五話「救出」
豪傑が空を跳び、テールライトの一つに映し出される。
その凶悪な笑顔を見た住民たちは顔面を蒼白にした。
動いている。
あの男が。
世界最強の殺し屋が──
「大和だァァっ!!」
「緊急警報を鳴らせ! アイツが暴れたら区の一つや二つじゃ済まねぇぞ!」
止められない。
故に逃げるしかない。
過ぎ去るのをただ待つしかない。
彼は、意思を持つ天変地異なのだ。
古今独歩。天下無双。
邪神すら畏れる、世界最強の武術家。
何キロメートルもの跳躍を果たした大和は大通りへと着地する。
それだけで道路が陥没し、車両たちが宙を舞う。
住民たちは吹き飛ばされそうになりながらも必死に逃げていた。
大和の肩には浴衣を着た奇妙な三毛猫が貼りついていた。
情報屋のミケである。
「旦那ァ! 500メートル先で大怪獣バトルが起こってます! 進行方向です! どうしやすか!」
「面倒くせぇ、薙ぎ倒していくぞ」
「ひぇ~! あいあいさ~!」
高層ビルを薙ぎ倒しながら大喧嘩をしている怪獣と巨大ロボ。
それを見た大和は鼻を鳴らすと、再度跳躍した。
一瞬で怪獣たちの眼前に迫る。
「邪魔だ、ボケ共」
恐竜にも似た怪獣の顔面に裏拳を放つ。
それだけで怪獣は吹き飛び、倒れ込んだ。
隣にいた巨大ロボも拳骨で叩き落とす。
中央区に甚大な被害がもたらされた。
ミケは思わず口を押さえる。
「ひょえええ……! やり過ぎアクションですぜ! 旦那!」
「無駄口はいい。この女の居場所をもっと正確に教えろ」
手渡された写真をミケはほむほむと見つめる。
彼は「みゃ!」と喉を鳴らすと、進行方向を肉球で指した。
「東区手前の、あっこの廃墟にいるとの情報が入ってきていますにゃ!」
「サンキュー、流石デスシティきっての情報屋。報酬は弾ませて貰う、また後でな」
「はいにゃ~!! 楽しみにしていますにゃ~!!」
ミケは持ち前の俊敏さで大和の肩から飛び降りると、屋上から彼を見送る。
大和は魔忍──百合がいる廃墟へと突撃していった。
◆◆
妖剣士、彌勒は百合を弄ぶことに執心していた。
触手越しに伝わる彼女の恥辱、憎悪。
それらが腐った心を掻き立てる。
「やめ、ろ……っ。私は、お前なんかに屈しないっ」
「わからぬか? 堕とそうと思えば何時でも堕とせるのだ」
「馬鹿を、言え……っ」
敏感になり過ぎた肢体に触手が伝う。
百合は唇を噛みしめながら震えていた。
百合の意識が途切れそうになった──その時。
肉で覆われていた扉が破られる。
侵入者だ。
彌勒はすぐに臨戦態勢に入る。
「何奴!!」
その視線の先には、褐色肌の美丈夫がいた。
真紅のマントを靡かせている。
彼は部屋をグルリと見渡すと、灰色の三白眼を細めた。
「悪趣味だな」
彌勒は彼を知っていた。
否、デスシティにいて彼の名を知らない者などいない。
彌勒は呻く様に呟く。
「大和……」
「その女は俺が預かる。退け」
「……嫌だと言ったら?」
彌勒は背に帯びていた薙刀の如き大太刀を抜き放つ。
しかし、その大太刀ごと上半身が横にズレた。
大和は血糊の付いた二本指を払う。
彌勒を一瞬で両断したのだ。
デスシティの住民であり、それなりの実力を有していた彌勒。
しかし、今回は相手が悪すぎた。
彼は血を吐きながら遺言を残す。
「楽しみだな……貴様が修羅のままなのか」
「俺にもわかる言葉で話せ」
ズレた上半身が地面へと落ちる。
呼応するように触手も力を無くし、百合の肢体の上で眠った。
百合は朧げな意識の中で、自分を助けてくれた男に礼を言う。
(ありがとう……、そしてすまない……っ)
性の熱にうなされながら、百合は気を失った。
大和が百合を助け出すのに五分もかからなかった。
しかし、そう簡単に話は終わらない。
大和に比肩しうる剣豪が、その重い腰を上げたところだった。




