだろうか、そろそろこの速さで走るのも限界だと考え始めていた頃に、前の方に薄くなにやら城壁らしきものが見え出した。

 おお、街がある。よし、このリザードマンを街の住人に押し付けようぜ!


 いや、待て待て待て。これはいわゆるMPKにあたるのでは?しかも対象が街単位の。普通にペナルティを受けてしまいそうだ。


 まずいな……つーか、走ってる途中から平原を抜けて道らしき物がでてきたなーとか、ちょっとは思っていたけど、本当に街に近づいていたとは……見たところ、周辺に人影らしき物は見当たらないようだが。


 しょうがない、この辺で戦うか。

 森の中が良いつってんのに全然森とか見当たらないし。ファンタジーといったら森だろ。用意しとけよ全く。


 俺は背後にいるリザードマンへと振り向いた。

 気づくと微妙に奴との距離が空いていた。前方……100mくらい?からこちらに走ってくるリザードマンが見える。


 あ、HPバーが90%くらいまで減少している。何があったんだ? 走って疲れたとか? スタミナとHPは関係があるのか?それともどっかで転んだのか……まあいいか。



 俺はハンドガンを取り出して左手に持ち、右手に短剣を構える。

 残弾は残り一五発。残りMPは25。つまり約50%。6秒間ならスキル殺人鬼を使うことが可能だということで……。


 俺に近づいてくるリザードマン。さて、どこを狙うか……。

 ゴブリンと同じように目から脳を狙うか。奴の鱗が覆われていない部分ってのが、目と鼻、口と耳くらいなんだよ。背も腹もすべて赤く染まっている水色の鱗がびっしりだ。


 目と鼻と口と耳か……。

 耳にハンドガン撃ち込むか?でもどうやって3mも上の対象に真横から狙う?だから木があれば足場になったってのに。

 鼻と口は狙いにくいだろ。目も不可能ではないけど、目か…。ゴブリンの目にナイフ突っ込んだのが微妙に嫌だったのかトラウマ気味なんだけどなあ。汚かったし。しかも爬虫類の目は鋭く、手を突っ込む程の隙間が存在するかがわからない。


 

 この辺で戦っていれば、そのうち街からの援軍があるはずだ。

 多分だけど……さっき門番らしき兵士が此方を見てあわてているのがちらっと見えたし。

 ちなみに、今の俺は認識スキルの一つである五感強化によって五感の全てが強化されているので、遠くでも良く見える。その強化された視力で見た感じだと兵士っぽい人が見えたような見えないような。


 

 リザードマンの倒し方を殺すかHPをぜろにするか迷うところだが……とりあえず攻撃してみるか。まだまだ距離が空いているのでハンドガンで狙いをつけて引き金を引き、攻撃してみた。


 ナイフを持った右手で支えながら撃ったその弾は、リザードマンに命中しHPが再度数ドットだけ削れた。俺はハンドガンを撃ち続けながらリザードマンに向かって走りだす。


 

 計7発の銃弾を奴に叩き込んだ。

 ある程度大きな音をならしているで早く兵士の皆さんには駆けつけてもらいたいものだ。


 リザードマンの大きな曲刀での攻撃を避けながら、偶にナイフで奴の鱗をなぞるように刃を滑らせていく。

 どうやら鱗一枚一枚にちゃんと当り判定があるらしく、HPが一定の範囲をナイフでなぞるたびに1ドットずつ減っている。つまり広い範囲にナイフを当てれば数回攻撃するのと同じダメージ量を与えることが可能だということになるわけだ。


 そうか、別に急所を狙うことに固執しなくてもいいんだ。ちょっとずつダメージを与えていけばいいんだよ。避けそこなって殺されないように気を付けながら。終わりが見えないのが辛いけど。


 でたらめに攻撃を繰り返すリザードマン。

 曲刀を斜めに縦にと次々と振りまくっている。俺が移動して避けるとそこにおもいっきり叩きつけるように攻撃してくるあたりあんまAIがよくできていないのかもしれない。敵は動くんだぞ。まだゴブリンの方が頭が良かった。





