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魔界都市備忘録  作者: パイナップルの妖精
第七章「魔忍伝」
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三話「悪女」



「ひぇぇ!! こんなの絶対無理だよ~っ!!」


 同時刻。

 百合(ゆり)の親友でありライバルである牡丹(ぼたん)は、涙目で中央区を駆け回っていた。

 跳躍と共に紫色のマフラーを靡かせ、赤色の装衣で風を切っている。


「あっちに逃げたぞ!! 追え!!」

「待てやァ!!」

「ひゃぁぁぁ!!」


 建物の上を跳び回る牡丹。

 その先にある巨大ホログラムで、人外のニュースキャスターが臨時速報を告げていた。


『速報です。現在、特殊な能力を持つくノ一「魔忍」がデスシティを試験会場にしています。奴隷商会、及び暴力団が懸賞金をかけていますので、皆様奮ってご参加ください。詳細は電子掲示板に記載されています。繰り返します──』


「どういう事よ!! なんなのこの都市!!?」


 あまりの報道内容に喚き散らしていると、背後から追手が跳んでくる。


「おお!! いたいた!!」

「マジでいるじゃん! 魔忍!」


「ひょぇぇぇ!!? 増えてる!? さっきより増えてるわよね!?」


 牡丹は逃亡を再開する。

 魔界都市を訪れて未だ数分──牡丹は絶対絶命の危機に陥っていた。



 ◆◆



 魔忍の「隠形(おんぎょう)の術」は一般のものとは違う。

 気配ではなく存在感を薄める。

 故に衣装の派手さなどは関係無く、相手を欺くことができる──筈だった。


 気配遮断の技術が100種類以上もあるデスシティでは存在感を薄める「程度」のものは通用しない。

 牡丹はデスシティに来て早々に見つかってしまった。


「しかも速い!? 追い付かれる!!」


 日々過酷な鍛錬を積んでいる魔忍の筋肉はしなやかであり、瞬発力と持久力を兼ね備えている。

 その気になれば全速力の自動車も追い抜ける彼女たちの脚力に、住民たちは平然と追い付いてみせた。


 賞金稼ぎは強化合成繊維に入れ替えた太腿(ふともも)で数十メートルの距離を跳び、アンドロイドはジェットエンジンで空を駆ける。

 人外たちは生来の筋力によって容易に重力に逆らい、ヤクザたちは簡易魔術や劇薬の使用で強化した身体能力を遺憾なく発揮している。


 瞬く間に並走された牡丹は、思わず悲鳴を上げた。


「何よこの都市ー!!? おかしいでしょ!! 屋上跳んでるのよ!? 何で追い付いてこられるの!? まさか全員歴戦の強者とか!?」


 否。

 彼らは表世界でいうところの一般人だ。

 つまり、牡丹たちは「その程度の存在」なのだ。


 そんなことなど露知らず──牡丹は魔忍特有の奥義を発動しようとしていた。

 両手で印を結び、霊力と妖力を融合──従来より強力な忍法を練り上げる。


 これぞ魔忍の奥義、「魔忍法」。


 魔忍の始祖、加藤段蔵が得意とする強力無比な忍法。

 その性質は魔術、魔法に近い。

 威力はお墨付きだ。


「魔忍法、業火龍の術!!」


 獄炎で編まれた龍が現れ、住民たちは呑み込まれる。

 摂氏1000℃以上を誇る業火は建造物を容易に溶かしてみせた。

 暴れ回るこの火炎龍は牡丹の必殺技。

 安易に放っていい技では無いが、牡丹はやむを得ないと割り切る。


 しかし、住民たちは平然と出てきた。

 しかも、五体満足で。


 牡丹は驚愕で声も出せないでいた。


「あっちち……! ちっと舐めてたぜ!」

「やるじゃねぇの! こりゃ高値で売れそうだ! 顔も良いしな!」


 火炎とは、最も効率的に生物にダメージを与えられる方法だ。

 となれば、デスシティで対策が練られていない筈がない。

