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第3話 好きだ

「はい、ゆう君お口開けて? あーん」


 傷が治り、リハビリ生活になった俺。


 そんな俺に対し、柊花が手作り弁当のミートボールを俺に差し出してくる。


「い、いいよ、柊花。体も治ってきたし、自分で食べられるって」


 そもそも、前までの柊花はここまで俺に尽くしてくれなかった。


 優等生ながら俺の前ではだらしなく、奔放に振る舞っていたのだが、それは今、完全に身を潜めている。


「ダメよ、私に甘えて? まだ傷も癒えたばかりだし、変に体を動かして悪化したら、それこそ目も当てられないもの」


「弁当食べるくらいどうってことないから。体動かすうちにも入らないって」


 言って、柊花の持っている箸をもらおうとする俺だが、簡単にそれができれば苦労はしない。


「入るわよ! あんな大怪我したのに、ゆう君の身にこれ以上何かあったら大変なの!」


「で、でも、箸でミートボールを掴むことくらいは……」


「ダメ! ダメったらダメ! もう私、ゆう君が痛い思いするの嫌なの! ゆう君には、安全な状態で私の傍にいて欲しい! ずっと、ずっと、ずっっっっと!」


 近い。


 柊花さん、顔が近いよ。


 そうツッコもうとした俺だが、間髪入れずにすぐそこにいた春花が「うん」と同意したように続ける。


「柊ちゃんの言う通り……。これ以上ゆっちゃんが痛い思いするのは見てられない……」


「い、いやー、あの、でもですね、春花さん? 俺、箸くらいは問題なく自分で使えるんですよねー……」


 むしろ、それができなければ大問題だ。


 リハビリの意味もまったく無かったことになる。


「ううん……。箸、一人で使えるかもしれないけど、私たちがアシストするから大丈夫……」


 静かに、ミステリアスな雰囲気が漂う声音で言い、俺の手を握ってくる春花。


 こいつもこいつで距離感がおかしい。


 顔を近寄せ、キスでもしようとしてるんじゃないかと思うほどの距離で囁いてくる。


「ゆっちゃんはね……安心して私に身を委ねていいんだよ……? ずっと……ずーっと……私が傍にいるから……」


「は、春花……さん……? あ、あのー……?」


「ふ、ふふっ、うふふふっ……! ゆっちゃんが行くところに……私もついて行くからね……? ゆっちゃんが死んだら……今度こそ私も一緒に死ぬから……!」


 な、何言ってるんだ春花!?


「ちょっ、は、春花!? 死ぬって……お前そんな……!」


 言葉を続けようとしていた俺だが、柊花が静かに「ううん」と遮ってきた。


「何も驚くことじゃないよ、ゆう君? そんなの、私も同じだから」


「え……?」


 ゾクっとするような、そんな声音。


 見れば、柊花は光の失われた虚な瞳で俺を捉え、口元を緩ませている。


「もう……お父さんの時みたいに……大切な人が傍からいなくなるのは嫌……。ゆう君のいる場所に……どんなことがあっても私はついて行く……」


「たぶん……なっちゃんも同じ考えだよね……? だったら私たち……誰がゆう君の一番になるか決めないといけない……」


「そんなの私に決まってる……! 姉妹とはいえ、絶対にゆう君は渡さない……! どんなことをしても、私はゆう君を自分のものに……!」


 雰囲気がおかしくなってきたところで、俺は割って入るように待ったを掛けた。


「しゅ、柊花! 待って! 落ち着いて!? 何!? 一体どうしたってんだよ!?」


 どうもしないよ、と。


 彼女は微笑みながら俺に言ってくれる。


 その目は明らかに笑っていない。


「私ね、気付いたの。自分の中で、どれだけゆう君が大切だったか」


「……柊花……」


 屋島三姉妹。


 その長女の名を口にしたところで、病室の出入り口扉が開けられる。


「そうだよ。私もそう。勇信の大切さに気付いたんだ」


 現れたのは捺花だった。


 今日は委員会の集まりがあるから遅くなる。


 そうメッセージをくれていたが、俺は無理してまで来てくれなくてもいい、と。そう返信していた。


 なのに、この時間。


 通常ならまだ委員会の集まりも終わってないだろうに、途中で抜け出してきた感がすごい。


 前までなら考えられなかった。


 捺花はもちろんのこと、柊花も春花も、完全に物事の優先順位のトップが俺になっている。


 すべては俺が事故に遭ってしまったからだ。


 俺がすべて悪い。


 悪いから……。


「……わかった。そこまで言うなら、俺も貫き通すよ」


 俺の言葉に、屋島三姉妹は疑問符を浮かべる。


 何を貫き通すのか、と。


 そんなところだろう。


 決まってる。


「どうなろうと、柊花も、捺花も、春花だって大切な幼馴染だ」


 だから。


「元気になったら、また三人のことはちゃんと守るからな」


 それが、花夫さんから託されたことでもある。


 三人のことを守ってやってくれ、と。


 俺は彼からそう言われたのだ。


「……ゆう君……」

「勇信……」

「ゆっちゃん……!」


 思わず「うぉ」と声を漏らしてしまう。


 三人が優しく俺を抱き締めてきた。


「私も同じ気持ちだよ? 今度は私がゆう君を守るからね?」

「私も、ずっと勇信の傍にいる。一橋君とか、もうどうでもいいの」

「ゆっちゃん……ゆっちゃんゆっちゃんゆっちゃんゆっちゃん……!」


 もしかすると、俺のこの宣言は、完全に地雷を踏み抜いたものだったのかもしれない。


 薄らそう思ったが、後には引き返せない。


 俺は三人のことを抱き締め返して、静かに囁いた。


「好きだ」と。

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