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デスシティ 〜魔界都市備忘録〜  作者: パイナップル
第二章「猟犬伝」
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三話「這い寄るナイアちゃん」



 大和はホテルを出るとパチンと指を鳴らす。

 すると、眼前の空間が砕け散った。

 轟音と共に現れたのは漆黒色のカスタムハーレー。

 重厚なエンジン音を立てて大和の前に停車する。


 魔導式カスタムハーレー、「スカアハ」。

 大和の愛車だ。


『おはようございます。マスター』

「青宮霊園まで行く」

『かしこまりました』


 大和はスカアハにまたがる。

 颯爽と乗りこなし、中央区の大通りに乱入した。


 矛盾の坩堝、魔界都市。

 その名に相応しい光景が広がる。


 所々で暴力団の縄張り争いが勃発し、あろうことかそれを住民たちが焚きつけている。

 魔改造を施された重火器が火を噴き、簡易的な魔術で建物が吹き飛ぶ。


 大和はハンドルを切って飛んできた瓦礫を避けた。

 後ろで走っていた車が衝突事故を起こす。


 今日も今日とてデスシティは平常運転。

 暴力と犯罪の楽園だ。


 ふと、大和の肩に皺だらけの手がそえられる。

 背後には枯れ木のような婆さんが佇んでいた。

 膝から下が透けている。幽霊だ。


「新聞、買っていかないかい?」

「朝刊か?」

「ああ」

「値段は?」

「100円ぽっきりさね」

「おらよ」

「ひっひっひ、毎度ありー」


 百円玉を貰った老婆は満足そうに消えていった。

 彼女は新聞を買わないと転倒事故を起こす危険な幽霊だった。


 大和はスカアハに告げる。


「スカアハ、運転任せた」

『かしこまりました』


 自動運転に切り替わったことを確認し、両手を離して新聞を読む。

 しばらくして、青宮霊園に到着した。


 青宮霊園。緑豊かな自然公園だ。

 内部の生態系が日々変化しているが、その美しい景観が変わることはない。


 入り口前で停車した大和は、スカアハから降りて礼を言った。


「サンキュー。用があったらまた呼ぶ」

『いつでもお呼びください』


 最後まで慇懃な態度を崩さず、スカアハは異空間へと消えていった。

 大和は傍らにあったゴミ箱に新聞を投げ入れる。


(ここなら、多少暴れても目立たねぇだろう)


 そう思いながら歩いていると、一人の女が目に入った。


 褐色肌の美少女。

 容姿的年齢は十代半ばほどで、ダークシルバーの髪を腰まで伸ばしている。異様に長いアホ毛がまるで意思を持つかのように揺れ動いていた。

 瞳は暁のような真紅色。神秘的だが不気味さが勝る。

 スタイルは抜群で、ボン・キュ・ボンのナイスバディ。漆黒のライダースーツがその魅力的な肢体をハッキリと浮かび上がらせていた。


 整い過ぎた顔立ちは最早例える言葉を見つけられない。

 美の女神に並ぶと言っても過言ではないレベルだ。

 やや童顔であり、美しさより可愛らしさが勝る。


「げぇ」


 大和は変な声を出した。

 まるで苦手な相手にでも会ったかのような反応だ。

 逆に美少女は満面の笑みで近寄ってくる。


「やぁ大和、久々だね♪」

「何してやがる。ニャルラト──」


 大和が名前を言おうとすると、美少女は止めるように抱きついた。


「だ~め。僕のことは愛情を込めて「ナイア」って呼んでよ♡」

「…………」


 大和は、それはもう酷い顔をしていた。


「ぶー! 何だよその苦虫を噛み潰したような顔は!」

「的確な表現だな。さっさと失せろ」

「ひっど~い! わざわざ会いに来てあげたのに、そんな言い方はないんじゃないかな!」

「うぜぇ」


 プンプンとわざとらしく怒る美少女──ナイアに、大和は露骨に嫌そうな顔をする。


 そんな彼にナイアは告げた。


「ねぇ大和!」

「なんだよ」

「僕のダーリンになって♡」

「嫌だね」

「僕だけのダーリンになって♡」

「絶対に嫌だ」


 ナイアはめげずに早口でまくしたてる。


「何で? 絶対に不自由させないよ? お金もお酒も闘争も、全部準備するよ?」

「断る。何度目だ」

「正確な数字を言ってあげようか? 14桁はいくよ」

「流石に面倒くせぇ。離れろ」


 大和はナイアを無理やり引き剥す。

 しかしナイアは諦めずに大和のマントにしがみついた。


「ああ~ん! お願い大和~! 僕のダーリンになって~! せめて24時間ずっと傍にいて~!」

「……ハァ」


 大和は振り返ると、バランスを崩したナイアを抱きとめる。

 そして淡く輝く銀髪を指ですいた。


「面倒くせぇ女だよ、お前は」

「っ」

「大人しくしてたら今夜可愛がってやる。約束だ」

「……うん♡ 約束だよ?」

「ああ」


 大和はナイアの額にキスをする。

 ナイアは顔を真っ赤にした。



 ◆◆



「運が悪かった」


 大和は頭をかく。

 ナイアという女は、大和でも手を焼くほどの存在だった。


 しばらくして、青宮霊園の中心地に辿りつく。

 しっかりと整備された草原だ。

 大和は辺りを見渡すと、腕時計で現在時刻を確認する。


「そろそろか……」


 そう呟くと、どこからともなく腐臭が漂いはじめた。

 名状しがたい悪臭である。


 青みがかかった煙が所々から噴き出していた。

 それは不気味な四足歩行のバケモノに凝り固まると、注射器のような舌を大和に向ける。


「悪いが、そういうキスはお断りだ」


 大和は射出された舌を掴み、引きちぎった。

 驚きと苦痛で暴れるバケモノを、そのまま無造作に掴み上げて引き裂く。

 不老不死であるはずの化け物が、今の一撃で絶命した。


 しかし、一匹だけではない。

 続々と姿を現す。


 大和は笑った。


「さぁ、遊ぼうかワンちゃん。……いいや、犬じゃなくて犬みてぇなバケモノだったか?」


 ティンダロスの猟犬。

 彼らは獲物の匂いを上書きした邪魔者を食い殺さんと牙を剥く。

 その矮小な体躯に溢れんばかりの憎悪を抱いて、一斉に飛びあがった。


 大和は暗い笑みを浮かべ、指の骨をバキバキと鳴らした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 特殊性癖の某ロボ系主人公からババア扱いされた方のイメージでしたので、ナイアさんの外見が10代後半と明記されたのがちょい驚き。 (這い寄れ!に寄せたのでしょうか?)
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