 それから数分間は俺の一方的な攻撃により戦いが進んでいった。

 リザードマンの攻撃は俺には当らず、俺の攻撃は確実にリザードマンのHPを減らしていき、奴の残りHPが80%に近づいた頃、街からの援軍らしき声が聞こえてきた。



 「おいミレア見ろよ、蜥蜴人だぞ蜥蜴人! まさかこんな街の近くでランクDの魔物に出会えるとは……なあ、俺たちにも運が向いてきたんじゃねえか?」


 「馬鹿じゃないのグラーデ! まさか戦う気なの!? 嘘でしょ、私たちじゃ絶対に勝てないよ……」



 良く見ると援軍は街とは反対方向からやってきていた。

 ゴツイ鎧を着ているおじさんが一人と、ローブを被った少女が一人。おじさんの方は大きな斧を肩に構えていて、少女の方はなにやら絶望でもしているのか顔が真っ青になっていた。援軍と考えていいのか?とりあえず俺はリザードマンの攻撃を避けながら彼らに助けを求めてみることにした。


 

 「すまない、助けてくれ! 俺の装備じゃまともに戦えないんだ!」


 

 「おう、了解だぜ嬢ちゃん! 俺たちに任せとけ!!」

 「無理だよ! 私たちの装備でもまともには戦えないよ! ねえグラーデ、逃げよ。このまま遠回りして街に帰ろうよ」

 

 そんな声を聞いてあわてて俺も声を出す。

 ここで逃げるとか言わないでくれよ。さすがに一人だとキツイんだよ。 


 「そこの杖を持った女の子、敵前逃亡は死罪に当る!」


 「暴論だよ……聞いたことないよそんなの……」


 

 俺のFPSのノリたっぷりの説得のかいもあってか、女の子はしぶしぶといった感じだが戦闘に参加してくれるようだった。


 俺はハンドガンの残弾すべてをリザードマンの顔に向かって撃ちながら少し後退する。いくら鱗が弾いてくれるといっても顔面に当るのが不快なのだろうか、奴は攻撃をやめてその巨体に合った大きな盾で俺の攻撃を防ぎ始めた。


 顔の前に盾を構えてしまったリザードマンの視界から俺が消えたと思うので、俺は技:隠形を使った。

 リザードマンに2秒間感知されなくなったはずなので俺は走って奴の右側に移動する。奴の後方からは斧を両手で構えたおじさんがこっちに向かってきているし、その後方には杖を構えた少女が魔法を使うっぽい感じで構えている。



 「グラーデいくよ。強化魔法使うからね!」

 「おう! 化け物がッ……くらいやがれッ!」


 

 少女の放った赤色の魔力の塊がおじさんの斧に向かって飛んでいく。それを受け取ったおじさんは両手で斧を持ち、体を半回転させながらそれをリザードマンの背にむかって叩きつけた。


 ものすごい轟音と共に砕け散る斧。

 鉄っぽい金属製だったにもかかわらず粉々に散ってしまう。さすがのリザードマンも斧が砕けるほどの衝撃を背に食らったのは痛かったのか、叫び声をあげながら前へと押し出されていた。


 今ので5%以上のHPが減っているのがわかる。

 このおじさん強ええ……ゲームのNPCか異世界の人だよな?こんなに強いのか。


 おじさんは棒切れになった斧を投げ捨て新たな斧を構える。恐らくアイテムボックスから取り出したのだろう。β時代の情報通りならアイテムボックスには20個までなら装備品が入るのでそういった使い方も可能なはずだ。


 アイテムボックスから次々と武器を出しながら戦うスタイルがWikiのネタ系コーナーみたいな所で紹介されていたのを俺は見ている。剣を振り下げながらアイテムボックスに仕舞う事で、次の攻撃を最速で繰り出せるというよくわからないものだったが。俺も銃とナイフを瞬時に閉まったり取り出したりできるのは便利だと思っている。


 おじさんもその戦闘スタイルをとっているのだろうか。女の子の魔法で強化した肉体と斧で武器の耐久度がなくなるほどの強打を叩き込む感じか?まあ、この強化リザードマンの防御力を超えて1以上のダメージを与えるにはそんな方法しかないか。


