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フェイクブレイカー  作者: merbotan
★アイドル記者★
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16/16

 ライブから戻ったカケルは自席できらりのSNSのアカウントを開いていた。ミコトとシュウが後ろからその様子を見守ってる。

「観客がいきなり消えるなんて、にわかに信じられないけど」

「いや、それが本当なんだよ」

 一瞬にして会場の温度が消え去った体験を思い出して、思わず身震いする。

 一方のミコトは疑いを隠そうともせず、

「幻覚を見たんじゃないの?」

「いや、どんな幻覚だよ」

 ミコトが目を細めながら首をかしげてシュウを見る。

「本当?」

「ああ、確かに。曲が終わって暗転から戻った時には、会場は空になっていた」

「そっか……じゃあ、間違いないね」

(そこはすんなり納得すんのかよ)

 カケルは返事をせずに、ワンヴォイスの流れ星きらりのSNSを開く。最新の投稿に目的のものはあった。

 クリックすると、動画が流れ出す。

「何これ、新曲?」

「ああ」

 音声をオンにして3人でその曲に耳を傾ける。きらりの澄んだ歌声と切ないメロディに、会場で聞いた時の感動が鮮やかによみがえった。

「別に、なんの変哲もない曲だと思うけど」

 ミコトの無遠慮な一言に苦笑いをしつつ、本文をクリックすると歌詞が現れた。一度聞いただけだったが、不思議とあの時の歌詞だと分かった。

 しかし、ミコトの言う通り、あのライブ会場で起きた現象を説明するものはなかった。歌詞の内容に目を凝らしても、違和感のようなものは見つけられなかった。

 続けて、コメント欄を開く。

 その瞬間、カケルはこの曲がもたらした影響を思い知る。

 投稿日時は数時間前だというのに、既にコメント数は数万に上っていたのだ。

 その内容には、特徴があった。

『「あの日見た空」ってことは、過去に何かがあったってことだよね』

『「白い箱」って、薬のことじゃない?』

『「誰かの願い」……きらりちゃん本人の可能性もあるよね』

『「名前も知らない星」って、たくさんの赤の他人のことなんじゃない?』

 コメントは、きらりの歌詞を分析する者ばかりだった。

「なるほど、報道の一つの在り方かもしれないな」

 それらを見たシュウが感心したようにうなずいた。

「ファンに議論させて注目を集め、さらに多くの人を巻き込んでいく。結果、記事の影響力はすさまじいものになる」

 話してる間にも、コメントはどんどん増えていく。ついには、具体的な地域や企業名なども挙げられるようになっていった。それらに対して、さらに賛成や反対の意見が交わされる。

「もう、みんな好き勝手しゃべってて、収集付かないよ」

 ミコトの恨み言を聞きながら、カケルはコメントの奔流を見つめていた。

 シュウの言う通り、きらりの報道の形は非常に現代的で、記事を見てもらうのにはとても有効な戦略だと感じる。

 だが、同時に危険さもはらんでいるように思えてならない。

 多くの意見が乱立することの危険さ。意見の相違は時として、大きな争いを生む。実際に、過去に情報の氾濫による大災害が引き起こされたのだから。

「ん?」

 思案していると、シュウが何かに気付いたように声をもらした。

「なんかやたら同じ名前の企業が出てくるようになってないか?」

「確かに」

 ミコトは携帯端末を取り出して、画面に指を躍らせる。

「メディホールディングス……医薬品の卸会社みたいだね」

「医薬品?」

「ざっと見た感じ、過去の不正もないし、監査もしっかり行ってる。まっとうな企業っぽい」

「ふむ」

 シュウが考え込む。

「そもそも、あの歌詞からどうやって、この会社にたどり着いたんだ?」

 シュウに応えるように、カケルはコメントの流れを辿る。

 すると、奇妙な点を見つけた。

 カケルは、該当の箇所を表示させる。

『白い箱って、メディホールディングスの物流倉庫のことじゃない?』

『確かに』

『前から怪しいと思ってた』

『やっぱりそうだったんだ』

『きらりちゃんは真実を伝えてる』

「初めてメディホールディングスの名前が挙がった投稿を境に、まるで示し合わせたように、意見が一方向へ流れ始めてる。それまで、多くの企業や地名が出ていたのに関わらずだ」

「なにそれ。ファンだけがわかる暗喩みたいなのが歌詞にあったってこと?」

 ミコトは携帯端末に指を滑らしながら言う。

「どうだろうな。どちらかというと、何らかの意思が働いているように見えるが、ここからでは断定できないな」

「っぽいね」

 議論が一段落して、カケルの頭の中では、別の問題が浮かんでいた。

「それに、肝心なことがわかってない」

 ミコトとシュウがカケルを見た。

「会場から人が消えた現象が何一つ分かっていないんだ」

 改めて言葉にして、その異常さが身に染みる。

 同時に、カケルの胸の中を支配していたのは、ライブで知り合った一人の青年の顔だった。きらりのことを熱弁する、きらきらとした相貌。

 平田はいったいどこへ行ってしまったのか。

 オルビスに戻るまでの間に連絡を入れてみたものの、現在まで返信はない。

「まあ、ここで考えていても仕方ない」

 シュウが手をパンと叩いた。

「この企業と周辺の地域を取材するぞ。俺は企業に直接あたってみる。カケルとミコトは周辺の住人に聞き込みを行ってくれ」

「わかった」

「頼むぞ……っておい。ミコト、聞いてるのか」

 ミコトはスマホを熱心に眺めていたまま、返事をしない。

「みこ……」

「見つけた!!」

 まん丸に目を開いたミコトが叫んだ。

「は?」

「すごいもの、見つけちゃったんだよ!」

 興奮交じりでミコトが携帯端末を渡してきた。画面上では、きらりが化粧品を手に取って、一生懸命口を動かしている。

 しかし、特に異常は見当たらない。

「この動画がどうしたんだ」

「ここだよ、ここ」

 目元と顎のあたりを指し示す。

「だから、なんだよ」

 カケルの問いかけに、ミコトはもったいぶったように息を止めてから、

「こいつ、顔加工してるんだよ!」

 カケルとシュウはがくっと頭を下げた。

「お前、そんなのSNSだったら誰でもやってることだろうが」

「何言ってんのさ!これも立派なフェイク。オルビスとしてしっかり追求していかないと!」

「ははん、お前……」

 息巻くミコトにシュウが、からかうように笑みを浮かべた。

「やきもちやいてんだろ?」

「は、はあ!?」

 ミコトの声が1オクターブ高くなった。

「なんであたしがこいつにやきもち焼かないといけないの!」

「気にすんなって。ミコトだって捨てたもんじゃないぞ」

「その慰められる感じすごくむかつくんですけど!あたしはオルビスとして」

「はいはい、わかったわかった。とにかくメディホールディングスを調べないとな」

「ちゃんと聞けー!」

 2人のやり取りに苦笑しながら、カケルは携帯の画面を見つめる。

 楽し気にこちらに向かって語り掛けるきらり。

 彼女はアイドル記者という形を通して、人々に何を伝えようとしているのか。

 画面からでは、きらりの瞳の奥の光の色を推し量ることはできなかった。

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