 対火炎の防護障壁、防火繊維の衣服、戦闘用のクリームなど──


 デスシティでは比較的常識的な装備に、牡丹の魔忍法は完封されてしまった。

 牡丹は顔を真っ青にして、そして──


「ぴゃぁぁぁぁぁ!! バケモノだらけぇぇぇぇ!!!! 誰か助けてぇぇぇぇぇ!!!!」


 マジ泣きして逃亡した。



 ◆◆



 牡丹は地上へ下りると、街道を駆け抜ける。

 人込みに紛れて誤魔化そうとしているのだ。

 しかし、それも意味を成さない。


 牡丹が魔忍だとわかった瞬間、雑踏は道を開ける。

 もしくは追手側に加わる。


 状況はむしろ悪化していた。

 どんどん追い詰められていく。


 牡丹は努力しているが、デスシティの住民たちの方が上手(うわて)だった。


 いよいよ追い付かれそうになった、その時──

 牡丹は誰かとぶつかり、尻餅を付く。


「あぅ! あぅあぅあぅ……!」


 狼狽える牡丹。

 口をパクパクさせながら、視線を上げる。


「アア? 気ぃ付けろやお嬢ちゃん」


 片眉を上げながら牡丹を見下ろしたのは、褐色肌の美丈夫だった。

 その美貌は男として極みに達している。

 逞しく、そして妖艶な益荒男。

 あまりの美貌に、牡丹は思わず見惚れてしまった。


 彼は溜息を吐きながら手を差し出す。


「ほら、大丈夫か?」


 呆れ交じりに差し伸べられたその手を、牡丹は涙目で取った。

 そして懇願する。


「お願いですっ!! 助けてください!!」



 ◆◆



 褐色肌の美丈夫──大和。

 牡丹が彼に助けを求めたのは、何もその美貌に惚れたからではない。

 それもあるが、牡丹はこれでかなりあざとい性格をしていた。


 手を取った男。

 その身から溢れ出るオーラはまさしく絶対強者。

 チラリと垣間見える良質な筋肉と大柄な体格を鑑みれば、強者なのは一目瞭然だ。

 かつ、手を差し伸べてくれたほのかな優しさ──


 牡丹は(大和)に付け入ろうとしていた。


 彼女が大和に助けを求めたことで、追手たちは苦渋に満ちた表情をする。


「大和……ッ」

「オイ、ヤベェぞ……」

「お前ら、無闇に手を出すなよ!!」


(よっし!!)


 牡丹は内心ガッツポーズをとる。

 やはり彼を頼るのは正解だった。


 牡丹は猫撫で声で懇願をはじめる。


「お願いしますっ、助けてください。助けてくれたら、いっぱいサービスしますから♡」

「そう言われてもなぁ……お前、今話題の魔忍だろう? 面倒くせぇのはなぁ」


 露骨に嫌そうな顔をする大和。

 牡丹はすかさず早熟した肢体をすり付けた。


「そこを何とか……っ、精一杯奉仕するので♡」


 牡丹は大和の大きな手を自分の乳房へと誘導する。

 大和は口笛を吹いた。


「~♪ 素直に媚びてくるスタイル、嫌いじゃないぜ。……わかった」

「!!」

「今夜俺の相手をしてくれるってんなら、守ってやるよ」

「勿論♡ ありがとうございますぅ♡」


 抱きつき、ゴロゴロと喉を鳴らす牡丹。

 大和は彼女の腰に手を回して抱き寄せた。

 そして周囲の有象無象に告げる。


「聞いてたか? コイツは今から俺の女だ。手を出すってんなら容赦しねぇぞ」

「きゃー♡ 頼もしい~♡」


 牡丹──

 くノ一としての素質は、ある意味天性のものだった。

 強運と、「悪女」として媚びる才能。


 大和という無敵の男を味方に付けた時点で、彼女の勝ちは確定した。



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― 新着の感想 ―
[一言] こういう運を重要視してるんだろうなって試験ですね 後は安全地帯を見極める観察力
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