 くそ、俺も職業がレア職の勇者だったら専用スキルの聖剣を使って瞬殺してやるのに。

 因みに、勇者スキルの聖剣は武器に防御貫通効果を上乗せするというチートスキルだ。他にもステータスにかなりの補正がかかったはずだ。MP消費も僅か10で済む点も魅力的だし。聖剣状態になった武器でならどんなに硬い魔物もバターのように、もっと言えばゼリーとかプリンみたいに刃が通るって話らしい。β時代の勇者持ちが言ってた。


 俺のナイフじゃあ表面削るくらいしかできないが……あ、おじさんが攻撃した部分の鱗が剥げてる!よし、あそこになら銃弾が弾かれることもなく攻撃できるかもしてない。


 俺は更にMPを20消費してハンドガンをリロードする。

 リザードマンはさっきの斧攻撃で俺の存在など忘れておじさんと戦っている。でかい曲刀をひたすら斧で防御しているおじさんのHPは既に半分の50%を切っていた。はやく助けてあげないと死んでしまう。


 素早く移動しながら銃を左手で構えて……撃った。

 最初の2発で鱗の剥げた部分への攻撃が有効なことを確認した俺は、そのまま走る。


 銃撃による痛みでおじさんへの攻撃をやめたリザードマンが、今度は俺の方を向いた。だが、後ろからおじさんの斧による強烈な一撃を食らってしまう。バガンッ!と再度斧が砕け散り、リザードマンが俺の方へとぶっ飛んできた。


 

 俺は浮いたリザードマンの下に潜り込むように飛び込んだ。

 飛びながらくるりと体を回転させ上を向く。着地で頭を地面に打つだろうが、まあゲームだし少しくらい大丈夫だろう。そのままハンドガンで二か所の鱗の剥げた部分を狙い……パンッ…パン!


 二発とも命中。

 俺とおじさんの攻撃により残りHPがだいたい60%程だろうか。初めに比べるとかなり少なくなってきた。そのまま吹き飛び、崩れるように倒れるリザードマン。直後に俺も後頭部を地面に強打して悶える。


 いってえええッ!なんだこれなんだこれなんだこれ!? 

 痛覚設定甘々説どこいった!? 禿げてないだろうか? なんだこれ痛い痛いぃぃ。


 俺が痛みに悶えているとどこからか「大丈夫か!?」等の複数の声が聞こえてくる。街からの援軍が到着したみたいだ。起き上がりながら見てみると兵士みたいな格好の人が12人と冒険者みたいな格好の人が8人計20人もの人たちが駆けつけてくれた。


 ふふふ、これで勝ったも当然だな。始めに武器がきかなかったときはどうなるかと思ったが、これだけ味方がいるんだ。もう既に勝ったと言っても過言ではないだろう。



 だが、次の瞬間には俺の過信による勝利宣言フラグを回収するような声が腕輪から聞こえてきた。



 『想定パターン04"現地人による過剰な援助行為"を確認しました。ソロ以外での討伐を違反行為とみなしボスの戦闘力を強化します。注意して戦闘して下さい』



 その声の直後、倒れているリザードマンが出現したときと同様の光に包まれて……段々とその光が小さくなっていき、最後には消えて、そこには180cmほどにまで縮んだリザードマン?が倒れていた。


 いや、既にリザードマンでははなくなっている。

 所々に紫色の線が入った黒い服を身に包み、紫色の髪をしていてその頭部のこめかみの辺りから頭を覆うようにぐねっとした黒い角が生えている。

 ちらりと見える腕には黒色の鱗があちこちについていて……なんだあいつ、人か?リザードマンと人族のハーフ?


