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魔界都市備忘録  作者: パイナップルの妖精
第七章「魔忍伝」
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五話「救出」



 豪傑が空を跳び、テールライトの一つに映し出される。

 その凶悪な笑顔を見た住民たちは顔面を蒼白にした。


 動いている。

 あの男が。

 世界最強の殺し屋が──


「大和だァァっ!!」

「緊急警報を鳴らせ! アイツが暴れたら区の一つや二つじゃ済まねぇぞ!」


 止められない。

 故に逃げるしかない。

 過ぎ去るのをただ待つしかない。


 彼は、意思を持つ天変地異なのだ。


 古今独歩。天下無双。

 邪神すら畏れる、世界最強の武術家。


 何キロメートルもの跳躍を果たした大和は大通りへと着地する。

 それだけで道路が陥没し、車両たちが宙を舞う。

 住民たちは吹き飛ばされそうになりながらも必死に逃げていた。


 大和の肩には浴衣を着た奇妙な三毛猫が貼りついていた。

 情報屋のミケである。


「旦那ァ! 500メートル先で大怪獣バトルが起こってます! 進行方向です! どうしやすか!」

「面倒くせぇ、薙ぎ倒していくぞ」

「ひぇ~! あいあいさ~!」


 高層ビルを薙ぎ倒しながら大喧嘩をしている怪獣と巨大ロボ。

 それを見た大和は鼻を鳴らすと、再度跳躍した。

 一瞬で怪獣たちの眼前に迫る。


「邪魔だ、ボケ共」


 恐竜にも似た怪獣の顔面に裏拳を放つ。

 それだけで怪獣は吹き飛び、倒れ込んだ。

 隣にいた巨大ロボも拳骨で叩き落とす。


 中央区に甚大な被害がもたらされた。

 ミケは思わず口を押さえる。


「ひょえええ……! やり過ぎアクションですぜ! 旦那!」

「無駄口はいい。この女の居場所をもっと正確に教えろ」


 手渡された写真をミケはほむほむと見つめる。

 彼は「みゃ!」と喉を鳴らすと、進行方向を肉球で指した。


「東区手前の、あっこの廃墟にいるとの情報が入ってきていますにゃ!」

「サンキュー、流石デスシティきっての情報屋。報酬は弾ませて貰う、また後でな」

「はいにゃ~!! 楽しみにしていますにゃ~!!」


 ミケは持ち前の俊敏さで大和の肩から飛び降りると、屋上から彼を見送る。

 大和は魔忍──百合(ゆり)がいる廃墟へと突撃していった。



 ◆◆



 妖剣士、彌勒(みろく)は百合を弄ぶことに執心していた。

 触手越しに伝わる彼女の恥辱、憎悪。

 それらが腐った心を掻き立てる。


「やめ、ろ……っ。私は、お前なんかに屈しないっ」

「わからぬか? 堕とそうと思えば何時でも堕とせるのだ」

「馬鹿を、言え……っ」


 敏感になり過ぎた肢体に触手が伝う。

 百合は唇を噛みしめながら震えていた。


 百合の意識が途切れそうになった──その時。

 肉で覆われていた扉が破られる。


 侵入者だ。

 彌勒はすぐに臨戦態勢に入る。


「何奴!!」


 その視線の先には、褐色肌の美丈夫がいた。

 真紅のマントを靡かせている。

 彼は部屋をグルリと見渡すと、灰色の三白眼を細めた。


「悪趣味だな」


 彌勒は彼を知っていた。

 否、デスシティにいて彼の名を知らない者などいない。

 彌勒は呻く様に呟く。


「大和……」

「その女は俺が預かる。退け」

「……嫌だと言ったら?」


 彌勒は背に帯びていた薙刀(なぎなた)の如き大太刀を抜き放つ。

 しかし、その大太刀ごと上半身が横にズレた。


 大和は血糊の付いた二本指を払う。

 彌勒を一瞬で両断したのだ。


 デスシティの住民であり、それなりの実力を有していた彌勒。

 しかし、今回は相手が悪すぎた。


 彼は血を吐きながら遺言を残す。


「楽しみだな……貴様が修羅のままなのか」

「俺にもわかる言葉で話せ」


 ズレた上半身が地面へと落ちる。

 呼応するように触手も力を無くし、百合の肢体の上で眠った。


 百合は朧げな意識の中で、自分を助けてくれた男に礼を言う。


(ありがとう……、そしてすまない……っ)


 性の熱にうなされながら、百合は気を失った。


 大和が百合を助け出すのに五分もかからなかった。

 しかし、そう簡単に話は終わらない。


 大和に比肩しうる剣豪が、その重い腰を上げたところだった。



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