16. 産地直送! 金色の野りんご
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黒い皮の小舟にのったポトリーグ。その近くを泳ぎゆく、るる波とうず雄のあざらし姉弟。
一行はめやすとして、≪かいぎゅう島≫を目指す。
それは多くの生きものが棲む、この≪黒き島々≫の南の端にあると言う。そこがあざらし達の行ける、最も遠いところなのだそうだ。
蛇がねじろとしている島は、おそらくその≪かいぎゅう島≫の先にあるのではないか、とあざらし達は考えていた。
『そうは言っても、誰も行ったことがないんだし。蛇たちも自分たちのことをしゃべるわけがないから、確かではないけどね』
るる波は先頭に立って泳いでいるが、時折すいすいと小舟の脇に寄ってきては、弟とポトリーグの様子を見て確かめてゆく。その時に、ちゃきちゃきと旅路の話もした。
≪黒き島々≫は大小さまざまが無数に寄り集まっているから、何かしら目印になる島が見える。≪かいぎゅう島≫まではまず確実に行けるだろう、とるる波は言った。
小舟とあざらしとは、右手にいくつかの島々を過ぎ越しながら、順調に進む。
雨の後の海は、ふしぎと優しげに穏やかだ。深緑色の水面が、明るくなってゆく陽を照り返している。そんな中で、るる波が声を上げた。
『うずちゃん、ポトリーグ! 何かあったら、遠慮せずに言うのよ。お腹がすいたり――』
「うん! さっそくだけど、腹へったよ! るるっち」
『あららら。じゃあ次の島に寄って、何か食べましょうか』
るる波はそう答えてから、たぷんと波の下にもぐった。
うず雄もそうだが、あざらし達は頻繁に海中にもぐる。もぐっては出て、を繰り返す。海の下では水の動きを受けて、より楽に泳げる流れだとか、すてきな魚群の居場所をお肌で感知するのそうだ。人の子ポトリーグにはまねできない、すごい能力である!
だいぶ日が高くなってきたところで、前方に見えてきた緑色の小島に、るる波はうず雄とポトリーグを誘導していった。
入り江の先の砂浜に、ざらざらっと小舟を乗り上げる。
「誰か住んでるんか? ここんち」
『いいえ、あざらしはいないわ。でも奥の方には、やぎ達が住んでる。立派なつのを持っていて、においが浜まで漂ってくるの』
「ふーん?」
るる波とうず雄は、そのまま海へ食事にゆく。帰りにポトリーグのものをみつくろってくる、と言って。
皮ぶくろの中にまだ飲み水はたくさんあるが、ポトリーグはすきっ腹を抱えてただ待つこともないな、と思う。
「どっちみち、焚き付けが要るよなー」
と言うことで、ここでも松林に踏み入ってみる。
――考えてみりゃ、うずっちとるるっちは、とった魚だの何だの、そのまんま食えるんだから。俺だけ毎回火を起こして料理してー、ってなると時間も手間もかかるんだよなあ……。
そうは思っても、魚その他を生でたべる、というのはポトリーグには無理だ。
どうしたって、煮るなり焼くなりしなければならない。となると食事のたびに、どこかの島に立ち寄らざるを得なくなる。
修道士たちと移動していた時は、かたく焼きしめたパンや干し果物などの保存食を、海上で口に入れることもよくあった。しかしポトリーグは、最後のパンをたべてしまって久しい。
――うずっち達が海ん中で食ってる間に、俺も舟の上で何か手軽に食えたらいいんだけどなぁ。
とりとめなく思いつつ松木の間を歩いていると、予期せぬものがふわり、とあらわれた。
「えっ……うええ、えええッ?? りんごーっっ!?」
あまりに驚いたから、ポトリーグは転びかけるようにして、その樹に駆け寄って行った。
「すげえっっ」
そんなに古い樹ではない。けれど金に輝くような黄色い実がたわわに実って、しなやかな枝を重く垂れ下げさせている。
低いところ、自分に向かってどうぞと差し出されたようなその実を、ポトリーグはがしっとつかんだ。
ぶちんと採って、がりんと噛む! ああ産地直送!
「……!!」
おだやかな酸味と、豊かな甘い香りとが、ポトリーグの口いっぱいに広がる。
食べごろにはちょっとだけ、……ほんのちょっぴりだけ早い、という気がした。けれど十分においしい。
ひょろっと指の長い、少年の大きな手のひら。そこにすっぽりはまるくらい小さな実を、ポトリーグはすっかり食べきった。
――こりゃあ、いいや! めっけもんだ!
ポトリーグは背中にしょっていた肩掛け麻袋を下ろして、中身をごそごそと探る。
ずっと前に自分で編んだ、あみ袋を取り出した。
その中に、小さなりんごを詰めてゆく。
袋いっぱいに採っても、りんごの樹はまだまだ実で重そうだった。
「ありがとな! たぶんこれで、俺ぁ海の上で飢え死ぬってこたぁなさそうだ」
りんごの樹を見上げ、よいせっとあみ袋を肩にかついで、ポトリーグは引き返す。
――俺ってば、めっちゃついてんな~!
浜へ戻る途中、林の中に落ちている枯れ枝を、ひょいひょいと拾い上げてゆく。
と、妙なものがあるのに気づいた。
「あれっ……」