 俺がなんだろうと考えていると、リザードマン?は先ほどのダメージを感じないかのような綺麗な動きで、すっと立ち上がった。何時の間にか、その手には細い日本刀らしき何かが握られている。おい、なんだそれ。さっきの曲刀と盾どこいったし。


 すると、援軍っぽい冒険者風の一人の男が、何やら叫び声を上げた。



 「なっ、鱗に角……ありゃあ龍人じゃねえか!? 蜥蜴人なんかじゃねえぞ!」

 「龍人だと!?」


 「おい騎士共ッ、 すぐに援軍を呼んでくるんだ! 俺たちなんかじゃ歯が立たねえぞ! 上級も特級も全員呼んで来いッ!」

 「龍……!? わ、わかった。すぐに援軍をッ」



 ん?なんだなんだ。なんか慌ただしくなってきたし皆動揺しているようだ。え、そんなに強いの?っていうか何だよ違反行為って……先に言えよ。聞いてないし。俺は現地人に協力してもらっちゃだめだなんて一言も聞いてませんよー。


 それにしても奴は龍人っていうのか。どれくらい強いんだろうか。一応、聞いてみるか。俺は近くにいる最初に駆けつけてくれた斧を持つおじさんに話しかけた。


 「なあおじさん、あの龍人って奴はそこまで強敵なのか?」

 「なんだ、嬢ちゃんは冒険者のくせしてそんなことも知らないのか。龍人っつったら北の大陸の奥の方に生息しているって言われてる、Sランクの魔物の一種だぜ。一体いればその辺の国なんさ軽く滅ぼせるっつう……まあ化け物だな」


 「ど、どうしようグラーデ! 龍人だなんて……私たち死んじゃうよ! あーん嫌だよー、 私まだえっちだってしたことないのにー! 生娘のまま死ぬんだー、う、うわーん!」

 「落ち着けってミレア。別に死にゃあしねえよ。あと女がそういうこと言うんじゃねえ。ほれ、転移石起動っと」



 おじさん手に青い結晶を持ちながらそう言うと、おじさんと少女が青色の光に包まれて……消えた。


 うわー、逃げやがったよあいつら。物騒なこと言ってから。わー、国滅ぼせるとか勝てませんわー。俺も逃げよっかな。少し戦ってみて勝ち目なさそうなら逃げるか。え、敵前逃亡は死罪?なにその暴論怖い。



 俺は再度左手にドッペルガン、右手に緑巨人の短剣を構えると、龍人に向かって走り出した。


 作戦はさっきと一緒だ。走りながら攻撃して効き目が薄かったらそのまま走って逃亡。街に言った通りに街へ行き他の強そうな奴に龍人を押し付ける。これで完璧。



 龍人の頭部を狙い、即座に発砲した。

 しかし、なんと奴は俺の攻撃を感知したらしく、素早く左右に動いて銃弾を避けやがった。


 銃弾を見てから躱すとか……はいもう無理です勝てないです。

 DOCのランキング四位の偉大などっかの外国人が編み出した、近接戦闘で銃口と相手の指の動きから射線とタイミングを見極めて銃弾を回避するっていう鬼畜技術を使っても、銃弾の回避なんて本当にぎりぎりの、ランキング上位の俺だって結構失敗するような高度な技術なのに。


 どうやらあいつは弾が銃から離れた後で、その弾を認識してから、その後簡単に回避できるだけの身体能力も持っているらしい。無理だわ。そんなのかてねーよ。刀持ってるってことは接近戦も強いんだろ?俺のナイフもなかなかのもんだよ?そりゃあランキング上げるためにいっぱい練習したもん。いろんな技術やらなんやらを調べたり教えてもらったりしながらさ。でも銃弾避けるようなやつと接近戦とか恐くてできねーわ。


 よし、逃げる。

 逃げの一手だ。俺はスキルを発動した。



 《スキル:逃走犯発動》

 


 スキル逃走犯。MPを消費しないスキル。何かから逃走、つまり逃げるときに大幅な補正が働く……らしい。俺は龍人から逃げるためにスキルを使った。


 瞬間、ぐんっと俺の身体が前にでた。


 お、すげぇ。足が速くなってる。AGIにかなり補正かかってんだな。俺は後ろを見てみると、目の前に刀が迫ってきていた。 龍人は俺の異様な速さにも対応して、尚且つ攻撃を仕掛けてきたみたいだ。


 俺の体がスキルによるアシスト機能のおかげで自動的に動き、その攻撃を回避しつつそのまま逃走を再開する。

 すると今度は逃げる俺の前に突如、奴が現れて、刀を横なぎに払ってきた。再度、体が勝手に反応してそれを回避する。ありえないくらい低姿勢になった俺はスピードを落とすことなくそのまま走り抜けた。


 どうやらちゃんと街に向かっているようだな。それでも門までまだキロから数百メートルはありそうだが。


 俺の回避能力が高いことに気づいたのだろうか。龍人が今度は魔法をつかって攻撃を仕掛けてきた。奴の角に電撃が走ると、その電撃を俺にむかって鞭のように伸ばしてきた


 俺はすぐさま跳躍して空中で体をひねりながらその魔法を回避する。

 すげえよ。このスキルといい殺人鬼のスキルといい。俺のスキルのシステムアシストの性能がやばい。あいつの強さもチート級だが、俺のシステムアシストの性能も十分チート臭いな。


 その後も様々な攻撃を俺に対して放ってくる龍人くん。

 電撃を剣に纏って攻撃してきたり、瞬間移動して何度も切りかかってきたり、馬鹿みたいな大きさの電撃を放って来たりエトセトラエトセトラ。だが俺のスキルはそのすべてを自動的に回避しまくった。それも全ての攻撃を掠りともせずに。 



 後ろに龍人を引き付けながら街へ侵入する。

 バガーンとかキャーとか色んな叫び声やら轟音が響いているが気にしない。というか少しでも足を止めたら死にそうな気がして止まれない。一般人の皆さん、マジで御免なさい。


 視界の左上にある簡易マップに表示されているマーカーを見る限りではNPCの皆さんは誰も死んではないようだった。高速で切り替わる簡易マップに移るNPCらしきマーカーを見ながら、スキル五感強化で強化された視力を役立てながら俺は逃走を続ける。


 そのまま避けて逃げて……あ、あれだ。見つけた!


 俺は目当ての道具屋らしき屋台から通り過ぎ様に目当てのブツを回収し、そのまま走り去る。普通に泥棒しましたすいません。でも、このままじゃいずれ死んじゃうもんしょうがない。


 スキル:逃走犯。

 このスキルはMPを消費しないが代わりにHPを消費する。


 だから攻撃を一発も食らっていなくても俺のHPは現在残り20%を切っているんだ。敵の攻撃を回避する度に少しずつHPが減少する辺り、逃亡の補助一回につき消費HPが何%って決まっているのだろう。


 だが、しかし、俺の盗んだこいつがあれば龍人から逃げることなんて案外造作も無いことなんだぜ? ちゃんと前例があるしな。じゃあな龍人! あばよ!



 俺は手に持った青い石を強く押し込んで、使用した。



 

 「転移石起動!」




 すぐに俺の視界が青い光に包まれ始める。

 後ろを見ると、龍人が翼を生やし全身が黒い鱗でいっぱいになりながらも俺に向かって電撃を飛ばそうとしていた。

 そんな景色もすぐに消えて……俺は無事、龍人から逃げ果せることに成功したんだ。これってイベントクリアになるのかな?


まあ俺はGWOをクリアするためにやってるんじゃなくて、ファンタジー世界を楽しむためにやってるんだから、地獄だのなんだのとか知ったこっちゃないよな。つかこのゲーム何かバランス悪くね? まさか糞ゲー?



 後から聞いた話では、俺を見失った龍人は周りの住人には一切の興味を示さずに何処かに向かって飛び去って行ったらしい。

 怪我人はいたもののすべて軽傷の者ばかりで死者もぜろだった事を後から聞いた。微妙に罪悪感を感じていたので、そだが解消されて一安心だ。ともかく、俺は無事、ボス戦を切り抜けたのだった。







 

美也「お兄ちゃんは基本的に考え方が適当です。意見をころころ変えたりもします。後は……自分の容姿を全く理解していません。お兄ちゃんは…少しだけ……男の子っぽくないというか。で、でも、そんなところも私は大好きですけど!」

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